ブログ

ハウスの換気装置について① ー換気装置の種類と側窓換気装置ー

園芸用ハウスには、内部の空気と外部の空気の交換を行うための換気装置が必ず設けられています換気装置の主な目的として日射により上昇するハウス内温度の調節があります。また、作物の蒸散や温度の上下により変動するハウス内相対湿度の調節や、外気からのCO2や気流の取り込みによる光合成の促進などもあります文献1)。本記事では、各種換気装置の種類と、その中で側窓換気装置の概要や特徴について紹介いたします。

換気装置の種類

ハウスの換気装置には、大別すると自然換気装置と強制換気装置があります。前者はハウスの開口部に開閉装置を設け、その開口面積などを調整しながら換気を行うものです。また後者はハウスの妻面などに設置した換気扇による通風で換気を行うものです。前者は換気のためのエネルギー投入が軽微であり、後者はモーター駆動のための電力を連続的に消費する特徴があります。また自然換気装置は、開口部と開閉装置の違いにより、側窓換気装置、天窓換気装置、谷換気装置に分類されます。以下に側窓換気装置についてご紹介します。

側窓換気装置

 

側窓換気装置とは

 

側窓換気装置は、ハウスの側窓(側面開口部)のフィルムの巻き上げにより換気を行うものです。巻き上げるフィルムは軟質系のものがほとんどで、農ビ(塩化ビニル系樹脂フィルム)に比べ伸縮性が小さい農PO(ポリオレフィン系樹脂フィルム)が多く用いられます。またフィルムを巻き上げ用パイプにパッカーで固定し、パイプを回転させることで側窓の開閉を行います。開閉の幅を調整することで換気量やハウス内温度などの調整を行います。

 

側窓換気装置と防虫ネットを展張した開口部

手動と自動の側窓換気装置

 

側窓換気装置では、巻き上げ用パイプを手動で回転させるものと、モーターにより自動で回転させるものがあります。

 

側窓換気では手動によるものが多くみられます。手動の場合には巻き上げ用パイプに取り付けた減速ギヤ付きの巻き上げ器によりフィルムの開閉作業を行います。フィルムの全開と全閉の他、巻き上げ器の機能で好みの位置で固定することも可能になります。減速ギアにより巻き上げの作業負荷は軽減されるものの、ハウスの奥行きが長くなるとかなりの重量のフィルムやパイプを巻き上げるため、それなりの力が必要になります。奥行き100m程度の長大なハウスの場合には、巻き上げ用パイプを2分割し、その双方に巻き上げ器を取り付けるケースもみられます。

 

手動巻き上げによる側窓換気装置

パイプハウスなどの多棟管理で、手動での開閉作業に時間を要し省力化を行う必要がある場合やハウス内温度を制御したい場合など、自動化された側窓換気装置が用いられます。巻き上げ用のモーターはユニット化されたものが各社から提供されており、それらには開閉の停止位置を定めるリミット調整機能が内蔵されています。モーターのユニットは重量物であるため、それを支えるために可動式の伸縮パイプなどが必要となります。またユニットの荷重によりフィルムが伸びたり、巻き上げ用パイプがたわむこともあるため、伸縮性の小さいベルトをフィルムと一緒に巻き上げる方法も多く取られています。

 

巻き上げモーターによる自動換気が可能な側窓換気装置

側窓換気装置用のモーターの多くはDC24VやDC12Vで駆動するもので、供給するDC電源の電極を切り替えることで1つのモーターでの開閉動作を可能としています。また中には、太陽電池とバッテリーと組み合わせ、無電源でも動作可能なものもみられます。

側窓換気装置の動作と利用法

手動動作による場合には、頻繁な開け閉めや微妙な開閉幅の調節は、労力の面からは難しく、またハウスが多数ある場合にはさらに困難になります。そのため手動の場合、朝に巻き上げて、夕方に閉めるといった簡単な開閉動作が主な利用法になると考えられます。

モーターによる自動動作の場合には、手動による場合に比べ、頻繁で複雑な動作が可能になります。例えばセンサーによる温度調整のコントローラと組み合わせ、微妙な開閉を行いながら、ある程度の幅にハウス内温度を調節することが可能となります。また、こうした温度制御を行わず、スイッチやタイマーと組み合わせ、モーターの正逆動作による開閉操作の自動化のみを行う場合もあります。

側窓換気装置の換気性能と肩換気

単棟のパイプハウスの場合、側窓換気が主要な換気手段となります。その場合、巻き上げによる開口幅が換気性能を左右し、開口幅が大きいほど側窓での外気との換気が促進され、また風速や風向によっては、風が直接ハウス内を抜けていくことも期待されます。特に果菜類の夏秋栽培や抑制栽培では、高温対策として一定の高さの作物群落に対し側窓から吹き込む気流を期待し、大きな開口幅を取るケースがみられます。

さらに巻き上げ幅の上限をパイプハウスの肩部(側面から頂部にかけてのアーチの部分)まで高めるケースもあり、これによる換気を「肩換気」と呼んでいます。肩換気では開口幅をさらに大きく取ることが可能なため、高い換気性能が期待できます。また肩換気での換気装置は側窓換気装置と同様のものとなります。そこでは高い位置に巻き上げ用パイプがあるため、フレキシブルジョイントを経由して低い位置で手動巻き上げ作業を行う場合や、自動換気用のモーターを用いる場合がみられます。

肩換気用のフィルムを巻き上げた状態のパイプハウス
肩換気用の巻き上げモーター

側窓換気装置の2段化

前述の肩換気を行う場合や、軒高の高い鉄骨ハウスの場合などでは、側窓換気装置を2段で取り付けるケースがみられます。側窓換気での開口幅が大きすぎると、開閉動作に時間がかかることや、微妙な温度調節が難しくなることなどから、開口部の分割と装置の2段化がされています。

軒が比較的高いハウスでの側窓の二段換気(上段が換気モーターによる自動換気)と妻面の1段換気
側窓換気と肩換気を2段化したパイプハウス

その場合には上段を自動、下段を手動とし、季節により手動部分を常時全閉もしくは全開に、また自動部分を温度の変化に応じて開閉させるといった使い方がされています。

側窓換気装置の強風対策

側窓換気装置には、構造的に強風で巻き上げのフィルムがあおられたり破れたりするリスクがあります。そのため台風襲来時などにはフィルムをスプリングなどで固定し、強風によるバタつきを抑えるよう対策を取る必要があります。また自動換気装置の場合には、台風時の停電対策を考慮する必要があります。これは台風通過後の晴天で急な温度上昇が発生しやすいためで、バッテリー等の非常用電源を確保することが考えられます。その他に巻き上げ用モーターには、電動ドライバーを接続して回転操作を行う機能が内蔵されているものもあり、停電時のバックアップになるものです。

側窓換気装置の無いハウス

高軒高のオランダ型フェンローハウスなどでは、側窓そのものが無い構造のものが多くみられます。フェンローハウスはヘクタール規模のものが多く、また作物の群落が3m以上あるようなハイワイヤー栽培を行うケースが多くあり、側窓から外気が流入したとしても群落に気流が遮られるため、換気の効果があまり見込めないものとされています。そうした理由から、大規模なフェンローハウスには側窓換気装置は設置されず、天窓換気装置の利用が主流となっています。その場合のハウス側面は被覆資材を固定で設置する形になります。ただし、50a程度の比較的小規模なものや、夏越し栽培を行うためにより換気性能を重視するフェンローハウスの場合には、側窓換気装置を設置するケースもみられます。

また換気扇による強制換気を行うハウスでも、側窓換気装置をはじめ自然換気装置そのものが無いもの、あったとしても常時閉じているものがみられます。換気扇による気流の調節によりハウス内の温湿度の調整を行うといった高度な制御が行われる場合もあり、外部の風の影響を受ける側窓や天窓での換気はせず、ハウスを半密閉化するという考えにもとづいているものと思われます。

今後の展開

換気装置の種類と、パイプハウスで中心的に利用されている側窓換気装置について、ご紹介しました。側窓換気装置の特徴として、大きなエネルギーを用いることなく温度調節の効果が得られることがあげられます。手動の場合はもとより、自動の場合でも巻き上げ用のモーター動作も間欠で、常に動いているものではなく消費電力は小さいものになります。

側窓換気装置は、高温期には全開状態となることが多く、開閉動作の出番は少ないものとなりますが、厳寒期には日射によるハウス内温度が上昇する際に他の換気装置と合わせ利用する機会が多くあります。導入コストが比較的安価であり、ランニングコストも小さく、省力効果も高い側窓自動換気装置の利活用は、パイプハウスによる規模拡大や作物品質向上に対するソリューションの一つになるものと考えられます。

参考文献

  1. 佐瀬勘紀、「自然換気」、施設園芸・植物工場ハンドブック 第6章 換気・気流制御(2015)
タイトルとURLをコピーしました