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遮光とハウスの高温対策② ー外部遮光資材・屋根散水・遮熱資材についてー

近年は猛暑の発生が恒常的となり、夏期の施設栽培はますます困難なものとなっています。高温障害の発生や、収量や品質の低下とともに、熱中症などによる作業者の健康と安全への影響も危惧されています。今後も高温対策を適切に行い、こうした問題を緩和することが求められています。本記事では、高温対策のひとつである外部遮光について、用いる遮光資材や、屋根散水との組み合わせ、遮熱資材の塗布によるものを紹介します

外部遮光資材の種類

 

外部遮光資材は一般的に白色系やシルバー系のもので、太陽光の反射や吸収がしやすい素材のものが用いられます。また強い遮光を行う場合は黒色系のものを用いることもあります。製品の仕様としておおよその遮光率が示されていますので、用途に応じて選ぶ必要があります。

 

素材的にはネット状や網み形状など通気性のあるものが一般的で、擦れ等に強いもの、巻き上げがスムースに行えるもの、紫外線劣化に対応した耐候性のあるものなど、様々なものがあります。

 

遮光資材の製品例 (イノベックス:遮光ネット(プロ向け)) 2024.6.24リンク確認

外部遮光と屋根散水

 

パイプハウスなどの屋根面に遮光資材を展張した際に、遮光資材に潅水チューブによる散水を行い気化冷却を促進する方式があります。一般的に屋根散水と呼ばれるもので、固定張りの外部遮光と組み合わせて安価に取り組めるものです。

 

文献1)では、鳥取県での屋根散水の試験例が紹介されています。散水チューブ付きシルバー遮光ネット(遮光率40%)を使用とあり、遮光ネットをパイプハウス屋根面に全面展張し、屋根面の頂部に散水チューブを設置し、散水により遮光ネットを濡らしながら気化冷却を行うものです。昇温抑制効果が2℃程度で、1回当たりの散水は15分以上、休止を15分以内で昇温抑制効果が発揮されるとあります。屋根面の被覆資材(農ビや農PO)は遮光下であっても太陽光により熱を持ち、そこからハウス内への放熱もあるため、被覆資材の温度を気化冷却により低下させることでの効果があると考えられます。

 

農研機構と群馬県、栃木県による「屋根散水による施設内冷却技術マニュアル」文献2)では、屋根散水の長所と短所として、以下をあげています。

 

   長所1:設置コストの安さ

   長所2:設置・撤去作業が簡単

   短所1:水質のよい水が大量に必要

   短所2:冷却効果は天候に左右

 

長所の2点は、固定張りの外部遮光資材との組み合わせで安価かつ簡易に設置が可能であることから言えるものです。

 

一方で短所1では、良質な地下水源が豊富にあることが求められるということで、利用地域が限定される短所と言えます。鉄分が多い地下水を用いた際には、遮光資材や屋根面被覆資材が汚れるおそれがあります。

 

なお、栃木県や茨城県では地下水を内張りカーテン上に散水して冬期の保温を行うウオーターカーテンが普及しています。この方式も良質な地下水を大量に必要とするため、屋根散水と同様に地域性があるものです。また短所2では、気化冷却が働くには日射が必要となり、曇天時の冷却効果が低下するというものです。

 

以上のように一長一短のある方式ですが、外部遮光資材を展張している、もしくは展張の予定があるハウスには、屋根散水の導入も簡易に可能であり、水源が確保できる地域であれば選択肢の一つとなるかもしれません。

 

 

遮熱資材塗布による外部遮光

 

近年では新たな外部遮光の方法として、塗料状の遮熱資材の塗布によるものが広がっています。これは動噴などでハウス屋根面や側面に希釈した遮熱資材を吹き付けることで遮熱を行うものです。遮熱資材は遮熱剤、遮光剤、遮光資材などと呼ばれることもあり、正確な用語の定義はされていないようですが、ここでは遮熱資材とします。

遮熱資材が塗布されたハウス屋根面

遮熱資材には様々なタイプがありますが、特徴的な製品として主に太陽光の近赤外線領域の透過を抑制し、光合成有効放射領域はできるだけ透過する性質のものがあります。これは熱線となる近赤外線領域のカットによる遮熱効果を狙いつつ、光合成に有効な領域の多くを透過させ植物の生育への影響を極力抑えるという考えによるものです。

 

代表的な製品として、オランダ製のQ HEATがあります。製造元のHERMADIX社では、Q HEATについて下記のデータを公開しています。

* Lifespan is measured on the basis of an average southern European climate. Extreme weather conditions may have a slight effect on the table values.
出典:Q Heat A shading agent for a cooler greenhouse climate and maximum growing light、HERMADIX社WEBサイト

上表では、熱線となる近紫外線(NIR:near-infrared light)のカット率に対し、光合成有効放射(PAR:Photosynthetically Active Radiation)のカット率は、面積当たりの使用量にもよりますが、おおむね半分程度となっています。このことから、積極的に遮熱を行いながら、植物の光合成をなるべく抑制しないような機能があることが分かります。

 

また使用量を増やす(缶数を多くする)ことで、耐用期間は長く、雨への耐候性も強化されることがわかります。実際は使用量が少なければ雨で流されやすくなり、遮熱効果も長くは続かないことになるでしょう。そのため使用量を増やし厚く塗布することで効果を長持ちさせたり、春先に一度塗布を行い、夏期にもう一度塗布して二度塗りすることで高温期の効果を高めるといった使用法もみられます。

 

なお、遮熱資材には専用の剥離剤(リムーバー)も用意されており、遮熱が不要となる秋期に使用し、屋根面をクリアな状態に戻す場合もあります。また剥離剤は用いず、秋雨や降雪を利用して自然に流亡させる場合もみられます。その他、光合成有効放射領域を選択的に透過させるような機能が無く、単機能で価格も安い遮光剤と呼ばれる製品も販売されています。

 

今後の展開

 

ハウスの高温対策について、外部遮光の面からご紹介をしました。太陽光による室温の上昇を防ぐには外部遮光は有効な手段となりますが、他にも内部遮光や自然換気と強制換気、細霧冷房、ヒートポンプ冷房など、様々な高温対策の手段があります。実際の施設栽培では、こうした手段や技術を複数組み合わせながら相乗効果を狙うことになります。施設の設計や運用に際しては、様々な知識や情報を組み立てながら高温対策について検討する必要があると言えます。

参考文献

  1. ビニールハウスの屋根散水による高温期のハウス内昇温抑制、新しい技術第52集(平成26年度)鳥取県農林水産部試験場統括本部
  2. 屋根散水による施設内冷却技術マニュアル(2020)、農研機構、群馬県農業技術センター、栃木県農業試験場  
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