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ハウスの換気装置について② ー天窓換気装置、谷換気装置、防虫ネットー

ハウスの換気装置には、大別すると自然換気装置と強制換気装置があります。前者はハウスの開口部に開閉装置を設け、その開口面積などを調整しながら換気を行うものです。また後者はハウスの妻面などに設置した換気扇による痛風で換気を行うものです。また自然換気装置は、開口部と開閉装置の違いにより、側窓換気装置、天窓換気装置、谷換気装置等に分類されます。本記事では、自然換気装置のうち天窓換気装置、谷換気装置の概要と特徴など、加えて換気装置と組み合わせて用いる防虫ネットについてご紹介します

天窓換気装置

 

天窓換気装置は、ハウスの屋根開口部である天窓に取り付ける開閉装置です。また天窓は開口位置により両天窓、片天窓、およびオランダ式フェンローハウスでみられる千鳥式天窓などの種類があります。それらの天窓の開閉を行う天窓換気装置の多くはモーターによる自動化がされています。

 

両天窓

 

両天窓は、ハウス屋根面の頂部(棟)の両側に天窓がある構造のものを指します。その場合のハウス形状は、両屋根型(切妻型)文献1)のものが多くみられます。また一部にはオランダ型の高軒高フェンロー型のものもあります。

 

両屋根型ハウスの両天窓換気装置

両天窓の特徴の一つとして、ハウスの1屋根(1間口分)に2枚の天窓を持つことで、広い開口面積を確保できることがあります。そのことで換気性能も向上し、いわゆる「抜けの良い」環境が得られることがあります。また風向きにより、風下側の天窓を開き、風上側の天窓を閉じるといった別々の開閉動作を行うことも可能です。この場合には、強風で風上側の天窓があおられ破損することを防ぐ意味もあり、また風下側を開くことでのマイルドな換気を行う意味もあります。

 

両天窓での天窓換気装置は、天窓を跳ね上げる形で開閉動作を行うものが主流です。跳ね上げには回転軸に取り付けたアームを用いるもの、ラック&ピニオンを用いるものなどの方式があります。ラック&ピニオンでは、天窓を全開とする角度を大きく取ることが可能で、より高い換気性能が期待されます。また全閉時の気密度も高いことも特徴になります文献2)

 

両天窓での天窓換気装置は、基本的に片側の天窓ごとにモーターや回転軸などの装置が必要となります(大規模施設では複数の天窓を1つのモーターで同時に開閉する機構も導入されています)。また天窓も枠と窓といった構成部材がそれぞれに必要となるため、次項の片天窓の場合に比べ設備コストが高くなるデメリットがあります。一方で、高い換気性能や風向きに応じた細やかな換気など、性能面でのメリットがあると言えます。

 

片天窓

 

片天窓は、屋根部の片側のみに開口部がある構造のものを指します。その場合のハウス形状は両屋根型(切妻型)の他、丸屋根型のものもみられます。

丸屋根型ハウスの片天窓装置

片天窓では前述の両天窓に比べ開口面積が小さくなるというデメリットがあります。また両天窓では可能な風向きによる微妙な開閉動作も行うことはできません。一方で片天窓での天窓換気装置は、両天窓のものと同様なものであり、片側分のみ装備するため設備コストが小さいというメリットがあります。

 

ハウスの屋根ごとに開口方向を変えている片天窓装置

近年の片天窓には天窓の幅を1m以上などに広げ大型化したものもみられ、それらは片側分だけでもより開口面積を確保するよう設計がされています。一方で強度面から大型化には限界があります。

 

千鳥式天窓

 

千鳥式天窓は、長さ数m程度の天窓を屋根部の両側に千鳥に配置した構造のものを指します。オランダ型のフェンローハウスにみられる天窓になります。両天窓に比べ開口面積は半分程度かそれ以下となり、換気性能は劣ります。一方で千鳥式天窓ではモーターなどの駆動装置を集約し個数も少ないため、メインテナンスの回数や手間が削減されるメリットがあります(両天窓や片天窓でも大規模な場合には同様に駆動装置を集約した機構があります)。また千鳥式天窓では両天窓と同様に左右の天窓を独立して開閉動作させることで、風向きに応じた微妙な換気の調節も可能となります。

 

千鳥式天窓換気装置
千鳥式天窓換気装置(片側の開閉状況)

巻き上げ式天窓

 

一般的な開閉式の窓構造ではなく、側窓換気のようにフィルムを垂直に巻き上げたり巻き下げたりして換気を行う構造のものです。

巻き上げ式天窓換気装と巻き上げ用モーター

谷換気装置

 

谷換気は、主に連棟の丸屋根型ハウスの屋根面谷部(雨樋の両側)に開口部を設け換気を行う構造のものを指します。開口部には側窓換気装置と同様に、フィルムを巻き上げ用パイプで巻き取る装置を設置し、ハンドルによる手動やモーターによる自動の開閉動作を行います。手動操作の場合には労力面から頻繁な開閉は難しいため、朝に谷換気のフィルムを巻き上げ、夕方に閉めるといった簡単な運用が中心となります。また降雨時にハウス内に雨が入らないよう、そのための操作が必要になります。

換気用フィルムが閉じた状態の谷換気装置

自動谷換気装置では、開閉動作はタイマーや温度センサーにより自動化が可能です。1回当たりの開閉時間や温度変化に対する感度を設定することで微妙な開閉制御を行うコントローラもあります。また感雨センサーの信号により、降雨時にフィルムを閉じる制御も可能になります。

 

谷換気装置は天窓換気装置に比べ、簡易な構造で設備コストも圧縮されます。また構造的に天窓換気装置の設置が難しい屋根であっても、谷換気装置は比較的容易に取付けが可能です。なお谷換気装置は巻き上げパイプ1本ごとに巻き上げ用モーターが必要となり、メンテナンスの手間がかかります。

谷換気用モータと伸縮稼働式のアーム

谷換気装置の設置位置はハウス屋根面の谷部になるため、天窓に比べ屋根面頂部に熱気がたまりやすいというデメリットがあります。また開口部位置も天窓換気装置に比べ低く、換気性能も劣ると考えられます。そのため谷換気装置の開口幅を広げ、換気性能を高める工夫もみられますが、広げることには強度面から限界があります。

 

換気装置と防虫ネット

 

換気装置の開口部や吸気口には、防虫ネットを展張することが一般的です。これは主として外部からの病害虫の侵入を防止するためであり、特にトマト黄化葉巻病ウイルスを媒介するコナジラミ類や、キュウリ黄化えそ病ウイルスを媒介するアザミウマ類に対しては、厳重にネットを展張することが求められます。

両天窓に展張した防虫ネット(白色部分)

一方で病害虫の侵入防止のため、特に0.3~0.4mmといった目合いの小さい防虫ネットを展張した場合、換気を疎外する要因となり、強日射時にハウス内が高温となりやすい問題があります。そのため外部遮光資材の展張や遮熱材の塗布を行うことで、できるだけ高温の影響を避ける対処も必要になります。

側窓換気装置の巻き上げフィルムの内側に展張した防虫ネット

なお高軒高のフェンローハウスでは、地面から6m以上の位置に天窓があり病害虫の飛来が比較的少ないという考えで、防虫ネットの展張をしないケースもみられます。そのため換気性能はネット展張の場合に比べて良好になりますが、実際は病害虫の飛来は皆無とならないため、防除も必要になります。

アザミウマ類の侵入防止用の赤色防虫ネットを側窓に展張したパイプハウス

その他の防虫ネットの展張目的として、訪花昆虫の開口部からハウス外への飛散防止というものもあります。この場合の防虫ネットは大きな目合いのもので良いため、前述のような

高温の問題を考慮する必要は無いと考えられます。なお訪花昆虫としてマルハナバチを利用する場合には、生態系への影響を考慮した適切な管理として、施設の開口部等にネット展張するよう努めることが求められています文献3)

 

今後の展開

 

換気装置には以上のように様々な種類と利用法があります。また換気装置の動作により、ハウス内の温湿度やCO2濃度、気流などが影響を受けます。またそれらは作物の光合成や蒸散といった植物生理現象や、多湿や乾燥による病害虫発生にも影響を及ぼします。

 

また一つの換気装置の動作によって前述の様々な環境因子が影響を受けることから、ハウス環境のモニタリングや作物の生育を最適化するような環境制御のノウハウも重要になると言えるでしょう。

参考文献

  1. 奥島里美、「施設の種類と形式」、施設園芸・植物工場ハンドブック(2015)
  2. 佐瀬勘紀、「自然換気」、施設園芸・植物工場ハンドブック 第6章 換気・気流制御(2015)
  3. マルハナバチのいろは、農林水産省
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