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ナス栽培での悩み ー新技術の導入② 葉面積管理、仕立て方について

近年のナス栽培では、単為結果性品種1)の導入が進んでいます。従来は受粉のためのホルモン処理や訪花昆虫の利用が必要でしたが、それらを必要としない単為結果性品種の導入によって省力化やコスト低減がはかられています。単為結果性品種の導入は全国的に進んでおり、九州の主産地である福岡県や熊本県、また四国の産地の高知県などでも取組まれています。本記事では、そうした品種の変化や栽培技術の変化についていくつかご紹介し、新技術などの導入に際しての悩みにお答えできればと思います

 

葉面積管理の新技術

 

熊本県農業研究センターの参考文献2)には、単為結果性品種である「PC筑陽」について、従来品種の「筑陽」に比べ葉数が少なく個葉の葉面積が小さいため、LAI(葉面積指数)が期間を通じて低くなる、としています。「PC筑陽」のLAIは、11月~12月の摘心時期に2.3とピークになり、それ以降は2.0前後で推移し、一方の「筑陽」のLAIは摘心時期に3.7とピークで、それ以降も2.7前後で推移しており、大きな差がみられます。それらは積算受光量や光合成による乾物重生産にも影響し、収量の低下につながっています。同文献の栽培試験は2019年から2020年にかけてのもので、導入が始まった「PC筑陽」について従来品種との品種特性の違いから栽培が安定していない事例がみられる、としています。

 

福岡県農林総合試験場の参考文献3)には、「PC筑陽」について側枝の生育が「筑陽」より遅いため樹勢や収量が低下しやすい、としています。またその対策として「筑陽」より夜間の加温温度を高めること、CO2施用と日中加温を行うこと(H29成果情報:参考文献4))としています。その一方で「PC筑陽」は「筑陽」より葉が小さく個葉の光合成速度が遅いため、光合成量を増やすにはナス群落への日射量を増やすとともに、受光量(葉面積)を増大できる方法を開発する必要がある、としています。具体的には、被覆資材を用いて、ハウス内の光環境を改善するとともに、栽植密度を高めることで受光量を高め、栽培期間を通じて生産量を増加させる栽培技術を開発とあり、 散乱光フィルムや白色マルチの利用により商品果収量が増加すること、栽植密度を株間48㎝と、対照区の株間60㎝から2割密植にすると、葉面積指数(LAI)が最大0.7向上し、適正値である3.0前後に維持できる期間が長くなり商品果収量が増加することを示しています。

 

福岡県の南筑後普及指導センターは、参考文献5)で「ナス栽培においてLAI(葉面積指数)を把握することは、十分な光合成量を確保することにつながる」としています。また福岡県の朝倉普及指導センターは、参考文献6)でLAIの測定について「全ての葉を実測するしかなかった従来法よりも簡易な方法として、スマートフォンのカメラで撮影した群落画像を基にLAIを測定する方法により、10月から定期的に調査を行ってきました。」とし、地面上にスマートフォンを上向きに置き、ナスの群落の下側の画像を撮影している様子を示しています。こうした栽培の現場で実施可能な方法によりナスのLAIを定期的に調査し、適正な群落の状態にするためのデータとして活用することが、「PC筑陽」の収量向上には有効なのかもしれません。

 

ナスの単為結果性品種は前述の「PC筑陽」の他、高知県では「PCお竜」の導入が始まっています。従来と異なる品種特性を持つ場合、栽培管理方法を変える必要もあり、収量が伸び悩む場合などにはこうした葉面積管理や生育調査の方法も参考となるかもしれません

仕立て方の新技術

ナスの仕立て方は、主枝を何本か伸ばし、側枝での切り戻しを繰り返しながら収穫を行う方法が一般的です。JA全農ではナスの大規模実証栽培を高知県安芸市の「ゆめファーム全農こうち」で行っており、そこでは従来の仕立て方に代わりつるおろし栽培を行っています。実証施設は1haで、軒高5mのフェンローハウスの高い位置にある誘引線からナスの誘引を行い、トマトのハイワイヤー栽培と同様に、主枝の伸長に従ってずらしとつるおろしを繰り返す方法となります7,8,9)。つるおろし栽培での収穫は側枝で2、3果行い、収穫後は側枝を切り戻す形を取っています。一般的なナスの仕立て方では、主枝を数本伸ばし摘心し、側枝の切り戻しを繰り返しながら連続的に収穫を行う方法が取られ、切り戻しのタイミングの判断には経験が必要です。つるおろし栽培は一般的な方法に比べシンプルで、あまり判断も伴わない方法で仕立てが可能で、パート従業員による作業にも向いたものと言えるでしょう。またつるおろし栽培では主枝の生長点が確保されており、トマトなどと同様に主枝の伸長量や茎径などの生育調査を毎週継続して行うことが可能と言えます。

宮城県でもナスのつるおろし栽培の普及が取り組まれています。大崎農業改良普及センターでは県内ナス産地である古川地域における取組みを参考文献10)で紹介しています。そこでは、単為結果性品種の導入が増える中で、整枝せん定作業の負担が大きく安定的な収量確保が課題としてあげています。つるおろし栽培(文中では一本つる下ろし栽培)については、単為結果性品種との相性がよく、作を通して安定的に収量を確保でき、生産者からも肯定的な意見が出ていると述べています。前述のゆめファーム全農こうちでのつるおろし栽培は高軒高ハウスでの取組みになりますが、宮城県では一般的なハウスでの取組みであり、今後の普及が期待されるものです。規模拡大などにより経験の浅いパート従業員により作業を行う際には、技術的なことで悩む必要も少ない方法と言えるでしょう。

参考文献

1)ナスに単為結果性をもたらす仕組みを解明した成果が国際科学誌「米国科学アカデミー紀要」に掲載!、タキイ種苗インフォメーション(2020.10.26)

2)収量構成要素の解析からみたナス品種「PC筑陽」および「筑陽」の品種特性、熊本県農業研究成果情報 No.923(令和3年(2021 年)6月)

3)受光量向上によるナス「PC筑陽」の増収技術(2022) 、福岡県農林総合試験場成果情報

4)日中加温とCO2施用による促成ナスの増収技術(2017) 、福岡県農林総合試験場成果情報

5)LAIと光を有効活用したナス生産に向けて、南筑後普及指導センター活動情報 第17号 令和4年8月

6)ナスの葉面積維持について学ぶ、福岡県普及指導センター情報(2023年3月31日)

7)「ゆめファーム全農こうち」 なすの養液栽培実証と技術開発(2020)、グリーンレポート no.615

8)「ゆめファーム全農こうち」におけるなすのつるおろし栽培、グリーンレポート No.632(2022年2月号)

9)園芸基礎講座 なすの基本技術「ゆめファーム全農こうち」の事例(2021)、グリーンレポート no.630

10)令和5年産ハウスなす栽培講習会が開催されました、宮城の農業普及現地活動情報 2023年02月06日

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