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高知県の施設園芸と野菜生産③ ー産出額全国トップのナス、ミョウガ、ニラの栽培ー

高知県には産出額全国トップの施設野菜として、ナス、ミョウガ、ニラ、シシトウがあります。ゼロアグリブログでは、これらの栽培技術や事例の紹介を下記のようにしております。ぜひご覧ください。

高知県農業の動向(令和4年 高知県農業振興部HPより) 

ゼロアグリブログでの高知県のナス栽培、ニラ栽培の紹介記事

高知県でのナス栽培に関して、生育調査による生育状態の操作方法など、研究と現場への適用の事例を「ナス栽培での悩み ー新技術の導入① 生育調査の方法と活用」で紹介しています。また、近年普及が進むナスの単為結果性品種の高知県における導入や、ナス栽培での新しい仕立て方のつるおろし栽培の高知県での実証栽培についても、「ナス栽培での悩み ー新技術の導入② 葉面積管理、仕立て方について」で紹介しています。さらに、安芸市でのナス栽培におけるゼロアグリの導入事例について、「山本様(高知県安芸市・ナス)|どこからでもできる潅水管理がポイント!ナス栽培におけるゼロアグリ活用のメリットと運用方法」で紹介しています。

この他にも、高知県でのニラ栽培における潅水施肥管理について「ニラ栽培の動向と潅水施肥管理について」で、また具体的な潅水管理について「ニラ栽培での少量多潅水、日射比例潅水について」で紹介しています。

 

つづいて、高知県でのミョウガ栽培の概要や特徴についてご紹介します。

高知県でのミョウガ栽培

 

高知県農業の動向(令和5年度)文献1)には、高知県でのミョウガの栽培面積は106ha、産出額は89億、単収は4.8t/10a、出荷量は4,741t とあります。栽培面積は減少傾向にありますが、単収が15年前の3.3t/10aから45%も増加し、出荷量も4,500tから5%増加しています。環境制御技術など、栽培技術の向上がその背景にあるものと考えられます。

 

県内のミョウガ産地は、JA土佐くろしお管内の須崎市、中土佐町、津野町などに分布しており、平坦地や中山間地で施設栽培が行われています。高知県のミョウガ栽培は門外不出のものと言われており、栽培の様子を示す画像等もほとんど観ることができません。様々な情報を総合すると、高知県では土耕栽培とヤシガラ培地による養液栽培が行われており、年2作型で周年で出荷する栽培が中心であるものと推測されます。文献2)では、黒潮町の橋田農園でのミョウガ土耕栽培が紹介されています。橋田農園では、11月定植~3月末からお盆収穫と5月初旬定植~10月末から2月中旬の2作型が行われており、おのおのの作では最初に種取りも行われています。

 

文献3)によると、高知県のミョウガ栽培では在来種が用いられています。ミョウガの品種は分化も無く、在来のものを用いており、種取り(地下茎のことと思われる)も収穫後の圃場より行われるようです。また同文献では全国のミョウガ産地を紹介していますが、北海道、秋田県、山形県、群馬県、埼玉県、長野県、奈良県、和歌山県など、すべて夏秋期に出荷がされており、高知県が全国唯一の周年出荷の産地となっています。

 

文献4)では、国内生産の6割を占める全国一のミョウガ産地のJA土佐くろしお、JAみょうが部会の活動が紹介されています。高知県が地域アクションプランとして位置付けた「くろしおミョウガ生産拡大プロジェクト」がスタートし、2024園芸年度までに、栽培面積76ha、生産量3,800t(2020園芸年度:3,620t)を目指しています。そのために、栽培データの集積など環境制御技術の導入や、ロボットによる出荷体制の効率化・省力化を図る、としています。またヤシガラ培地を土壌改良材などに再利用するための施設を建設し、循環型農業に取り組むことも記されています。

 

文献5)にはJA土佐くろしおでのミョウガ栽培の歴史や作型などについて、詳しく紹介されています。旧JA須崎市管内で1984年にミョウガの栽培が始まり、1991年に一般消費者向け50gパック販売をスタートし、それがヒットしミョウガ販売高は右肩上がりに伸びたとのことです。一方で課題として土耕栽培では根茎腐敗病にかかりやすく連作障害も発生し、1998年の高知豪雨の際にミョウガ栽培で病気がまん延し深刻な状況になったとあります。その後、ヤシガラ培地による養液栽培の試作が行われ、地域全体で養液栽培への切り替えが進み、土壌消毒や畝立てが不要となり、また栽培・収穫期間が延び収量が向上したことが記されています。また前述のロボットの導入についても、パック詰めされたミョウガのカメラでの包装チェックとロボットアームによる箱詰め作業の自動化が紹介されています。

 

また同文献にはミョウガの栽培期間や作付について、以下のように触れています。

 

「ミョウガは、種茎を植え付けてから収穫まで約半年。収穫期間は3~4カ月でその時期には多忙を極めるが、それまでは比較的手間がかからない。環境制御機器の導入によって換気や水やりが自動化され、管理も楽になった。(中略)ミョウガは植え付け時期をずらせば単一作物での規模拡大が可能となる。」

 

このようにミョウガは定植から収穫開始までの期間は非常に長いことが特徴ですが、作付をずらして複数の作型を持つことで規模拡大や周年栽培が可能であることがわかります。こうした作付方法や作型は、高知県の独自のスタイルと言えるでしょう。

 

参考:群馬県での養液栽培によるミョウガ栽培

 

高知県でのミョウガ栽培の実際の状況について、詳しい情報を得ることはなかなか難しいと思われます。関連する情報として、群馬県での養液栽培によるミョウガ周年栽培の事例紹介が文献6)、7)にあります。特徴的な栽培方法であることが分かる内容です。高知県と同様か否かは別として、こうした方法で周年栽培が可能であることが理解できる事例ですので、参考にしていただければと思います。

高知県のIoPプロジェクトとミョウガ栽培

 

高知県ではIoP (Internet of Plants) プロジェクトと呼ばれる産学連携のプロジェクトが進められています。そこでは環境データに加え植物の生理情報もデータ収集しクラウド上で有効活用するシステムの普及がはかられています。施設園芸生産者がSAWACHIと呼ばれるクラウドサービスを使い、圃場環境データ、出荷データ、気象データ、市況データ、ハウスの機器稼働状況、カメラ画像、各種お知らせについてアクセスすることが可能となっています文献8)。また文献9)には、四万十町にミョウガ栽培で新規就農して4年目の生産者の事例が紹介されています。記事中には詳しい栽培状況などは記載されていませんが、機器設備として環境制御装置、養液管理装置、IoPクラウドにつながるモニタリング装置などがみられ、またSAWACHIによるスマホ上でのモニタリング画面などもみられます。かなり装備化が進んだ施設での新規就農の事例と思われます。

 

同文献には新規就農者の岡部氏の談として、「養液栽培のミョウガは非常にデリケートな温度管理が必要とされる農作物のひとつです」とあり、「いままでは夜中に電照がちゃんとついているどうかを確認しに何度も圃場に出向く必要がありました」といった栽培管理に関連するコメントもみられます。こうした点からSAWACHIを利用した環境のモニタリングや監視の機能は、ミョウガ栽培にも一定の効果があるものと推察されます。また前述の群馬県の事例ではCO2施用も行われており、おそらく環境制御技術の導入が盛んな高知県でのミョウガ栽培にもCO2施用が導入されているものと考えられます。なお同文献にあるハウスの外観画像から、巻き上げ式の外部遮光カーテン装置を確認することができ、日射の強い時期には遮光栽培が行われていることが伺えます。

高知県の農林水産業の概要(農水省HPより)

今後の展開

 

高知県の全国トップの施設野菜品目として、ミョウガを中心に概要と栽培技術などを、推測を交えてですがご紹介いたしました。ここでご紹介したIoPプロジェクトによるSAWACHIの利用は高知県での最新の施設園芸技術と言えますが、その他にも天敵利用による環境保全型農業の実践、環境制御や生育調査によるデータを活用した農業の実践など、技術志向の農業生産とそれをサポートする行政やJAなどの取組みが高知県の施設園芸の特徴と言えるでしょう。今後もこうした高いレベルの施設園芸技術が継承され、さらに発展していくものと期待されます。

参考文献

1)高知県農業の動向(令和5年度)、高知県農業振興部

2)今月の産地 橋田農園、東都生協だより459 2020年7月10日

3)今月の野菜 みょうがの需給動向、野菜情報 2018年8月

4)ミョウガ増産へタッグ – 土佐くろしお 環境制御技術導入や出荷を効率化、JAグループ

5)「箱詰めロボ」で効率化 JA土佐くろしお、高知新聞2021年2月28日(日)掲載、JA高知県

6)【みょうが】特集、ベジシャス第55号(発行日:2015年7月13日)、農畜産業振興機構

7)ベジシャス第55号フォトクリップ 、農畜産業振興機構

8)高知県がIoPクラウド(SAWACHI)の本格運用を開始、PR TIMES 高知県 2022年9月21日

9)環境データを応用し自分だけの農業を 四万十町 みょうが農家 岡部鉄平さん、IoP活用事例、IoPプロジェクト

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