ニラ栽培の全国動向
ニラは北海道から九州まで全国的に栽培され、また加工・業務用途としても生鮮用途としても年間を通じて安定した需要がある作物です。参考文献1)には、令和3年産のニラ栽培の概況として、以下の3点が示されています。
・作付面積は1,930haで、前年産に比べ50ha(3%)減少した。これは、生産者の高齢化等により作付中止や規模縮小があったためである。
・10a当たり収量は2,920kgで、前年産に比べ40kg(1%)上回った。
・収穫量は5万6,300tで、前年産に比べ700t(1%)減少した。出荷量は5万1,500tで、前年産並みとなった。
また同文献には、平成29年産から平成3年産までのニラの作付面積、収穫量、出荷量のグラフを示しています(下図)。
以上の統計情報より、ニラの全国の作付面積、収獲量、出荷量とも減少傾向にあり、作付面積は5年間で約7%減少しています。一方で同じ期間での収穫量は約6%、出荷量は約5%の減少であり、面積当たりの収量は増加傾向にあると言えます。
参考文献2)には、都道府県別の統計として作付面積、10a当たり収量(単収)、収獲量、出荷量などが集計されています。ここでは全国平均での単収が2,880kg/10aであるのに対し、出荷量上位3位の高知県、栃木県、茨城県については以下のようです。
・1位:高知県 単収5,570kg/10a、作付面積246ha、出荷量13,200t
・2位:栃木県 単収2,890kg/10a、作付面積352ha、出荷量 9,070t
・3位:茨城県 単収3,690kg/10a、作付面積202ha、出荷量 6,070t
このように統計上でニラは単収の差が非常に大きい作物と言えます。この差には気象条件の違いの他に、作型や加温、潅水方法の違いが要因として考えられます。以下に、高知県における潅水や施肥などの栽培管理について紹介します。
高知県のニラ栽培の作型と栽培管理
参考文献3)には、ニラのハウス栽培について二つの作型(作型図はこちら)を紹介しています。
・冬作:播種(2月~3月)、定植(7月)、収獲(10月~翌年4~5月まで6回~7回)
・夏作:播種(12 月)、定植(4~5月)、収獲(7月~8月上旬開始)
ここでは、育苗も同じハウス内で行っており、その期間を除いた定植から収獲終了までは冬作、夏作とも10カ月程度となっています。
また同文献には、ニラ栽培での収量や品質の確保のポイントを、以下のように示しています。
・一般にニラの収量は、ある程度までは分げつ数が多いほど増加する。
・長期間収穫を続ける作型では、分げつ過多は株間の相互遮蔽等により収量や品質の低下を招くため、適正な分げつ数を確保する必要がある。分げつ数の多少は、栽植方法(株数)や定植時期による影響の大きい。
・ニラの品質の目安である葉幅は、主として貯蔵養分の多少による影響が大きいため、株の養成方法や十分な養成期間の確保などが非常に重要。
刈取りによる収獲を連続的に繰り返すニラ栽培では、品質向上のため貯蔵養分を高めること、そのための株の養成が重要になります。以下にそこでのポイントをお示しします。
株養成期間中の潅水や追肥のポイント
株の養成とは、定植から収獲開始までの期間に貯蔵養分を蓄積することを指します。参考文献3)では、株養成期間中の潅水や追肥のポイントを、以下のように示しています。
・潅水:定植が終わると直ちに潅水し、また活着するまで乾燥しないよう潅水する。活着後も気温の下がる夕方に適宜潅水し、乾燥による生育低下を防ぐ。
・追肥:定植後の高温期は生育が緩慢なため追肥もあまり必要ではないが、降雨や潅水により肥料が流亡するため、葉色や分げつ数を見ながら15~20日に一度を目安に窒素成分2~3kgを施用する。9月以降に気温が低下すると生育も旺盛になるが、この時期に追肥が多すぎると、分げつ過多や倒伏の原因となり注意が必要。
収穫後の潅水、追肥、温度管理のポイント
その後、株の養成が進み、定植後120日頃(11月中頃)からニラの収獲を開始します。またハウスはそれまで無被覆であったものを10月中旬頃から被覆を開始します。収獲により刈り取った株が出荷規格まで生育したところで次の収獲を行い、これを翌年5月まで4~5回繰り返します。参考文献4)では、収穫後の潅水、追肥、温度管理のポイントを以下のように示しています。
・潅水:刈り取り後、生育の前半に2~3回十分に潅水を行う。生育後半の頭上からの潅水は病害が発生しやすく収穫後の鮮度が低下しやすいため控え、潅水チューブ等を活用する。
・ 追肥:収穫から次の収穫までに4~5kgを潅水のつど分施する。
・温度管理:日中は25℃、 夜間は10℃程度を目安に管理する。1~2月の厳寒期は2重張り、トンネル被覆などで5℃以下にならないように保温する。
ニラ栽培での施肥基準
ニラは多肥作物と言われています。 参考文献5)に以下のニラ栽培の施肥基準が示されています。
促成栽培(5月定植~6月収獲終了):目標収量8t/10aに対し、元肥と追肥の合計で窒素85kg、リン酸30kg、カリ65kg。
これはニラ収量1kg当たり、窒素約10g、リン酸約4~5g、カリ約8g程度の施肥に相当します。また施肥上の留意点として、土壌分析結果を考慮すること、家畜ふん堆肥利用の際には各成分含有量等を考慮し減肥を行うこと、リン酸は土壌流亡しにくく基肥施用中心とすること、などがあげられています。
今後の展開
高知県における潅水施肥管理についてご紹介しました。同県ではCO2施用などの環境制御技術の普及が進んでおり、ニラ栽培にも展開がされています。同時に潅水方法の改善も行われ、日射比例潅水に関する試験成果も公表されています。高知県での成果については、こちらの記事(ニラ栽培での少量多潅水、日射比例潅水について)をご覧ください。
参考文献
1)令和3年産指定野菜(秋冬野菜等)及び指定野菜に準ずる野菜の作付面積、収穫量及び出荷量、農林水産省
2)令和2年産都道府県別の作付面積、10a当たり収量、収穫量及び出荷量 (24) にら、令和2年産野菜生産出荷統計、e-Stat
3)ニラ -作型、品種、栽培のポイント-(2014年)、こうち農業ネット
4)ニラ -定植後の管理-(2014年)、こうち農業ネット
5)高知県施肥基準(2010年)、高知県環境農業推進課
※各リンク先は、2023年5月25日に確認済。