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パプリカ栽培での悩みについて① パプリカ栽培の状況と栽培方法

パプリカは近年、需要も生産量も伸び、販売単価も比較的高く維持されている新しい果菜類のひとつです。一方で韓国を中心とした輸入品が現在でも多くを占めており、国産パプリカの存在感は市場全体ではまだ小さいのですが、国産品の伸びしろも大きいものと考えられます。これからパプリカ栽培に取り組む際に、栽培についての悩みにお応えするよう、本記事ではパプリカ栽培の基本や実例について触れてまいります。

パプリカとはどんな野菜か?

 

農業技術事典1)ではパプリカについて、カラーピーマンと同義の野菜としています。また中南米が原産と考えられ、トウガラシ、シシトウおよびピーマンと同属同種としています。そして「辛味のない品種群のなかでもピーマンよりも大ぶりで、肉厚な品種を一般にパプリカ」としており、ピーマンやシシトウが未熟果を収穫するのに対し、パプリカは完熟または完熟に近い状態のものを収穫するため、ピーマンより甘く栄養価も高いものとしています。肉厚な果実で、加熱調理にも生食にも用いられ、さらに果実の色も赤、黄、橙を中心に、黒、白、茶、紫、緑と多色があり、カラフルな野菜として調理に取り入れられています。品種はオランダの種苗会社によるものが多く、国内の種苗会社でも育種を行っています。前述の多色の品種の他、形状も様々なものがあり、トウガラシのように細長く甘さのある品種も栽培されています。

韓国でのパプリカ生産と輸出

農畜産業振興機構の月刊誌野菜情報の記事「韓国のパプリカの生産、流通および日本への輸出動向」2)には、韓国でのパプリカ生産と輸出、韓国内需要などの動向が記されています。ここには、「日本で流通しているパプリカの約9割は輸入品であり、日本において輸入品が多くを占める野菜である。韓国は、日本から近距離にあり、競合国のオランダより輸送コストが低いことなどから、圧倒的なシェアを誇っており、2017年の日本のパプリカ輸入量の8割弱を占めている。」とあります。同記事には韓国でのパプリカ栽培について、1990年台中頃に輸出向けにオランダの技術を導入し始められ、2000年代にはパプリカの栄養的価値から国内需要も増し、生産技術の発達から韓国内供給量も増し、最近ではICTを利用したスマートファームが増加し、さらに生産性向上が図られている、としています。

このように、オランダ型の栽培技術をベースに韓国でのパプリカ栽培は発展しており、日本国内の青果販売や業務用途でも、韓国産パプリカは高いシェアを現在も保持しています。

日本でのパプリカ栽培の状況

茨城県で大規模施設でのパプリカ栽培を行う(株)Tedyの林俊秀氏による「国内パプリカ大規模生産の背景と課題・展望」3)では、「パプリカは元々国内には生産が無く、輸入品によって市場が形成され、そこに国産が追従するという特異な普及経過をもつ野菜である。」としています。

輸入品とは当初はオランダ産から始まり、すぐに韓国産が増え、現在でも韓国からの輸入が中心をしめています。韓国からのパプリカ輸入が増加した要因に、韓国での対日輸出振興と輸送技術・輸送条件の発達があげられています。具体的には国策として輸出業務への補助、輸出団体の設立、協同選果出荷、検疫やフェリーによる短時間での輸出体制の整備といったことがあるでしょう。こうした韓国を中心とした輸入により国内のパプリカ市場が形成され、全国的にパプリカ栽培が始まった経緯があるとしています。

農林水産省の統計調査「地域特産野菜の生産状況」4)では、2020年における全国のパプリカの作付面積や収穫出荷量が示されています。これには全国で86haが作付され、収穫量が6,710t、出荷量が6,520tとあり、作付面積上位道県は茨城県(13ha、出荷量1,240t)、山形県(11ha、605t)、宮城県(10ha、1,350t)、長野県(8ha、出荷量322t)、北海道(6ha、710t)、静岡県(3ha、362t)となっています。これらがパプリカの主産地と言え、夏期冷涼な北日本と温暖な太平洋側に二分されています。また単位面積当たり出荷量にはバラツキが見られ、高い箇所では大規模なオランダ型の施設による長期栽培が、低い箇所では夏秋栽培が中心として取り組まれているものと考えられます。大規模施設によるパプリカ産地となっている静岡県磐田市について静岡新聞による2023年取材記事5),6)があり、企業参入が盛んなことを示しています。

パプリカ栽培の方法

参考文献7)にはパプリカの生育適温についてピーマンと同様に高温で、昼間は25~30℃、夜間は18℃~20℃であり、12℃程度で茎葉伸長が停止するとあります。このことから冬越しを行う長期栽培では、ある程度暖房能力が高い施設での栽培が必要となります。また前述のように国内のパプリカ栽培は、太平洋岸でのオランダ型の高軒高ハウスを用いた長期栽培と、冷涼な地域での夏秋栽培に分けられます。

 

前者はフェンローハウスと呼ばれる6m程度の軒高ハウスを用い、養液栽培とハイワイヤー栽培を組み合わせて、高い位置までパプリカを誘引する方法を取っています。夏に定植を行い、翌夏までの長期で連続して収穫を行い、10a当たり20t以上の収量が得られるものです。この方法ではハウスや栽培設備、付帯設備には多額の投資が必要で、多くは企業参入によるものです。

 

後者は土耕栽培によるもので、軒の低いパイプハウスを用い春先に定植し、無加温栽培であれば収穫可能な秋口まで、加温栽培でも年内いっぱい程度までの収穫を行います。山形県はこうした方法をいち早く取り入れた産地で、最上地方のハウス雨よけ栽培では10a当たり4~5t程度の収量となっています8)。育苗ハウスや空きハウスを活用した栽培もみられ、初期投資を少なく始めることも可能な方法と言えます。次の記事では、一般的に取組みやすく燃油代もかからないパプリカの夏秋栽培や病害虫防除についてご紹介します。

参考文献

1)パプリカ、農業技術事典

2)青沼悠平・露木麻衣、韓国のパプリカの生産、流通および日本への輸出動向、海外情報(野菜情報 2019年1月号)

3)林 俊秀(2017):国内パプリカ大規模生産の背景と課題・展望、筑波大学大学院生命環境科学研究科国際地縁技術開発科学専攻博士(農学)学位論文

4)令和2年産地域特産野菜生産状況調査、農林水産省

5)パプリカ生産2ヘクタール拡大へ 大和証券副社長意向 SAC磐田、あなたの静岡新聞 2023.2.11

6)栄養価でパプリカ訴求 スマートアグリカルチャー磐田/久枝和昇社長 【キーパーソン・最前線】、あなたの静岡新聞 2023.7.25

7)パプリカの夏秋栽培(2006)、みやぎの野菜指導指針

8)パプリカ、やまがたの農業

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