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【ビニールハウスの暑さ対策】高温期のハウス栽培と高温対策について

ハウス栽培の高温対策

温暖化の進展と酷暑や猛暑日の増加により、高温期のハウス栽培に様々な影響が発生しています。ハウスの高温対策は全国的に必要とされており、そのポイントについてお示しいたします。

作物・作型と高温対策

ハウス内が高温となり、栽培や収穫の継続が難しい場合には、作物や作型について改めて検討する必要があるでしょう。また周年出荷を前提に栽培計画を立てる場合には、さらに十分な検討が求められます。以下に主要な果菜類についての検討内容を記します。

 

トマトの高温対策

トマトは高温下で花粉の稔性が低下することで受粉が難しくなります。訪花昆虫の活動も低下し、トマトトーンによるホルモン処理や振動受粉を行う必要があります。また裂果による可販果率の低下も特に大玉トマトで起りやすく、裂果が発生しにくい品種を選ぶことも考えられますが、選択肢は多くありません。

トマトの高温対策
トマトの高温対策

こうした制約もあり、トマトは高温下では栽培が比較的難しい作物と言えます。そのため高温期の栽培では、次章からの様々な高温対策を行う必要があります。それが難しい場合には高温期の栽培は行わず、その時期を避けた作型を選ぶことになるでしょう。

 

またパイプハウスを用いた雨よけ栽培は、収穫期間は限定されるものの、高温期にもかかる簡易な栽培として選択肢のひとつになるでしょう。従来、高温期には北海道や東北など高冷地の雨よけ栽培が中心となっていましたが、近年はこうした産地も高温や台風の発生などにより収量や品質の確保が難しくなっています。

キュウリの高温対策

キュウリは受精を行なわずとも結実する単為結果性の作物であり、また未成熟果を収穫することで高温下での栽培が比較的しやすい作物です。摘心栽培による年2作型などでは、夏定植し年内収穫を行う抑制作型と、年明定植し夏までの収穫を行う促成作型を組み合わせた周年栽培がみられます。

 

一方でハウス内の環境が高温で劣悪となる場合には作業者のことを考慮する必要があります。日中の作業の継続が難しくなると、早朝の作業に切り替えることもあります。それも難しければ栽培を切り上げることになるでしょう。

キュウリの高温対策
キュウリの高温対策

また土壌病害対策のため太陽熱消毒を行う場合には、高温期にかかる栽培を終了し消毒期間にあてる必要もあります。従来は高温期には東北の露地作や各地の抑制作型によりカバーされてきましたが、こちらもトマトと同様に高温や台風の影響を受けやすくなっています。

しかしキュウリは生育速度が早いため、一時的に何かの影響を受け生育が抑制された場合でも、樹勢を取り戻し早期に収穫に至ることが比較的容易な作物です。その点ではトマトよりも融通が効くものと言えるでしょう。

イチゴの高温対策

イチゴは、とちおとめ、章姫、紅ほっぺ、あまおうなど、一季なり品種を用い、夏に定植をし冬春に収穫を行う作型が一般的です。最近は、すずあかねなど夏イチゴの品種が育成され、高冷地を中心に夏季の栽培が広まっています。

また平地でも夏イチゴの栽培にチャレンジする産地もあり、地域にあう品種の選定とさまざまな高温対策によって高温期の栽培の可能性が広まっている作物と言えるでしょう。なお夏イチゴの収量や品質は一季成り品種に比べ劣ることが多く、収穫期間も比較的短い場合が多いものです。

イチゴの高温対策
イチゴの高温対策

その他果菜類の高温対策

他にも、ナス、ピーマン、パプリカなどでは高温期の栽培と収穫は高冷地を中心に行われており、高温に強い品種の育成などもあまり進んではいません。適地適作を前提に栽培を行い、さらに周年出荷を行う場合には、産地間リレーや高冷地農場の設置なども検討することになるでしょう。

ハウス栽培での高温対策~環境制御による対策~

高温期に栽培を行う際の対策について、環境制御を中心としたポイントを記します。

換気

換気による温度調節には限界がありますが、他の対策と組み合わせ必ず行われます。換気性能の良いハウスを建設することが前提となり、開口部面積の広い形状や、高軒高化による天窓からの”抜け”の確保が一般的な設計仕様となります。開口部面積は、換気窓の開口幅などに規定され、特に谷換気の場合に開口幅が狭いと換気性能が低下します。

また天窓換気の場合は片天窓と両天窓では換気性能に差が出ますが、天窓部材によるコスト上昇も発生します。

側窓換気の場合も開口幅により換気性能は影響を受けます。開口幅を広くとる場合には側窓を2段とし、高温期には全面開放し、低温期には全閉もしくは1段のみを開閉して温度調節に用いる場合があります。側窓換気の効果は植物群落の高さがある場合には限定的となり、またハウス面積が広い場合にはほとんど期待できないこともあり注意が必要です。高軒高の大規模ハウスでは側窓がない設計が一般的です。

側窓換気と肩換気を併用した開口部の大きな単棟パイプハウス
側窓換気と肩換気を併用した開口部の大きな単棟パイプハウス

換気窓の開口が広い場合でも、換気窓に取り付ける防虫ネットの目合いが細かい場合には換気性能は低下します。そのため防虫対策と高温対策がトレードオフの関係になることも多く注意が必要です。側窓がなく天窓換気のみ行う高軒高ハウスでは、防虫ネットを取り付けない場合や、訪花昆虫の飛散防止のための目合いの大きなネットを取り付ける場合もあります。これは、高軒化によって病害虫の飛び込みリスクが低下することを念頭に置いた設計と言えますが、リスクはゼロとはならないため、入念な病害虫対策が必要となるでしょう。

 

換気窓を利用した自然換気に対し、換気扇を利用した強制換気があります。これは大型の換気扇をハウス妻面に多数設置し、水平方向の気流をハウス内に発生させ排気を行う方法です。作物の群落が低い場合に有効な方法で、トマトの低段密植栽培や、葉菜類の水耕栽培、苗、鉢物や苗類などのベンチ栽培で用いられます。温度調整はファン動作の台数制御やファン回転数のインバータ制御により行われます。またミスト発生やパッドアンドファンなどの気化冷却との併用もみられます。

妻面に取り付けた大型の換気扇

遮光

遮光には外部遮光と内部遮光があります。いずれも遮光資材を展張し直達光の透過を抑制して室温の上昇を抑制する方法です。内部遮光の場合は遮光資材に熱線が吸収されますが、遮光資材からの再放射があるため、換気と併用して室温の上昇を防ぐ必要があります。外部遮光ではその必要はありませんが、ハウス屋根面への遮光資材の設置には強風対策などが求められ重装備化しやすいため、鉢物栽培など一部で導入がされている状況です。

 

遮光資材には一般には遮光カーテンと呼ばれる通気性のある資材が用いられています。遮光カーテン資材にはアルミ素材など光線反射の特性を持つ資材を縦横方向に織ったもの、ネット状のものなど、様々な素材や形態があり、遮光率も10%台~70%台程度など各種の製品があります

また遮光率が小さい資材は遮光専用のもので薄手となっており、遮光率の大きい資材(50%以上程度)は厚手で保温性もあり遮光と保温の兼用資材となっています。

 

遮光カーテンの利用は1層と2層の場合が多く、1層の場合は遮光兼保温カーテンを利用し、2層の場合は遮光兼保温カーテンおよび遮光カーテンを利用することが多いでしょう。遮光率が大きい資材を用い強く遮光をすれば高温対策効果も上がりますが、光合成に必要な光が十分に確保できないという懸念もあります

春先など外気温がそれほど高くなく、強日射の場合には、遮光率が小さいものが適していることがあります。しかし盛夏の猛暑日などには強く遮光して高温対策を優先する必要もあり、使い分けが求められます。

水平張りの遮光カーテン
水平張りの遮光カーテン

最近は外部遮光の一種として遮光剤(遮熱剤とも言う)の屋根面塗布が多くみられるようになりました。遮光剤には、安価な石灰系の素材のものや、熱線を通さず光合成に有効な光線(可視光)を通す性質の素材のものなどがあります。外部遮光となるため高温対策効果としては高いものがあります。

しかし一度塗布するとそのまま長期間利用することになり、曇雨天が続く場合にはハウス内の光環境に悪影響が生じる可能性もあります。塗布時期と天候の関係を予想することは実際には困難かもしれませんが、その点はある程度割り切って利用する必要があるでしょう。

 

また遮光剤は長雨によって自然に流れ落ちるものですが、専用の除去剤を用いて適期に除去する場合もあります。塗布に関しては動噴を用い屋根面での作業を行うことが多く、ドローンを用いるケースもみられます。

自家施工も可能ですが、高所作業となるため専門業者に依頼するケースが多いと思われます。

気化冷却

水が蒸発(気化)する際に周囲から熱を奪う現象を利用するのが気化冷却です。代表的なものとして、細霧冷房があります。これはミスト(細霧)を発生させハウス内空間で気化させる方法です。細霧冷房装置はミストノズル、動力噴霧器、配管設備、原水設備、フィルター、制御機器類などからなります。初期投資も比較的高額な装置です。中核となるのはミストノズルで、細かい粒径のミストを発生させるものほど冷却効果が高いのですが、高価となります。細霧冷房での気化冷却効果を高めるには、換気を確保しハウス内の相対湿度が高くならないようにする必要があります

 

また日射が強い時には気化冷却効果も高くなります。細霧冷房装置の動作制御では、温度条件によるものの他に、日射量も組み合わせる場合もあります。

細霧によるハウス内の冷却(キュウリ)

以上のように細霧冷房は機器を使用した気化冷却の仕組みとなりますが、ハウス内で作物している植物でも蒸散による気化冷却が行われています。

この効果は葉面積や群落が大きいキュウリやナスで大きく、ハイワイヤー栽培により群落を確保しているトマトやパプリカでも期待されます。特にキュウリは生育速度が早く吸水量もあるため蒸散も盛んな作物と言えます。蒸散による気化冷却は、換気を保ちながら潅水による水分供給も十分に行うことで、その効果が期待できるでしょう。

高温での作業負荷の軽減

以上で、作物に対する高温対策を述べてまいりました。一方で高温期には室温が体温より高くなることもあり、そこで作業をする人間への負荷は高く、熱中症など安全上の問題も発生します。そのため作物中心から人間中心の高温対策が現場では行われることも多くあります。例えば、作業を行う時間を中心に強い遮光し日陰を作って作業環境を確保することがあります。

 

また早朝から作業を開始し、お昼前後での高温の時間帯を避けるなど工夫も求められます。こうした対策を一歩進めて、作業者自身に作用する方法も導入されています。例えば、排気用のDCファンとバッテリーを搭載したジャンパー、首元などを保冷剤で冷やすようなタオル、作業台車に取り付けるDC電源の扇風機など、様々なアイテムが発売されています。

 

なお熱中症対策は高温期のハウス作業では必須となっており、水分や塩分の補給の他、健康状態のチェック、作業時間の分割と休憩回数の確保など、労働衛生管理の問題として取り組むものと言えるでしょう。

ゼロアグリの高温対策機能

ゼロアグリには高温対策機能の一つとして、「猛暑日対策制御機能(気候変動対策機能)」が実装されています。

これは一定の温度を超えたら猛暑とみなし、その温度を超えると制御液肥の濃度調整(高温時には低濃度に、温度が低下すると通常濃度に)を自動で行う機能です。

 

猛暑日対策機能(ゼロアグリ製品資料より)

高温時には低濃度で作物が培養液を吸収しやすい状態をつくり、温度が低下する夕方などに濃度を上げ不足分を補う形となります。このことで高温でも作物がバテずに養分吸収が促進されることが期待されます。

今後の課題

温暖化と猛暑日の頻度が増す中でのハウス栽培の高温対策について、ご紹介いたしました。物理的な対策の他、作物や作型の見直しが必要な場合もあり、そこには経営的な判断も求められるでしょう。

温暖化によって作物の栽培の北限や南限も移りつつある中で、施設園芸への影響も顕在化しています。少し先をみながら、ハウスの仕様、作物や作型、栽培方法などの選択肢を持つ必要がある、そのような時代といえるかもしれません。

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