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キュウリの収量向上のポイント~作物特性の理解と環境制御の活用~

キュウリは、生長が早く、トマトなどと異なり未成熟果を収穫し果実肥大も早いため、管理や収穫の作業が忙しい作物として知られています。そうした生長の早さを活かし、樹勢を適切に管理することで、収量を増やすことが可能な作物と言えます

一方でCO2施用などの環境制御技術や、日射比例制御やゼロアグリのAI潅水制御などの潅水技術の利用もキュウリ栽培では進んでおり、収量アップに寄与しています

従来は20t/10a台程度であったキュウリの単収は近年では30t/10a台、さらには40t/10a台も達成されつつあります。そうした高収量を実現するためのポイントについてご紹介いたします。

→環境制御の活用方法については、詳しくはこちらの記事もご覧ください。

地上部環境制御の活用~光・温度・湿度・CO2の作物への影響と制御方法~

生殖成長と花数・節数の確保

生殖成長の面から、キュウリの収量は花数に直結します。雌雄同株で雄花も咲くことがありますが、果実肥大が進むのは雌花で、その花数の確保が必要となります。雌花は主枝、子づる(側枝)、孫づるの各節に着花します。節数の確保も収量アップに直結することになります。節数は、子づる、孫づるの本数にも影響され、また主枝の本数(=株数)にも影響されます。

キュウリの雌花
キュウリの雌花

栽植密度(10a当たり1000株前後)や側枝の本数(つるおろし栽培での側枝4本仕立てで、10a当たり側枝が4000本前後)によって、節数もある程度規定されます。各節に着花したものが雌花化するか否かは、栽培期間や品種特性、温度管理などの影響を受けることがあり、栽培品種に応じた管理が求められます。

 

また着花した雌花も落花したり、肥大前に流れたり(流れ果)することもあります。これは着果負担や天候不順などで樹勢が弱くなった場合にみられる現象です。着花・着果数と樹勢のバランス、すなわち生殖成長と栄養成長のバランス管理が重要となります。

栄養成長と茎の伸長・葉面積の確保

前述の節数の確保には、茎の伸長を促し、子づる、孫づるの発生も促す必要があります。キュウリの光合成と養水分の吸収を促すことで、それらも促すことになりますが、蒸散が行われる葉の面積確保が重要となります。

樹勢が旺盛で葉面積が確保されたキュウリ

光合成速度は日射量の他、CO2濃度、水分に影響を受け、蒸散は飽差に影響を受けます。これらの環境制御が近年のキュウリ栽培では重視されています。また光線透過率を高めるような骨材の構造を持ち、誘引位置も高く確保するような高軒高のハウスの利用により、高い収量を得る例が増えています

CO2濃度はハウスが換気状態であってもキュウリの群落周辺では大気中濃度(400ppm前後)より低下することが知られており、灯油やLPガス等の燃焼ガスをダクト送風し群落内にCO2を送り込む方法が普及しています。

この方法により群落周辺でも大気中濃度以上のCO2濃度を確保可能となります。またハウスが密閉状態の場合には燃焼した分だけCO2濃度を上げることが可能で、1000ppm程度に上昇させる場合もあります。

※CO2濃度と環境制御についてはこちらの記事もご覧ください。地上部環境制御による光合成の最大化~光・温度・湿度・CO2の作物への影響と制御方法~

 

飽差管理が重要

土壌水分が十分にあっても蒸散が抑制されるようであれば、光合成や養分吸収も阻害される可能性があります。そのためには飽差管理が重要となります。加湿を防ぎ蒸散が適切に行われ根からの養水分吸収を促すような飽差管理が前提となります。一方で厳寒期でも乾燥状態を防ぐよう換気とカーテンの開閉具合などを微妙に管理し、飽差を調整することもあります。

 

またキュウリの群落形成が不十分で葉面積も確保されていない状態では、蒸散も不足し乾燥状態となる悪循環になるため、栽培初期からの樹勢と群落の確保が前提となるでしょう。なお葉面積確保には乾燥ストレスが悪影響を及ぼすため、ここでも適切な湿度調整が求められるでしょう

品種の選定と良苗の確保

キュウリの品種は年々多様化が進んでおり、国内のキュウリ育種を専門に行う種苗メーカー各社より毎年のように新品種が開発、販売されています。

近年では前述の環境制御に対応するような品種、具体的には側枝発生や着花性が良く、環境制御によって増収に結びつきやすい品種が発表されています。特に雌花の着花が良好で樹勢も旺盛な品種では、着果負担もかかりづらく、連続し安定した収量が期待されます。

ただしこうした品種を導入するだけで高収量に結びつくわけではなく、地域の気象特性に合う品種を導入し、前述のような生殖成長や栄養成長のバランスを考えた管理が必要となるでしょう。

定植後のキュウリ苗

近年では購入苗を定植するキュウリ生産者が増加しており、育苗業やJA系育苗センターから苗を購入するケースが多くみられます育苗にかかわる問題として、苗の品質(苗齢、苗姿、根張りなど)や病害虫の発生があり、それらを確認した上で定植する必要があります。キュウリはトマトと異なり、作型や定植時期が比較的分散化しており、一時期に集中した育苗による苗質の低下などを避けることは可能かもしれません。

しかし育苗側でも人手不足など様々な問題を抱えていることも多く、実際に苗が届くまでは苗質が確保されているかどうか不安なこともあるかと思います。苗は自家育苗するものから注文して購入する商品の扱いに近年は変わってきています。

しかし苗半作という言葉が示す通り、苗質の影響は初期生育のみならず収量にもかかわってきます。生産者側も育苗の状況に関心を払い、育苗側とのコミュニケーションを保つことが収量確保につながるものと考えられます。

病害虫防除

キュウリの主要病害として、ホモプシス根腐病などの土壌病害、ミナミキイロアザミウマが媒介するキュウリ黄化えそ病(MYSV)などのウイルス病があります。いずれも樹勢の低下や枯死を招くことがあり、収量にも大きな影響を及ぼすものです。

キュウリは生育が早く、作型も多様なため、罹病株の撤去と植え替えや補植によって回復をはかることが可能な場合もあります。しかし原因となる病原菌やウイルスの繁殖や侵入を防止するような病害虫防除を中心に対策を行う必要があります。防除が難しいとされるMYSVについて耐病性品種の育成も行われており今後が期待されています。

今後の課題

以上より、生殖成長と栄養成長の管理と環境制御、品種と苗、病害虫防除についてポイントをご紹介いたしました。キュウリは生育速度が早く、それに応じた養水分吸収が求められる作物です。前述のポイントに加え、必要となる養水分を土壌へ過不足なく供給することも重要となります。

またキュウリの摘心栽培とつるおろし栽培の記事でご紹介したように、地域の気象特性に応じた栽培方法や作型の選定も重要となります。このような様々な要因について最適化することが、キュウリの収量向上には求められるでしょう。

参考文献:稲山光男編著、キュウリの生理生態と栽培技術、誠文堂新光社(2012)

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