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農業用ハウスにおける地上部環境制御の活用~光・温度・湿度・CO2の作物への影響と制御方法~

環境制御は施設園芸分野では近年重視されている技術であり、露地栽培に対してハウス内栽培において最も特徴を生かせる技術と言えるでしょう。

環境制御における対象要素には様々なものがあり、お互いの要素同士の影響もあります。実際の制御ではそうした相互関係を考慮しつつ、植物にとっての最適な環境について常に考える必要があります。

ここでは様々な要素のうち、光と温度、湿度、及びCO2について、植物への影響と実際の制御の方法についてご紹介します。

→地下部の環境制御についてはこちら「【地下部環境制御】土壌環境の計測と制御の方法」

 

環境制御と光管理

光と光合成

植物が光合成を行うには、光が必要とされます。光には、光合成有効放射(PAR)と呼ばれる光合成に有効な波長帯域があり、波長400~700 nmの光として定義されています。 この帯域より小さい(波長が長い)帯域には赤外線があり、大きい(波長が短い)帯域には紫外線があります。光合成に有効な波長400~700 nmの光は可視光と呼ばれています。また可視光においても波長によって光合成への影響が異なり、650nm付近が促進のピークとなります。

光の計測と表現方法

光合成に影響を及ぼす光の強さをエネルギー量(日射量、単位:W/㎡など)で表すことが多く見受けられますが、正確には光合成有効放射について表す必要があり、光合成光量子束密度(PPFD、単位:µmol/m2s)が使われます。その測定ためには光量子センサーが用いられますが、施設園芸での環境計測や環境制御の場面では一般的に日射量を日射センサーで計測して代替しています。 日射量は瞬間的な値であり変動も大きいため、指標としては一定時間内の積算日射量(単位:MJ/㎡)が多く用いられます。その日の日射量の程度について、「日積算日射量が〇〇MJ/㎡である」といった表現が多く用いられます。
日射センサー
日射センサー

光合成と光飽和点

光合成に有効な光の強さ(光合成光量子束密度)と光合成速度の関係は、光が強くなるほど光合成速度は増しますが、その増加の程度を表わすグラフの傾きは徐々に小さくなり、やがて飽和となります。光合成速度がこれ以上増加しない光の強さを光飽和点と呼びます。 施設園芸では光が光合成の律速要因とされることもあり、光が多いほど良い、といったことが言われることもあります。しかし光飽和点以上の光は光合成には不要であり、また光飽和点未満の強さであっても、光が強くなるほど光合成速度の増加は小さくなり、効率も低下します

光の制御

施設園芸で利用する光の多くは自然光(太陽光)であり、その強さは季節や天候に左右されます。曇天や悪天候により必要とする光の強さが得られない場合もあり、まさにお天気次第となる場面も多くあります。 制御が難しい面がある光ですが、過剰な光が透過することを防ぐため、遮光による制御が行われます。これは遮光資材と呼ばれるカーテン資材の開閉や巻取りにより、影を作ることで行うものです。遮光資材には様々な遮光率のものがあり、暗黒にするための遮光率100%の遮光資材から、ごく薄い遮光のための遮光率15~20%程度の遮光資材などがあります。 遮光の目的は、一般には過剰な光によるハウス内の温度上昇を防ぐためであり、特に高温期に必要とされる制御です。
遮光による光の制御
遮光による光の制御

事例は少ないものの、近年は人工照明による補光栽培がみられます。これは高圧ナトリウムランプやLEDなどの照明器具をハウス内に設置して照明を行うものです。

また、照明器具から出る光の強さは太陽光には及ばないものです。補光栽培は太陽光の入射角度が低くなる冬期を中心に日中に行われていましたが、日長時間を延長するような夜間補光も最近では季節を問わず行われているようです。

これは弱い光のほうが光合成速度を増加させる効率が良いことがあるためです。日中に必要以上の光を与えるよりも、光がゼロの夜間に弱い光を与えることで、その日の光合成量を効率的に増加することが可能となります。

人工照明による補光
人工照明による補光

環境制御と温度管理

施設園芸の環境制御では温度を中心に組み立てが行われます。露地栽培に比べて植物の生育に適する温度帯に室温を制御することで、高い生産性を得られるためです。温度には最高温度や最低温度、平均温度などの様々な指標があり、それらを用いながら温度管理を行って植物の生育を制御します。

温度と植物の生育

植物の生育には発達と成長のふたつがあります発達とは、芽、葉、花、果実などの器官の発生のことで、成長とは、葉や茎の伸長や果実の肥大などのことです。前者の発達には温度が影響を及ぼし、一般的には積算温度や日平均温度といった指標で管理を行います。日平均温度が高ければ器官の発達速度が早まり、例えば葉の展開速度や花芽の発生が早まります
植物の生育には発達と成長のふたつがある

温度の計測方法

ハウス内での温度計測は、上記の植物の生育への影響があること、また暖房機や換気装置など様々な機器類の制御の元となるデータを得るためのものであり、非常に重要な要素です。 最近は温度と湿度、CO2濃度の計測を一体で行うよう、各センサーを一体のボックスに収納した計測ユニット化も行われています。またユニットは遮光の機能の他、温度上昇を防ぐようファンが取り付けられています。こうした遮光と通風の仕組みは温度単体での計測でも必要とされます。 温度の計測について、上記の計測ユニットを用いる場合は、その栽培区画の中心箇所などに取り付け、また位置的には植物群落内の成長点付近に取り付けることが多くみられます。温度の計測対象は群落付近の気温となりますが、実際に計測したいのは葉温など植物体の温度です。しかし葉温などを計測するには先端の細いセンサーを貼付けたり、シート状のセンサーを貼るなど、細かな技術が必要なため、群落付近の気温で代替することになります。さらに大区画の施設などでは、区画を分割して区画ごとに計測ユニットを設置して個別に計測や制御を行うことが多くみられます。 温度センサーには、一般的なサーミスターや精度の高い白金抵抗体など様々な種類がありますが、通常は計測機器や制御装置とのセットで購入する形になります。

温度の指標

温度に関する指標として代表的なものは、前述の積算温度や日平均温度があります。このふたつの指標は同義と言えますが、例えば日平均温度をモニターしながら植物の発達速度(開花や葉の展開など)を調節することが考えられ、その際には温度の瞬時値ではなく日平均温度が管理指標となります。 最近の計測機器や制御装置では内蔵された演算機能によりこれらの指標を表示し、制御に用いることもあります。また日平均温度をさらに昼間の平均温度と夜間の平均温度に分けて考える場合もあります。例えば日平均温度を一定に保つ中で、なんらかの理由で昼間の平均温度を上げる場合に、その分は夜間の平均温度を下げるような管理が考えられます。 その他の指標として最高温度と最低温度があります。これらは、植物にとっての適温範囲や限界温度範囲として用いられます。

温度の制御方法

温度制御の主な方法として換気と暖房があります。日中はハウスに太陽光が注ぎ室温が上昇する場合には、換気によって室温を調整します。換気の方法には天窓や側窓の開閉による自然換気と、換気扇の動作による強制換気があります。 室温を細かく調節できるのは天窓換気であり、窓の開度や開閉動作の感度を微調整します。また風向によって風上側の窓を閉め風下側の窓を開閉することで、室温が大きく変化することを防ぎます。
天窓換気

強制換気は特に高温期に用いられ、大型の換気扇によって排気を行うものです。パッドアンドファンなどの冷却設備の一部としても用いられます。自然換気に比べ強制換気ではファンなどの稼働に対し電力消費とコストが発生します。

暖房の方法には、温風暖房と温湯暖房があります。温風暖房は中小規模のハウスで用いられ、重油やLPG等を熱源として燃焼時の廃熱を送風して行います。近年では燃焼式の暖房機ではなくヒートポンプの利用も多くみられます。

温風暖房機には大型ファンが内蔵され、送風ダクトを通じてハウス全体に温風を送ります。ダクトの配置やダクトに開けられた通風孔の位置や数によって、ハウス内の温度分布に影響が生じ、それらの調整も必要とされます。

暖房設備の一例

温湯暖房はヘクタール規模の大型のハウスで用いられることが多く、重油やLPGを燃焼する方式のボイラーを用います。70℃程度の温水をボイラーで生成し、送水ポンプでハウス内に張り巡らされた温湯管内を循環させるものです。

燃焼設備と熱交換設備、温湯配管設備など数多くの設備が必要で投資額も大きくなります。室温の調節は温風暖房に比べマイルドな変化の中で行うことができます。これは循環する温湯の水量を微妙に調節することで可能となります。

→高温時の対策については、こちらの記事もご覧ください。 「高温期のハウス栽培と高温対策について」

 

 

環境制御と湿度管理

施設園芸の環境制御では湿度は温度と同様に重要な要素です。半閉鎖空間と言えるハウス内での栽培では、湿度が上昇して結露しやすい環境になることも多く、病害発生の主要因になります。そのため適切な湿度に管理して病害防除や農薬使用量の削減を行う必要があります

また外気の湿度が低下している際に換気を行うとハウス内も低湿度となって植物にストレスを与える場合もあります。また植物の蒸散を促進して給水や肥料分の吸収を促すためにも、適切な湿度管理が求められます

蒸散を促進する適切な湿度管理が大切
蒸散を促進する適切な湿度管理が大切

相対湿度と飽差について

湿度は空気中に含まれる水蒸気量を表し、一般には相対湿度(%)が用いられます。その気温での飽和水蒸気量に対し、実際の水蒸気量の割合が相対湿度となります。飽和水蒸気量は、その気温での空気中に含まれる最大の水蒸気量のことで、気温が高くなるほど比例して増大します。従って実際の空気中の水蒸気量が変わらなければ、気温を高めることで相対湿度は低下します。 最近は相対湿度の他に、飽差(g/㎥)を用いることがあります。飽差は、その気温での飽和水蒸気量に対し、あとどれだけの水蒸気量が空気中に入ることができるかを表したもので、空気1㎥に対する水蒸気量(g)となります。植物の葉からの蒸発(蒸散) は飽差にほぼ比例するため、飽差は蒸散と湿度の関係を捉える場合に重要となります。

湿度と植物の生長

湿度の上昇に伴い飽差が低下すると、植物の蒸散が抑制され生長点付近の水分含量が増加します。植物の細胞が膨らみ伸長するには水分が必要となりますが、湿度を高めることで細胞の伸長が促進され、茎の伸長や葉面積の拡大などにプラスに働きます。湿度を調節することで、こうした植物の生長に影響を及ぼすことが可能となります。

具体的な調節方法として、換気の抑制による湿度の確保や、ミストを利用した積極的な加湿があります。また植物そのものの蒸散を利用してハウス内の湿度を確保することも考えられます。

湿度と植物の蒸散

植物の蒸散は湿度が低い場合(飽差が大きい場合)に促進され、さらに蒸散によって植物の根からの吸水が促進されます。よって植物が水分を確保し、また土壌中の肥料分を吸収するには、湿度(飽差)の調節と蒸散の促進が重要となります。 なお過度に湿度が低下すると、植物は気孔を閉じて蒸散を抑制します。その状態が続くと植物にストレスを与えることになり、蒸散抑制によって吸水抑制が続くと植物が萎れるおそれもあります。
換気による湿度の調節
換気による湿度の調節

この場合の湿度の調整は、主に換気によって行います。室内より低湿度の外気を換気によって導入することで湿度は低下します。しかし雨天や霧などの場合は外気を導入しても室内の湿度を下げることは難しく、換気と暖房を同時に行う方法などがとられます。

湿度と病害抑制

湿度は病原菌の増殖(胞子の形成など)に影響を及ぼし、特に結露に近づく高湿度の状態が続くと病害発生のリスクが高まります。また高湿度条件から果実に結露が発生し、その箇所から病原菌が増殖する場合もあります。一方で、低湿度でも発生が促進される病害もあるため、注意が必要です。 病害発生に対する湿度の調整には前述の換気による方法の他、暖房により相対湿度を低下する方法、換気と暖房を同時に組み合わせて行う方法などがあります。さらに厳寒期など外気温が低い場合に、被覆資材の内面に結露が発生し、結露水を室外に排出することで、湿度を低下させることも可能です。この場合は、内張カーテンに透湿性資材のものを用いることや、カーテン開閉状態を少し開ける(透かす)ことで内面結露を促す方法が取られます。
谷換気の一例

湿度の計測

湿度計測には古くは乾湿球計が用いられ、現在でもハウス内での計測に利用されています。これは水タンクとガーゼ等を用いて湿らせた温度計より湿球温度を計測し、乾球温度との比較で相対湿度を求めるものです。水分供給がネックとなり継続的な利用に難がありますが、確実な湿度計測の方法と言えます。また温度センサーと同様に通風とユニット等による遮光が必要です。最近は乾湿球計に替わり、セラミック式など電子式のセンサーが用いられますが、これも同様に通風と遮光が必要となります。
湿度と飽差
飽差メーターの一例

湿度の制御

すでに換気や暖房、それらの併用による湿度の制御について述べてまいりました。その他に、除湿や加湿を積極的に行う機器利用についてご紹介します。 除湿用の機器として、ヒートポンプや除湿器があります。これらはハウス内外の熱交換を行う仕組みを持ち、その際に結露による除湿を行う機能があります。ヒートポンプは運転切替えによって暖房と冷房の両方の運転が可能ですが、冷房運転時に結露水を室外に排出することで除湿を行います。 除湿器は除湿専用の装置で、冷却による除湿を行いながら再加熱を行って低湿度の温風を室内に送風するものです。
ミスト発生装置による加湿

加湿用の機器として、ミスト発生装置があります。ミストノズルと動力噴霧器を配管で結び、室内に直接ミストを放出するものです。春先などの乾燥時期や、定植後の群落がまだ小さい時期などに用いるものです。同様な機器に細霧冷房装置がありますが、こちらは細密なノズルからの細かなミストの発生により気化冷却を行うもので、使い方によっては加湿用にも使用可能なものです。その他に通路や土壌への散水によって湿度を高める方法も行われています。

環境制御とCO2管理

植物が光合成を行うには、光の他にCO2も必要とされます。CO2は大気中に0.04%(400ppm)程度含まれていますが、ハウスが密閉状態で植物が光合成を行っているとCO2濃度は400ppm未満となり、やがて飢餓状態となります。そのため光合成を促進するには積極的にCO2を与える必要があります。近年の環境制御ではCO2施用と呼ばれる技術が普及しており、直接的な効果の高い技術として取り上げられています。

CO2の供給と濃度計測

CO2のハウス内への供給源として、灯油やLPGの燃焼ガスを用いる方法や、液化CO2から気化したガスを用いる方法などがあります。燃焼器や気化器から発生するガスは、送風ダクトを用いて植物群落付近に送る方法が近年では用いられています、また機器の動作はタイマーやCO2濃度センサーにより制御します。
CO2施用機

CO2濃度センサーには安価な半導体素子を用いたものが最近は主流となっています。

またNDIR方式と呼ばれる CO2濃度に応じた赤外線等の光の吸収量をもとにCO2濃度を算出するものも多く用いられています。NDIR方式では経年での測定値のズレを補正する機能が組み込まれており、標準校正ガスなどを用い定期的な校正を行い、測定精度を維持することも可能です。

CO2濃度の飽和点と制御目標濃度

また前述の光飽和点と同様に、CO2濃度にも飽和点があります。植物の種類により1000~2000ppmまでCO2濃度を高めると光合成速度も比例して増加しますが、徐々に増加速度は抑制され、一定濃度まで高まるとそれ以上の増加は見られなくなります。その濃度が飽和点となります。また飽和の範囲内であっても過剰な供給を行うと費用対効果も薄れ、さらに温室効果ガス排出にも影響を及ぼしかねず、適度な濃度制御が必要となります。 現実的には、大気並み濃度である400ppm程度を目標とした制御を行う場合と、それよりも高い濃度(500~600ppm程度)を目標とした制御を行う場合があり、また費用対効果を考えつつさらに高い濃度(600~800ppm程度)を目標とする場合などが考えられます。
ダッチジェット
CO2施用機(ダッチジェット)

CO2のゼロ濃度差施用(大気並み濃度)

大気並み濃度の400ppm程度を目標とする制御のひとつとして、CO2のゼロ濃度差施用という制御技術があります。これはハウスが換気状態にあり外気とのガス交換が発生している状況で、ハウス内にCO2を供給し見かけ上大気並み濃度に保つような制御を指します。 こうした状況ではハウスの換気窓(天窓、谷換気窓、側窓など)を通じて外気からハウス内へのCO2の流入と、ハウス内から外気へのCO2の流出が等しくなっており、ハウス内外の見かけ上のCO2濃度差がゼロになります。 換気状態でCO2の供給を行い、ハウス内からのCO2の流出があっても無駄にはならないという考え方になります。 この考え方にもとづき、冬から気温が上昇し換気が行われる時期になってもCO2の供給を行い、ハウス内のCO2濃度を大気並みの400ppm程度に保ち、経済的に光合成を促進する方法が近年普及しています

CO2の濃度制御(500~600ppm程度)

ゼロ濃度差施用では400ppm程度の濃度制御となり、それ以上の濃度上昇と光合成の促進を行うことができません。さらに光合成促進を経済的に行うには、換気窓が閉じた状態でCO2の供給を行うことが望ましいと言えます。換気窓が大きく開いた状態でCO2供給を行うと、外気へのCO2流出が大きくなりCO2濃度もなかなか上昇せず、さらに供給ロスと温室効果ガスの外気への排出という問題も起ります。 こうした問題を解決するために、換気窓の開度などに応じてCO2濃度を制御する技術が用いられています。換気窓の開度が小さい(少しだけ換気窓が開いた状態)ではCO2濃度の目標値を高く設定し、開度が大きくなるにしたがって目標値を低く設定するような制御方法となります。 このような制御機能は最近の統合環境制御装置(ハウスの様々な環境要素を計測し統合的に機器類を制御する機器のこと)に実装が進んでいます。

まとめ

光、温度、湿度、CO2について、植物の生長との関係や計測制御の方法について述べてまいりました。いずれの要因もハウスの地上部環境となりますが、地上部だけを良い環境にしても地下部の環境(土壌や水分)が適切でなければ植物の生長を最適化することはできません。 また地下部の環境にも温度や湿度などを通じて地上部からの影響が生じることがあります。このようにハウス内環境を総合的に捉えて管理することが重要と言えるでしょう。
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