気候変動における高温対策

栽培

近年の気候変動における猛暑の発生は、日中の最高気温の上昇と、それに伴う夜温の上昇の二つの側面があると思います。また秋になっても夏日があるなど、発生期間も長引く傾向にあります。従ってそうした高温の影響を受ける時間帯や期間も長引き、従来の対策では十分な効果が期待できない場面も生じてきます。また栽培面では品種のみならず、作型や品目を切り替えるなど、根本的な対応を迫られる可能性もあるかもしれません。本記事ではゼロアグリブログの過去の記事を含め、できる限り多くの高温対策を列挙します。今後の対策について考えるヒントになればと思います。

(1)資材による高温対策

遮光ネットや塗布型の遮熱資材などの資材を利用した高温対策をお示しします。

①遮光資材の利用(内部遮光)

遮光と保温を兼用する内張カーテンを利用した内部遮光は、一般的な対策のひとつです。兼用のカーテン資材は空隙の多い遮光専用資材に比べ通気性は劣るため、天窓などの換気の妨げとならないよう、隙間を開けながらカーテンを展張する形になります。また内張カーテン資材に遮光専用のものを利用するケースもあります。さらに二層カーテンの場合、2種類のカーテン資材を組み合わせ、日射量等に応じて何段階かの遮光率を実現する使い方もあります。

②遮光資材の利用(外部遮光)

外張カーテンとして遮光資材を利用する場合には、白色系や黒色系の遮光ネットを単棟ハウス全面に展張する形が多くみられます。ハウス内への太陽光の放射を直接遮るため、内部遮光より効果的な方法と言えます。しかし常時の固定張りとなるため、曇雨天時にはハウス内が光線不足になることも考えられます。

一方で固定張りではなく、屋根面での可動式の外部遮光の形もあります。遮光ネットを巻上げパイプの回転により巻き上げと巻き下げを行い、日射量等に応じた開閉の調節を行うものです。回転は手動とモーターによる自動の方式があります。巻上げパイプや遮光ネットは屋根面で強風に晒されることも多く、ベルト等でバタつきを抑えるなどの対策も必要になります。

ゼロアグリブログ:遮光とハウスの高温対策① ー遮光の方式と外部遮光についてー

③遮熱資材の利用

近年では新たな外部遮光の方法として、塗料状の遮熱資材の塗布によるものが広がっています。これは動噴などでハウス屋根面や側面に希釈した遮熱資材を吹き付けることで遮熱を行うものです。遮熱資材は遮熱剤、遮光剤などと呼ばれることもあり、正確な用語の定義はされていないようですが、ここでは遮熱資材とします。

遮熱資材には、太陽光のうち光合成に有効な可視光領域の部分をなるべく透過させ、熱線(赤外線)の領域の部分を遮るような機能を持った製品があり、作物の生育と遮熱の両立を図っています。遮熱資材は長雨や積雪などで自然に剥離する場合もありますが、リムーバーと呼ばれる専用の剥離剤を散布して除去する場合もあります。塗布の量、厚さや塗布回数(2度塗りなど)で、遮光の程度を調整することもあります。

ゼロアグリブログ:遮光とハウスの高温対策② ー外部遮光資材・屋根散水・遮熱資材についてー

④遮熱機能を持つ外張被覆資材の利用

外張被覆資材の製品で、熱線(赤外線)を選択的に反射し遮熱機能を持つ農POフィルムが開発・販売されています。透明性も確保し、太陽光のうち光合成に有効な可視光や紫外線の領域は透過する性質を持っています。夜間の保温についても、室内から室外への放射を抑制(反射)する効果もあり、通年の外張被覆資材として利用されています。フィルムメーカーのオカモトより遮熱農PO 『POクール ALL SEASON』として販売されています。

オカモト(株)ニュースリリース:農業用遮熱 PO フィルム「PO クール」が農林水産省の「みどりの食料システム戦略」に基づく基盤確立事業実施計画に認定されました

(2)機材による高温対策

換気装置や冷却装置、ヒートポンプなど、機材を使った高温対策をお示しします。

①自然換気による排熱

高温対策の主要技術として、前述の遮光によるハウス内温度の上昇防止の他、自然換気による排熱があります。換気は、天窓、側窓、谷などの部位別に換気窓が設けられ、通風や煙突効果などによりハウス内外の空気の交換を行うもの(自然換気)です。そこで内部の暖められた空気を外部へ放出することで排熱が行われます。そのため換気効率の高いハウスが求められますが、具体的には換気窓の開口面積が広いこと、風向き方向に開口されハウス内を風が通り抜けやすいこと、開口部の防虫ネットについて目合いが大きいものなど空気抵抗が小さいものであること、などがあげられます。

ゼロアグリブログ:ハウスの換気装置について② ー天窓換気装置、谷換気装置、防虫ネットー

②強制換気と外気導入

前述の自然換気装置に対し、電動式の換気扇を用い人為的な気流を発生させることで換気を行うものを強制換気装置と呼びます。強制換気装置は、ハウスの一方の妻面もしくは側面に大型の換気扇を設置し、もう一方の面に開口部を設け、外部からの吸気(外気導入)と外部への排気を行います。また合わせてハウス内にも横方向の気流を生じさせる働きがあります。いずれの部分にも電動式シャッターが取り付けられ、換気扇の動作停止時には通風が行われない仕組みになっています。吸気がされる開口部には防虫ネットが展張されています。

ゼロアグリブログ:ハウスの換気装置について③ ー強制換気装置ー

強制換気では換気扇の動作に電力を用い、イニシャルコストとランニングコストの負担が大きくなります。最近では温風暖房機の送風機能を利用し、暖房機の吸気口に外気が導入される構造を持つものも開発・販売されています。導入された外気は暖房機本体を通過して、ダクトや循環扇などによりハウス内に広がり、換気窓など開口部から外部へ排出されます。

③気化冷却の利用

気化冷却とは、水が水蒸気になる際に気化熱(水1リットル当たり約2,400kJ)が必要なことから、水を水蒸気に変化させることにより気温を低下させる方法のことです。また人為的にミストを空中に放出して蒸発を促し冷却効果を狙う方法があります。これを気化冷却法、細霧冷房などと呼んでいます。細霧冷房の装置はミストを発生させるノズルとその配管、および気化させる水を高圧で送出する動噴などから構成されており、ハウス内温度や日射量、湿度などに応じた動作制御が行われます。

ゼロアグリブログ:冷房について① ー気化冷却による冷房ー

気化冷却の利用例として、他に屋根散水があります。これはハウス屋根面に展張した遮光ネットの上からチューブ潅水を行いネットを濡らしての気化冷却を行うものです。資材費もあまりかからず簡単に行える気化冷却と言えます。

農研機構、群馬県農業技術センター、栃木県農業試験場 屋根散水による施設内冷却技術マニュアル(2020)

④ヒートポンプによる夜間冷房

ヒートポンプとは、熱(ヒート)を温度の低いところから集めて温度の⾼いところへ汲み上げる機器(ポンプ)のことです。家電のエアコンは、ヒートポンプの別名であり、室外機と室内機によって屋外と屋内で熱の移動を行い暖房や冷房を行う仕組みとなっています。施設園芸用のヒートポンプも各社から販売され、重油暖房機などと併用しながらヒートポンプを稼働させ、暖房での化石燃料使用量やエネルギーコストの削減が図られています。

ヒートポンプには暖房の逆の機能として冷房も可能であり、施設園芸では主に夜間冷房で用いられます。熱帯夜の時期など日没後にハウスを密閉状態(換気窓を閉じ、保温カーテンも展張した状態)にし、冷房運転によりハウス内温度の低下させ、高温による作物の呼吸消耗などを抑制するものです。ヒートポンプの導入にはイニシャルコストもかかり、また電力基本料金も周年で発生するため、暖房だけでなく冷房用に用いることで利用効率を高めることにつながります。

ゼロアグリブログ:冷房について② ーヒートポンプによる冷房ー

⑤ハウス骨材や地温の温度上昇防止

日中にハウス内に強い日射が入った場合、ハウスの骨材や土壌を温め、温度も上昇しますが、それらの温度はすぐには下がりにくく、日中や夜間の温度上昇にも結び付くことも考えられます。そのため近年ではハウスの骨材を白く塗装したり、反射性のフィルムを巻き付ける場合があります。また地面にも白色のグランドシートを展張して地温上昇を防ぐこともあります。これらによって夜間まで日中の温度上昇を持ち越すことも緩和され、前述のヒートポンプによる夜間冷房の場合でも冷房負荷を下げてより低い夜間温度の実現につながるでしょう。なおこうした対策によってハウス内全体が明るくなり、光合成の促進にもつながることが期待されます。

(3)栽培面での高温対策

栽培方法や作型の調整、品種や品目の選定など、栽培面での高温対策をお示しします。

①夏秋栽培と夏越し栽培など作型の変更・調整

トマトなどの果菜類栽培では、雨よけハウスなどの簡易な施設を使った夏秋栽培が高冷地を中心に行われています。こうした栽培も気候変動と猛暑の影響を受け、減収や品質の低下などが発生しやすくなっています。そのため猛暑時期に備え、早めに樹勢を作り上げて対処するよう作型の調整も行われているようです。また高軒高ハウスでのハイワイヤー栽培において、前述の各種冷房装置を使いながらGW時期の定植~7月頃から収穫を開始する夏越し栽培にチャレンジするトマト農場もみられるようになりました。これはまだ一般的なものではありませんが、トマトが不足し価格も上昇する9月以降の収量確保を目標に、様々な高温対策や栽培管理が行われています。

ゼロアグリブログ:トマトの夏秋栽培/抑制栽培/夏越し栽培|様々な作型の特徴とメリット

②耐暑性品種の利用や作物転換

高温の影響を受けやすいトマト栽培では、高温時の着果が良好なことや裂果がしにくいことなど耐暑性をうたった品種が国内外の種苗メーカーで開発され、近年では多く利用されています。また、より暑さに強い作物に一部転換する経営体もみられます。その場合、高温期には作物の成長速度も速く作業負荷も大きくなりやすいため、ピーマンやパプリカなどトマトに比べ収穫間隔が長く成長も緩慢な作物を選ぶ例もみられます。

③高冷地栽培の選択

平地や暖地での栽培を行う経営体が、前述の高冷地などでの夏秋栽培を新たに行う例がみられるようになりました。これは従来の栽培と並行し、新たな高冷地栽培を組み込み、収穫物が少なくなりやすい高温期にも出荷を確保することも目的としているようです。自分の経営の中での産地リレーの形とも言えるかもしれませんが、まったく異なる地域での栽培を開始するには、土地や施設の確保、現地での人材の確保、販路や物流の確保など、新たな課題を乗り越える必要があるものと考えられます。

(4)今後の展開

資材の利用面、機材の利用面、栽培面での様々な高温対策について、ご紹介をしました。猛暑の長期間の発生に対し一つの対策だけでは効果が得られない場合でも、複数のものを組み合わせ、総合的な効果につなげることも考えられます。気候変動の影響は今後も続き、場合によっては悪化することもあるかもしれません。そうした状況にも備えるためにも、様々な対策とその事例について理解を深める必要があると考えます。

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

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