雇用型経営で考えるべき管理業務について②
ー具体的な作業管理の内容ー
生産性向上

施設園芸の作業の多くは手作業により行われ、機械ではなく人間に依存するものが多々あります。また特に大規模栽培での作業遅れの発生は、作物の生育面や収穫出荷面などに大きな影響を与えることがあります。また数ヘクタール規模の施設になれば一人で全体の運営を行うことは不可能であり、組織的な運営が必須となります。本記事では、そこで必要とされる作業管理の内容について具体的にご紹介します。
施設園芸分野で一般的に使われている「作業管理」の意味として、下記のことが考えられます。
作業管理:作物の生育や収量出荷量などの見込に対し必要となる作業計画を立て、計画に従って作業を実施するとともに進捗管理を行い、また作業遅れを回避し作業効率を高めるよう行われる作業にまつわる管理業務のこと。
これらの管理業務は、計画と実績の差異をもとに計画内容を調整、修正するようなPDCAサイクルとして行われることもあります。
こうした内容に沿って、作業管理についてひも解いてまいります。
(1)作業計画の立案
まず、大元となる作業計画の立案についてです。作業計画にはおおまかな年間作業計画に始まり、具体的な月間や週間の作業計画、誰がどこで何をやるかといった詳細な日々の作業計画など、期間や段階に応じたものがあります。
作業計画のフォーマットには様々なものがありますが、1例としてハウスや区画ごとに、必要な作業(収穫、誘引、葉かきなど)について、月毎・週毎・日毎などの単位で、必要な人工数を割り振ったものがあります。下表は簡単な年間作業計画の例になります。
表 年間作業計画の簡単なフォーマット例

①年間作業計画
年間作業計画は、育苗~定植~収穫開始~収穫終了~撤去・次作準備(作替え)のような流れを月単位や旬単位で示した栽培体系(作型とも言う)をベースに組み立てられます。
作型:季節や地域に応じて異なる環境条件において、作物の経済的栽培を行うための栽培体系のこと文献1) 。果菜類では促成栽培、抑制栽培、半促性栽培などの作型があり、それらの組み合わせによる周年栽培もあります。近年は年1作型の長期取り栽培が増え、トマトでは8月の盆前後に定植を行い、10月以降の秋口から翌年の6月~7月まで収穫する作型が一般的になっています。しかし一段と厳しい猛暑の発生やその長期化によって、秋口の極端な収量低下が全国的に発生し、作型や年間の作業計画への影響も起こり始めています。そうした気象要因も加味した計画の立案も今後は重要になるでしょう。
年間作業計画では、こうした作型の他にも、月別に予定される収量や出荷量を表した年間生産計画をベースに組み立てられます。収穫に必要な工数(トン当たり何時間といった人工数)を定めれば、必要な作業者の人数が算定され、前記の表での月別作業別の必要時間数を埋めることができます。また常時必要となる人工数の他、作替えなどの季節ごとに発生する人工数、収量が増加する春先などに追加の必要がある臨時雇用の数なども記載することがあります。さらに農業全般に言えることですが、施設園芸においても年間を通じた作業の平準化は困難で、繁忙期には残業や休日出勤、臨時雇用などで対応しなければならないケースが多くあります。年間作業計画でのこうした時期別に必要となる人数を、パートやアルバイトなどの雇用計画に反映することになります。
②月間作業計画
月間作業計画は、その月に行う作業を日別に具体化し、必要な人工数と合わせて日程として組んだものになります。フォーマットとしては、前述の年間作業計画での月別作業別の必要時間数を、日別作業別時間数に置き換えたものになります。具体的な作業内容として、下記のようなものがあります。
作業の例:トマトの誘引作業や葉かき作業など、あるサイクルで定期的に実施する作業、また収穫作業であればキュウリのように毎日行うものもあれば、他の果菜類では数日単位で行うものもあり、葉菜類のように1作で1回だけ行うものもあります。さらに間隔を置いて行う作業をハウス単位や区画単位でずらしながら行い、日々の作業量を平準化する場合もあります。また防除作業では、定期防除としてサイクル化されたものや、病害虫の発生状況に応じて都度行うものなどがあります。
月間作業計画で算定された日別に必要な人工数に対して、実際の人工数に過不足が無いか、パートやアルバイトの方々のシフト表との照合を行います。希望するシフトと必要な人工数にミスマッチがある場合には双方で調整を行います。そこでは作業遅れが生じないよう、特に誘引など期限が決まっている作業について注意が求められるでしょう。
週間作業計画の例:月間をさらに週間に落とし込んだ週間作業計画を立案する場合もあります。これは農場の管理サイクルが週単位で行われ、社員のミーティングなどが週間で定期的に開催される際に使われる資料となります。そこでは作業計画の他、前週の収量の計画と実績および今週の計画、生育調査などにもとずく前週の作物の生育状況と今週の栽培管理方針などが記載されることもあります。
③日次作業計画
日次作業計画は、その日にやらなければならない作業の内容をまとめたものです。圃場の区画や畝ごとに記号や番号を振り、誰がどこでどの作業をいつまでに終えるのかについて具体的な指示を行います。ホワイトボードを使いその日の作業内容を一覧化したり、作業管理アプリなどを使い、個別に指示を送るなど、アナログやデジタルでの様々な指示の手段があります。また特に遅れが目立つ作業や、その日のうちに確実に終わらせたい作業などがあれば、重点的に人を配置するなどの配慮がされるでしょう。
日次作業計画の内容は朝礼を通じて伝達する場合もありますが、シフトの関係で全員が朝礼に集まることができない場合も多く、ホワイトボードやアプリ等を通じて本人が確認することになります。また伝達したことが確実に実施されているかの確認として、作業進捗管理が重要になります。
(2)作業標準と作業標準時間の検討
作業計画の立案の際に、個々の作業を実行するための時間数をあらかじめ明らかにする必要があります。そのために作業標準や作業標準時間を検討することになります。
作業標準:作業種別ごとに行われる作業内容を統一化(標準化)し、誰もが同じ手順や動作で作業を行えるようにしたもの。また1つの作業を実行するために必要な標準的な時間(作業標準時間)を設定する。
作業標準は、マニュアル、図解、手順書などに落とし込まれますが、最近は動画として管理されることもあります。農場開設時にはそうしたものは存在しないことが多く、徐々に整備することになるでしょう。また作業標準時間も、当初は作業に不慣れなため長く要するでしょうが、こちらも徐々に慣れてスピードアップが図られることになるでしょう。作業内容も常に一定ではなく、工夫や改善があって改訂や更新がされるものとなります。
なお作業標準は作って終わり、伝えて終わりではなく、前述の改善の他にも教育や指導が伴うものです。初心者には実際に作業の見本を実技として示す必要があるでしょうし、初心者とベテランがペアになり、現場で教えながら作業を進める場合もあります。従業員の入れ替わりは時間とともに必ず発生するため、初心者に対する教育指導の体制も不可欠となるでしょう。
(3)作業の進捗管理とモニタリングの実施
作業が計画通りに行われているかの進捗管理が必要になります。現場でよく使われているのが作業マップと呼ばれるツールです。
作業マップ:圃場の畝単位、栽培ベンチ単位での作業進捗管理を行うマップのこと。誘引や葉かきなど作業別にマップを用意し、ラインマーカーで担当者別や曜日別に作業実施箇所を塗ることで全体の作業状況を見える化するもの。またメモとして担当者別の作業開始と終了時刻を記入することもある。さらに作業者が病害虫の発生を確認した場合、マップ上に記入することで担当者へ伝達する使い方もみられる。
作業マップによる進捗管理は紙と筆記用具を用いたアナログ的なものです。費用もかからず導入も簡単なものですが、データを残し集計するには不向きな面もあります。近年では専用のアプリ上で個別に作業記録を入力し、全体の進捗状況の管理と個人ごとの作業記録の管理を行う形態もみられるようになりました。
作業管理アプリ:従業員の作業内容や作業箇所、作業時間等を記録し、進捗状況や作業効率などを管理するアプリケーションのこと。作業の他、収量や農薬使用履歴などを総合的に扱うものもある。スマホやタブレット等の情報端末を用い、クラウド経由での記録や集計閲覧を行う。汎用的な無料のものから施設園芸の雇用型経営に特化した製品などがある。情報端末は圃場に設置した共有のものを用いたり、個人ごとに配布したり、また個人所有のものを有償で利用する場合などがみられる。
作業の進捗管理により、個人別の作業時間がデータとして残されれば、農場全体での作業標準時間の算定にも利用することができます。作業時間からはその最大値、最小値、平均値、中央値などが集計可能ですが、実現可能な値を作業標準時間とすることで、作業計画立案の基礎として用いることができるでしょう。なお日々の紙ベースのデータを拾って再入力し集計することは負担が大きく、残業の要因にもなりやすいため、やはりアプリ等を用いた自動集計が望ましいと言えます。
(4)今後の展開
以上のように、年間・月間・日次の作業計画の立案、その基礎となる作業標準や作業標準時間の策定、実際の作業の進捗管理とモニタリングは、全体としてPDCAサイクルに位置づけることができます。例えば作業の実施結果より遅れや前倒し完了がみられれば、次の作業計画に反映する必要があります。また作業標準時間に変化があれば、必要な人工数を調整して作業計画の見直しにつなげることになります。さらに作業標準時間を短縮するような目標を立てた場合には、そのためのトレーニングやツール等の整備も必要となるでしょう。
本記事では、遅れを出さないよう作業を計画的に行うための作業管理の内容をご紹介しました。人手による作業の時間は生産コストの多くを占める人件費に直結するもので、農場経営にも大きな影響を及ぼすものと言えます。また年々上がる時給単価や、いわゆる年収の壁問題、社会保障費の充実など、多くの要因とも関係するものです。農場経営者には頭の痛い話も多いかと思いますが、まずは根本となる作業管理の体制を固め、データにもとづく管理をしっかりと行う必要があることでしょう。最後に下記の参考文献 2) ~ 4) にあげた資料には、大規模施設園芸における作業管理や労務管理などの事例が豊富に紹介されています。
参考文献
- 作型、農業技術事典、農研機構
- 大規模施設園芸・植物工場 導入・改善の手引き(2020)、日本施設園芸協会
- 冬季寡日照地域における大規模施設園芸導入・運営マニュアル(2020)、富山スマートアグリ次世代施設園芸拠点整備協議会・農研機構
- 温泉パプリカ生産管理マニュアル(2020)、株式会社タカヒコアグロビジネス、有限会社ベストクロップ。大分県農林水産研究指導センター、大分県西部振興局、農研機構

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

