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    ー研修・教育機関(トレーニングファーム等)での研修Ⅰ(北海道・宮城・石川・兵庫・高知)ー

施設園芸での新規就農で考えるべきこと②
ー研修・教育機関(トレーニングファーム等)での研修Ⅰ(北海道・宮城・石川・兵庫・高知)ー

栽培 ハウス 生産性向上

新規就農者は年々減少しており、その確保は国、地方自治体、産地における課題になっています。そのため様々な機関や経営体が新たな人材の確保や育成に向けて活動を行っています。特に新規就農者として身に着けるべき知識や技術を、座学や実習の中で学べる研修・教育機関が全国各地に設立されています。また働きながら学ぶスタイルとしての研修生、ゼロから農業法人に就職するケースも多くみられます。本記事ではこうした様々な新規就農へのルートのうち、トレーニングファームなどと呼ばれる研修・教育機関の各地の事例を北海道・宮城・石川・兵庫よりご紹介します。

(1)平取町地域農業担い手育成センター 実践農場(北海道平取町・トマト)

平取町は北海道最大のトマト産地で、夏秋トマトの栽培が盛んな地域です。平取町地域農業担い手育成センターでは、2年間での新規就農希望者向けの研修を行っています。1年目は受け入れ先農家での研修で農作業を覚え、2年目に実践農場での実際のトマト栽培を受け入れ先農家の指導のもとで任される形での研修が行われています。実践農場は800坪のハウスが町内2か所にあり、各100坪×8棟と200坪×4棟のハウスがあります。付帯設備として温風暖房機、温水ボイラー等があります。募集戸数は年度ごとに2戸となっており、実践農場での研修は実経営規模となっていることが伺えます。北海道によると新規就農者はコンスタントに増加し、平成16年度以降で令和5年度までに16戸が新規就農しており、また受入を開始した平成10年以降の累計(33戸)でみると、トマト生産者全150戸の2割以上を占めている、とのことです。

参考1):実践農場、平取町農業支援センターWEBサイト

参考2):びらとり トマトで新規就農ガイド、平取町農業支援センターWEBサイト

参考3):取組事例 平取町での新規就農~トマト栽培で農家に~、北海道庁WEBサイト

(2)JA全農みやぎ いちごトレーニングセンター(宮城県・イチゴ)

イチゴ産地である亘理郡山元町に、震災復興の一環でJA出資型法人として株式会社やまもとファームみらい野が平成27年に設立されました。同社はフェンローハウスでのトマト夏越栽培やイチゴ高設栽培の施設、また長ネギ、タマネギ、サツマイモ等の露地野菜圃場、干し芋等の加工施設を有しています。同社の基本方針には「担い手の育成・確保、地域農業や地域への貢献」、「JAグループと連携した法人の設立、経営、営農、教育・研修」といった人材育成や研修がうたわれており、JA全農みやぎが行ういちご新規就農者研修事業「いちごトレーニングセンター」の研修場所のひとつとなっています。研修期間は4月~翌年5月で、研修定員は年3名とされています。イチゴ施設の面積や設備内容は公表されていませんが、Google map上では20数a程度の面積のハウスを2棟、育苗用と思われるパイプハウス4棟を確認することができます。令和6年4月1日には、株式会社やまもとファームみらい野にて令和6年度いちごトレーニングセンター入所式が行われ、第一期生となる入所者3名は14カ月の間、就農を目標に生産技術や経営管理について研修を行うことが報じられています。

参考1):いちご新規就農者研修事業(いちごトレーニングセンター)、JA全農みやぎWEBサイト

参考2):株式会社やまもとファームみらい野WEBサイト

参考3):(株)やまもとファームみらい野、Google map

参考4):🍓いちご新規就農者研修事業🍓  令和6年度いちごトレーニングセンター 入所式開催、JA全農みやぎWEBサイト

(3)JA小松市就農支援センター「アグリスクールこまつ」(石川県小松市・トマトなど)

小松市には砂丘地帯に北陸最大のトマト産地があり、60年以上の歴史を持つ冬春トマトと夏秋トマトの指定産地です。そこでは養液土耕栽培と地域オリジナルのもみがら培地養液栽培による「小松とまと」の栽培が行われています。JA小松市では令和3年4月より新規就農支援センターアグリスクールこまつの運営を開始しています。研修は2年間で、アグリスクールこまつの研修ハウスや現地研修圃場、 実践レンタルパイプハウスなどでの栽培研修(養液栽培によるトマト・きゅうり栽培(長期長段獲り栽培及び春・秋2作栽培)、 土耕栽培によるトマト、きゅうり、コマツナ等の小葉菜栽培)や 座学研修(農業基礎(病害虫防除、土壌肥料等)、トマト・きゅうり等の栽培技術各論)、 その他の研修(農家作業研修、パイプハウス建設研修、就農計画作成研修)などのカリキュラムが組まれています。研修施設として養液パイプハウス15a、土耕パイプハウス10aがあげられています。下記の参考3)には、詳細な研修内容の他、令和3年度一期生と令和4年度二期生の各4名の研修生などが記載されています。

参考1):石川県の施設園芸と野菜生産③ ー小松とまとについてー、ゼロアグリブログ

参考2):小松で農業をはじめませんか、JA小松市就農支援センターWEBサイト

参考3):令和3年度上期報告会・下期報告会 資料、JA小松市新規就農支援センターWEBサイト

(4)ゆめファーム兵庫六甲、ゆめファーム兵庫六甲はぜたに(兵庫県神戸市・トマト)

JA兵庫六甲は神戸市にあり、管内ではトマト生産者が都市近郊型の経営を行っています。高軒高ハウスと養液栽培による「ゆめファーム兵庫六甲」、および「ゆめファーム兵庫六甲はぜたに」が建設され、トマトハイワイヤー栽培について最大4年間の研修カリキュラムが用意されています。募集人員は若干名を随時受け付けており、1年目研修場所がゆめファーム兵庫六甲となり、座学と栽培実習が行われます。また2~4年目には実践経営としてゆめファーム兵庫六甲はぜたにで1区画約30a(全4区画1.2ha)での栽培を区画リーダーとして行う形になります。どちらも雇用契約を結び、収入を得ながら学ぶ形となっていますが、最長4年という長期間での研修・実践経営が特徴と思われます。座学研修では植物生理にもとづく栽培管理を学ぶカリキュラムなどが用意されています。その他、リーダーとしての労務管理の実践、生育調査にもとづく週次の管理など、大規模施設の運営を意識した内容となっていることも伺えます。令和4年5月現在での研修生は、平成27年度からの卒業生が3名(うち1名は令和元年度就農、2名は令和3年度就農予定)、研修生が2名(令和2年度~研修中)とのことです。

参考1):農業経営者育成塾 塾生募集、JA兵庫六甲WEBサイト

参考2):先端施設でトマト栽培を極める!!未来の農業経営者募集、JA兵庫六甲WEBサイト

参考3):就農支援 「ゆめファーム兵庫六甲 農業経営者育成塾」 2022.5.13、ひょうご就農支援センターWEBサイト

(5)高知県立農業担い手育成センター(高知県四万十町・キュウリ、ピーマン、ナス、シシトウなど)

施設園芸が主要産業である高知県では、Iターン・Uターンや親元就農での担い手育成を進めています。県立の農業担い手育成センターは、平成26年に農業大学校研修課と環境保全型畑作振興センターを統合し、新規就農者の確保・育成、先進技術の実証・普及の拠点として開設されました。そこでは、3カ月、6カ月、12カ月(最長24カ月)の研修機関で、座学による基礎から研修ハウスでの実習、さらに1作を通じての長期の栽培などのカリキュラムが組まれています。入校日も年間6回あり、時期ごとに座学が繰り返されたり、作期作型に応じた実習も準備されています。施設野菜ではキュウリ・ピーマン・ナス・シシトウの4品目についてローテーションによる実習があり、品目を横断した知識や技術の習得が可能になっています。また就農を希望する品目についての実習も用意され、4品目以外のニラ・トマト・ミョウガについても実習が可能となっています。なお同センターのWEBサイトには、「高軒高ハウスやAPハウスには、炭酸ガス施用装置や日射比例灌水装置、環境モニタリングシステム等の機器が整備されており、農家の所得向上を目指して高知県が取り組んでいる先進技術「環境制御技術」等の先進技術の研修が可能です。」とあり、研究成果や技術実証成果などを踏まえた研修が行われている模様です。また同センターからは研修修了生として多くの新規就農者を輩出しており、地域のリーダーとして活躍している方もいらっしゃいます。

参考1):高知県立農業担い手育成センター、こうち農業ネットWEBサイト

参考2):高知で暮らす。農業で暮らす。令和6年度研修生募集、高知県立農業担い手育成センター

参考3):高知県の施設園芸と野菜生産① ー施設野菜生産の概要ー、ゼロアグリブログ

参考4):稼げる農業、高知家で暮らす、高知県移住ポータルサイト

※施設園芸での新規就農で考えるべきこと③ー研修・教育機関(トレーニングファーム等)での研修Ⅱ(福岡・佐賀・宮崎・鹿児島)ー へ続く

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

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