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果樹ハウス栽培の潅水|潅水資材や潅水方法のご紹介

果樹ハウス栽培では、一般の露地栽培とは異なり土壌水分の制御が容易になります。そのため、潅水資材や潅水方法にも異なる点があります。本記事ではハウスミカン栽培、ブドウなどの根域制限栽培での事例をご紹介します。

ハウスミカンでの潅水について

ミカンやブドウなど果樹の根圏は広く、スプリンクラーで広範囲に大量の潅水を一挙に行う方法が一般的です。ブドウのハウス栽培でもスプリンクラー潅水が多く行われています。ミカンのハウス栽培でも大量の潅水が必要となりますが、スプリンクラーの他、潅水チューブや有孔潅水パイプも用いられています。これらの潅水資材は、スプリンクラーに比べ、よりスポットでの潅水が可能です。

 

ミカンのハウス栽培は露地栽培より栽植密度を高めることが多く、潅水ムラを防ぐためと言えるでしょう。また潅水資材の設置にあたっては、スプレーヤーなどの走行の障害にならないよう配置に注意する必要があります。

 

ハウスミカンの栽培では、ハウスの加温開始時期の潅水によりハウス内を蒸らす管理が行われます。これは着花促進のためで、30t/10a程度の大量の潅水となります。また着花後には潅水を控え、その後は生理落果期から果実肥大期を迎えます。そこでは、週1回程度の定期的な潅水が様子を観ながら行われます。

スプリンクラー
基礎整備の一環としての排水性の改善

潅水が不足しミカンに水ストレスが加わると葉が巻いたり、軟果の原因となります。また潅水が過剰で過湿になると灰色カビ病などの発生要因となります。果実肥大期には10日間で3mm程度の肥大が起こります。果径が30mm程度になり、糖度を高めるため潅水を一時控えます。

 

そして糖度が上昇するとともに、戻し潅水と呼ばれる潅水を行い、酸の増加を抑え、肥大を促進します。そして収穫開始前には潅水を控えることで品質を向上させます。収穫終了後には乾燥した土壌に再び大量の潅水を行います。このように着花や果実肥大、品質を潅水によってコントロールすることが、ミカンハウス栽培の特徴と言えるでしょう

 

ハウスミカン栽培では、潅水の他に葉水掛けや葉面散布が行われます。上面散水用の小型のスプリンクラーノズルが使われることもあるようです。また収穫前の潅水では、潅水チューブや潅水パイプを用いても土壌全面が湿潤となってハウス内の湿度が上昇しやすくなります。そうした点も踏まえ、またミカンの樹1本ごとに正確な潅水が可能な点滴潅水の研究がなされ、JA熊本市の例など一部では行われています。愛知県の研究成果1)では、「ハウスミカンは、点滴かん水同時施肥(養液土耕)栽培を行うことで、年間窒素施用量の約3割が削減できる。また、収穫期まで毎日少量のかん水を行うことで、果実品質が低下することなく、収量が2~3割程度増加する。」とあります。

ハウスでの根域制限栽培と点滴潅水について

ブドウやナシなど様々な果樹のハウス栽培で、コンテナや不織布を利用した根域制限栽培が行われています。根域制限栽培は、果樹の根の動きや働きを物理的、空間的に制限して、土壌からの水分の吸収をコントロールし、果実の品質向上をはかる栽培方法です。

 

根域制限栽培の種類と特徴~ブドウやナシなど果樹栽培に導入するメリットとは~

ゼロアグリを導入しているブドウハウス

根域制限栽培での潅水は、各ボックスやコンテナに対しドリッパーによる点滴潅水が一般的です。その際に潅水の配管を地面に設置すると作業や機械類の移動の妨げになることがあり注意を要します。宮城県で開発されたブドウの根域制限栽培方法2)では、ブドウ棚を利用して配管を行い、コンテナに対して頭上から潅水の枝管を降ろすもので、作業性を向上させています。枝管の先にはドリッパーが取り付けられています。またこの方法は、せんだい農業園芸センターで取り入れられ、シャインマスカットなどが栽培されています

茨城県農業大学校では、ブドウ、ナシの根域制限栽培で、ゼロアグリも導入され様々な栽培試験も行われています。ブドウはハウスでのポット栽培や盛土栽培にドリッパーによる点滴潅水がされています。またナシは露地での盛土マルチ栽培に点滴潅水がされています。特にブドウ栽培では土壌水分に応じた精密な潅水がゼロアグリにより行われています。

今後の展開

ミカンのハウス栽培面積は減少傾向にあり、一方で販売価格は上昇しています。生産者数も減っており、より高品質なハウスミカンを安定的に栽培することが求められています。そこでの潅水管理は重要な技術であり、今後はJA熊本市のような点滴潅水の導入が増えることも考えられます。

佐賀農業大学 ゼロアグリ導入ハウス

果樹の根域制限栽培には大きな広がりはみられませんが、早期成園化や品質向上のニーズに対応した技術として普及が期待され、そこでは点滴潅水が必須となるでしょう。また様々な果樹で垣根栽培やジョイント仕立てなど、新たな栽培方法が開発されています。これらは果樹園のレイアウトを一新し、作業性も向上されています。潅水する範囲も限定される傾向にあるため、潅水チューブや点滴潅水の利用も可能性があると考えられます。

 

参考文献

1)愛知農総試・園芸研究部・常緑果樹グループ「ハウスミカンの点滴かん水同時施肥栽培法」、平成18年度「関東東海北陸農業」研究成果情報

2)宮城県農園研「雨水を利用したブドウ「シャインマスカット」の根域制限栽培システム」 https://www.pref.miyagi.jp/uploaded/attachment/305985.pdf

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