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キュウリ栽培での悩み 仕立て方をどうするか?「更新つるおろし栽培」について

キュウリの栽培法や仕立て方には様々な種類があり、また品種の多様化もあり、これらをどのように選択し組み立てるかは生産者の腕の見せ所でもあり、悩みでもあると思います。本記事では、近年広がりつつある更新つるおろし栽培について、他の仕立て方とも比較にも触れながらご紹介します。

 

※更新つるおろし栽培、更新つる下ろし栽培、更新型つる下ろし栽培、完全更新つる下ろし栽培など様々な表記があり、また一般には「更新栽培」と呼ばれることもあります。本記事では出典での表記に従い、特に統一をしていません。

最近のキュウリ品種や栽培、仕立て方について

 

佐賀県のベテランキュウリ生産者である山口仁司氏がキュウリの品種と仕立て方について、最近の品種動向も踏まえ参考文献1)で述べています。そこではキュウリの品種について、摘心栽培に向きわき芽がよく出る側枝型と、つるおろし栽培に向き雌花連続着花性に優れた節成り型に分けられる、としています。またキュウリの育種、品種改良の進展により、最近では側枝型と節成り型の両方の形質を持つ品種も作出されており、選択に迷うほどである、としています。

 

一方でキュウリの仕立て方について、摘心栽培とつる下げ栽培(つるおろし栽培のこと)に二分され、さらに摘心もつる下げも行う中間的な「更新つる下げ栽培(更新つるおろし栽培のこと)」があり、これらを作型によって使い分けるケースもある、としています。

 

さらに品種改良に加え、温度、CO2濃度などに関する環境制御技術導入や、ハウスの高軒高化による光環境の改善などもあり、それらに対応できる品種が求められていることにも山口氏は触れています。

 

以上の品種や栽培環境の変化は、キュウリ生産者にとっても決して小さなものではないと考えられ、また場合に応じた仕立て方の選択も必要になると思われます。ゼロアグリブログ「キュウリの摘心栽培とつるおろし栽培|特徴とメリット・デメリットを解説」参考文献2)での概要を以下であらためてご紹介し、更新つるおろし栽培の特徴、他の仕立て方との違いなどに触れてみます。

摘心栽培について

 

摘心栽培は、主枝の生長点を摘心して、子づる(側枝)や、さらに子づるから伸びる孫づるを利用し、それらも摘心して収穫を行う方法です。栽培のポイントとして、おのおのの枝の摘心位置(節数)の見極めにより、各節での着花、着果数を確保することがあります。樹勢をみながら各枝の摘心を行い、また古い葉の摘葉も行い、空間と採光性を確保します。

 

摘心栽培は作業的にはつるおろしのような大きな作業は無く、日々の収穫、摘心、芽かき、葉かき作業を繰り返すことで、家族経営など比較的小規模の経営でも管理を回せる点もメリットと言えるでしょう。また、基本が年2作型となり作期の調整を柔軟に行えるため、収穫のピークを気象条件や販売条件に合わせ計画できることもメリットと考えられます。例えば夏場でサラダ用途などの需要が高まる時期や、長期作型の収穫が途切れる時期などに合わせた作型を組むことが考えられます。摘心栽培では樹勢の維持が特に初期は容易であり、このような栽培計画には適したものと言えます。

 

デメリットとしては、収穫の空き期間がどうしても生じることがあります。それによって総収量に影響が出る場合もあり、また出荷が途切れることでの販売上の問題になる場合もあるかもしれません。また栽培管理上のデメリットとして、摘心位置を見極めながら、群落の内部での摘心作業を行うことは、ある程度の熟練を要しますし、作業負荷も発生します。そのため生産者の技術レベルや熟練度の影響を受けやすいものと言え、また収穫では群落の葉や茎と果実が重なり合うことが多く、その際にも作業負荷が発生しやすくなります。

つるおろし栽培について

 

つるおろし栽培は、主枝を摘心したのちに発生する子づるを4本用い、それらを摘心しないで誘引を続け収穫を行う方法です。子づるから伸びる孫づるは適宜摘心を行います。この方法は長期作型として利用され、主に晩夏から秋に定植を行い、翌年の夏まで収穫を連続して行います。これにより長期間の収穫期間が確保されます。

 

メリットとしては、摘心栽培のような熟練を要する作業は少なく、誘引作業などマニュアル的に行うことができ、雇用労力の導入も容易とされています。それにより大規模経営に結び付けることも可能となります。また収穫期間が途切れず、気象条件が良ければ厳寒期の収量も期待でき、年間での高い収量に結び付けることが可能となります。また誘引とつるおろし、および葉かきによって、収穫位置を一定の高さにしながら果実の視認性を高めることも可能で、収穫作業も楽に行うことができます。

 

デメリットとしては、つるおろし作業の負担があります。キュウリの生長は他の果菜類に比べ早く、定期的に誘引とつるおろしを繰り返す必要があります。これらの作業が遅れると樹形が乱れ回復にかなりの作業負担と時間が発生してしまいます。また長期栽培のため、樹勢の維持が重要となりますが、低日射の影響を受けたり、病害虫の発生など、栽培期間中のトラブルに会う確率も高まり、管理上の注意が一層必要となります。

更新つるおろし栽培について

 

更新つるおろし栽培は、最初に主枝を12節程度で摘心し4本の側枝を伸ばし、側枝での摘心とつるおろしを繰り返しながら収穫を連続的に行う仕立て方です。側枝を伸ばす位置については、参考文献3)では5~7節から子づる(側枝)を2本、10~12節から子づるを2本とあり、またキュウリ育種を行う埼玉原種育成会の資料(参考文献4))でも同様の節数を示しています。同文献では「ニーナZの完全更新つる下ろし栽培」として、側枝を「力枝」という独特の表現で記述しています。また品種「ニーナZ」について、ほぼ節成り性で分枝性が強く樹勢が衰えないため摘心及び更新つる下ろしに適する、としています。ニーナZは産地での普及が進む品種の一つであり、更新つるおろし栽培についても埼玉原種育成会は詳細な情報を提供しています。

 

更新つるおろし栽培のメリットとして作業をマニュアル化しやすいこと、収穫位置が低位に一定にしやすく収穫作業も楽なこと、また葉かきを行う古い葉も低位に集中し簡易に作業を行えること、群落内の採光性も確保しやすいことなどがあげられます。

摘心栽培から更新つるおろし栽培を取り入れた事例

 

参考文献5)では「秀品率が上がるキュウリの更新型つる下ろし栽培」として、群馬県館林市の若手キュウリ生産者の栽培例を紹介しています。同文献では32歳の大朏和彦氏が10年前の就農時に親と同様にキュウリ摘心栽培を始めたのち、環境制御を学ぶ若手生産者の集まり「節なり会」で更新型つる下ろし栽培の事例に触れ導入を開始、現在3作目とのことです。大朏氏は更新型つる下ろし栽培について、秀品率が摘心栽培で5割程度だったものが8割を維持していること、その理由としてどの枝も常に上方へ伸び樹勢が弱りにくく新芽や葉に光が当りやすいことをあげています。また大朏氏は樹勢の強いニーナZを用い、つるおろし栽培のように枝を伸ばし続けると栄養生長に傾き着花もしにくくなり、また摘心により生殖成長に傾け、枝の伸長と収量とのバランスをとることが更新型つる下ろし栽培の特徴と考えています。

 

一方で大朏氏は、更新型つる下ろし栽培は摘心栽培の1.5倍程度の手間がかかることを課題としています。そして、摘心、つる下ろし、芽かき、葉かきが続き、どれかひとつの作業が遅れることでもろもろの長所が打ち消されるとしています。すなわちデメリットとして、作業内容や作業量が多く、作業遅れが収量減につながる可能性が高いことが考えられます。それでも同氏は、「更新型つる下ろし栽培の樹勢の強さや秀品率の高さを買って、摘心栽培には「戻れない」」とのことです。これらのことから、更新つるおろし栽培の導入に当たっては労働力の確保や計画的な作業の実施が重要と言えるでしょう。

 

つるおろし栽培から更新つるおろし栽培を取り入れた事例

 

参考文献5)では、大朏氏が更新型つる下ろし栽培を取り入れるきっかけとなった小山泰平氏の事例も紹介しています。小山氏はもともと通常のつるおろし栽培を行っており、収量確保のため節数を増やし、枝数の多い栽培をすることで群落が混みあって採光性が低下していたことが記されています。また栄養生長が過多となり、着花しても果実肥大が進まないこと、着果位置が低く地面に果実が着いてしまうことなどの問題点をあげています。更新型つる下ろし栽培では、前述の大朏氏と同様に摘心によって生殖成長側にバランスをとって、栄養生長過多での問題点を改善したことに触れています。

 

また小山氏は、樹勢が弱い品種を更新型つる下ろし栽培を行った際に、樹勢の弱さからわき芽の動きが悪い場合には積極的な摘心を行えないと判断し、軌道修正を行ったことにも触れています。このように品種の特性や生育状況に注意し、更新つるおろし栽培を取り入れることや場面場面での工夫も必要であると考えられます。

今後の展開

 

以上、キュウリの仕立て方として、摘心栽培、つるおろし栽培、およびその中間型とも言える更新つるおろし栽培を紹介をしました。おのおのにメリット、デメリットがあり、またそれぞれに適した品種、さらに栽培環境もあるものと考えられます。参考文献6)には、佐賀県にあるJA全農による大規模施設である「ゆめファーム全農SAGA」におけるキュウリ土耕栽培での連続摘心栽培と更新つるおろし栽培の比較が、収量性、作業の容易さ、作業時間、ハウス仕様による制限の面から点数評価がされています。例えば収量性では連続摘心栽培が勝り、作業の容易さでは更新つるおろし栽培が勝り、作業時間では連続摘心栽培が少ない、などです。JA全農はこうして二つの仕立て方のメリットとデメリットについて、大規模な実証栽培の中で明らかにしています。このような情報や、実際に導入をした産地や生産者の事例などを参考に、仕立て方への取組み方や様々な品種の選定についても考えることが大切となるでしょう。

参考文献

1)山口仁司、キュウリ 作業しやすく、多収できる品種を見極める、現代農業 2022年2月号

2)キュウリの摘心栽培とつるおろし栽培|特徴とメリット・デメリットを解説、ゼロアグリブログ

3)技術と方法 野菜、促成きゅうりの栽培管理方法について (2022)、熊本県天草広域本部 農林水産部農業普及・振興課

4)ニーナZの完全更新つる下し栽培 基本的な仕立て方、埼玉原種育成会

5)秀品率が上がるキュウリの更新型つる下ろし栽培 群馬県館林市、現代農業 2021年5月号

6)園芸基礎講座、きゅうり土耕栽培の基本技術 「ゆめファーム全農SAGA」の事例、グリーンレポート No.628 2021年10月号

   ※参考文献各ダウンロード先の確認日:2023年9月28日

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