ブログ

キュウリ栽培での悩み  「キュウリ黄化えそ病」対策について①

キュウリ黄化えそ病は近年のキュウリ栽培で多くの被害を発生させている病害で、キュウリ生産者が悩む病害のトップグループに入ります。栽培初期に感染したキュウリでは収量の低下が大きく、また罹病した株を除去する必要があるため、感染が広まると大きな収量低下につながります。トマト栽培でのトマト黄化葉巻病と同様キュウリ黄化えそ病には直接的な防除効果を持つ農薬はなく、ウィルスを媒介する昆虫の防除が必要な病害で、入念な対策が求められます。

キュウリ黄化えそ病とは

 

キュウリ黄化えそ病の症状として、生長点付近で葉脈に沿って色抜けが発生し、その後展開する葉ではモザイクが発生し、次第に黄化して固く縮れることが特徴になります参考文献1)。また参考文献2)には、「果実には症状が現れないが、まれに表面にモザイク斑を生じる場合があり、発病が著しい株では生育が不良となり枯死する」とあります。参考文献3)には、佐賀県のキュウリ生産者の山口仁司氏が「とくにここ数年、ミナミキイロアザミウマで黄化えそ病が発生した場合は果実にもモザイク症状が出るようになり、キュウリは商品価値がなくなって販売できません」とあり、病害の状況が厳しくなっていることを伺わせます。

 

キュウリ黄化えそ病はMYSV(melon yellow spot virus)というウイルスがミナミキイロアザミウマを介して感染するキュウリの病害です。またMYSVはメロンなどのウリ科や、多くの雑草でも感染します。参考文献4)には雑草の種類として「オランダミミナグサ(ナデシコ科)、ナズナ(アブラナ科)、カタバミ(カタバミ科)、ノゲシ(キク科)、ホトケノザ(シソ科)など」をあげています。

 

参考文献5)には、MYSVの伝染について「MYSVは、ミナミキイロアザミウマがふ化した直後の1齢幼虫のときに、感染した植物を吸汁することで保毒します」とあり、さらに「保毒した虫は成虫になってからウィルスを伝染させ、死ぬまでウィルスを伝染させる能力を持っています」とし、このことを「永続伝搬」としています。なお経卵伝染は起こりません参考文献2)

生研支援センター 病害虫被害画像データベースより

キュウリ黄化えそ病の防除のポイント

 

参考文献5)ではMYSV対策として「入れない・増やさない・出さない」をポイントとしています。以下に具体的な内容を紹介します。

 

「入れない」の対策1として、「健全苗の準備と定植時の薬剤処理と体系防除」をあげています。具体的には、苗段階や初期生育段階で感染が疑われる株は撤去することがあり、特に苗にミナミキイロアザミウマの付着が発見された場合は破棄し、被害が多くある場合には全量の交換を検討、しています。またミナミキイロアザミウマへの防除効果の高い薬剤が少ないことから、定植前後にコナジラミの防除と合わせ、地域の防除暦に従い徹底して行うことをあげています。

 

また「入れない」の対策2として、「施設とその周辺の整備」をあげています。具体的には、可能な限り栽培施設へのミナミキイロアザミウマの侵入を防ぐことで、UVカットフィルム、防虫ネット(0.5mm目合い以下のもの)、反射性シート、防草シートを組合せて用いることの他、ハウス出入り口を開放しないなどの運用にも触れています。また前述のMYSVが感染する雑草の管理にも触れています。

 

「増やさない」の対策として、「発病株の抜根とミナミキイロアザミウマの防除」をあげています。具体的には、ウィルス感染株が残ることが拡大につながることから、症状に気が付いたら早期に抜根することで数株で発生が収束する例がある一方で、放置することで感染が数百株に及ぶ例もある、としています。そして症状も多様なため、感染が疑われる場合には迷わず抜根をすることを勧めています。またミナミキイロアザミウマの防除については、少なくとも3回の連続した薬剤の散布を行わなければ防除することはできないとし、散布間隔は概ね7日としています。現在は粒剤を除く薬剤で完全な防除効果が得られる薬剤は少なく、少なくとも3回の散布を行っても十分な効果が得られない場合があるとし、最新の地域の防除暦をよく確認し有効な薬剤を選択する、としています。

 

「出さない」の対策として、「残さの処分と栽培終了時の徹底防除」をあげています。具体的には、施設外に持ち出す残さとともにミナミキイロアザミウマが持ち出され雑草にうつることが考えられるとし、残さを適切に処分するよう、穴を掘って埋める、残さ置き場の周りに有色粘着版を多数設置して捕殺する、残さにビニルをかぶせ必要なときだけビニルをはいで作業をする、としています。また次の作や露地にウィルスが拡散しないよう栽培終了時には必ず防除をし、一定期間の蒸し込みによって生き残ったミナミキイロアザミウマを餓死させる、としています。

 

ミナミキイロアザミウマへの天敵利用のポイント

近年は化学農薬の他に、天敵などの生物農薬を用いた防除も取り入れられ、化学農薬の防除効果が小さい場合や減農薬栽培を行う際には積極的に行われています。参考文献1)には、「MYSVに直接効く農薬はないため、ウイルスを媒介するミナミキイロアザミウマの防除が必要になります。(中略)スワルスキーカブリダニやタバコカスミカメといった天敵昆虫を利用して、黄化えそ病の拡大を防いでいます」とあります。

参考文献6)では、高知県における土着のタバコカスミカメを用いた総合的害虫管理(IPM)が紹介されています。概要として、ハウスへの防虫ネット被覆、定植後できるだけ早くタバコカスミカメ成虫3000 頭/10a×2 回・スワルスキーカブリダニ50000 頭/10a を放飼、その他の害虫類の発生には天敵類に影響の小さい薬剤を使用、バーベナʻタピアンʼなどの温存植物を施設内に植栽、タバコカスミカメによる傷果の発生にはプロピレングリコールモノ脂肪酸エステル乳剤 1,000 倍液を処理して本種の密度を調整、としています。温存植物の利用により餌となる害虫がいなくてもタバコカスミカメが温存でき、天敵利用の利便性が高まっています。また最近ではクレオメの利用が多くみられます。土着天敵を用いることで、化学農薬や生物農薬の購入費用削減にもつながっています。

参考文献7)には、水稲育苗ハウスなどを活用しタバコカスミカメを確保するための天敵温存ハウスの設置や、タバコカスミカメを本圃で維持するためのクレオメの準備についての具体的なマニュアルが、高知県より示されています。こうした手法についてマニュアルでは、「タバコカスミカメは土着の天敵で、販売されていません。そのため、自分で増やす必要があります。タバコカスミカメは雑食性の昆虫で、ゴマやクレオメなどの植物(インセクターリープランツ)のみでも増殖が可能」とし、本圃での作物栽培終了後、土着天敵を引き続き温存・増殖するためのハウスを『天敵温存ハウス』としています。また参考文献8)には、本圃でのミナミキイロアザミウマ防除対策として、タバコカスミカメとスワルスキーカブリダニの2種の天敵昆虫を用いた方法についての具体的なマニュアルが同じく高知県より示されています。ここでは、「タバコカスミカメは安定して効果を発揮するまでに2カ月程度かかるため、定着までのアザミウマ類、コナジラミ類対策として必ずスワルスキーカブリダニを使用すること、また防除に成功するためには、これらの天敵をよく観察し、増え方を定期的に確認することがポイント」としており、時期別の管理方法として2種の天敵の放飼の時期や数、具体的な放飼や確認の方法を示しています。さらに天敵が捕食できない他の害虫に対する防除方法にも触れています。

参考文献

1)【高知普及所】敵を知って対策を!(キュウリ黄化えそ病編) 2015/06/29、こうち農業ネット

2)キュウリ-黄化えそ病(病原ウイルス Melon yellow spot virus(MYSV)) 更新日:2023/5/12、茨城県農林水産部農業総合センター

3)山口仁司、湿度を下げないことがコツ 黄化えそ病を切り抜けた!、現代農業2022年6月号

4)キュウリ黄化えそ病の防除について(2023)、大阪府南河内農と緑の総合事務所・大阪南農業協同組合営農指導課

5)施設栽培におけるキュウリ黄化えそ病 (MYSV) のポイント「入れない・増やさない・出さない」対策の要約(2015)宮崎県植物防疫協会

6)中石一英・下元満喜、促成キュウリにおけるタバコカスミカメを利用した総合的害虫管理(IPM)、施設キュウリとトマトにおける IPM のためのタバコカスミカメ利用技術マニュアル(2015)

7)ミナミキイロアザミウマ防除を目的とした施設キュウリの天敵利用技術マニュアル(5月~10月)<温存ハウス版>、高知県(2016年8月作成)

8)ミナミキイロアザミウマ防除を目的とした施設キュウリの天敵利用技術マニュアル(10月~6月末)<本ぽ版>、高知県(2016年8月作成)

   ※参考文献各ダウンロード先の確認日:2023年9月28日

タイトルとURLをコピーしました