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企業の農業参入~施設園芸における成功のポイントを解説~

施設園芸への企業参入

近年、企業の農業参入が増え、特に食品産業からの参入が目立つようになりました。これはすでに食品販売に関する販路を持っていることで、参入条件のひとつである販路確保が満たされていると言えるでしょう。参入形態として、既存の農業生産者や農業法人との提携や、自社で農場を持ち自らが農業法人(農地適格所有法人)として生産販売に望む場合などがあります。いずれにせよ、農地の確保と栽培品目や栽培方法の設定、実際に求められる量と品質を実現できる栽培技術の確立などが必要になります。

 

また農業への企業参入で目立つのが、大規模施設園芸や植物工場の分野で、いずれも億~数十億単位での投資が行われる場合が多いのが特徴です。しかし資本力のある企業に可能な投資であり、中小企業の参入の場合には、少額での投資から始め、少しずつ実績を積み重ねながら追加投資を行う場合も珍しくありません。

企業参入での最初に考えるべきこと

企業参入の場合、最初に考えるべきことは、地域と農地の選定であり、またそのためには、どんな品目をどのように作り、どのように売るかいうことも、大まかでも決める必要もあります。植物生育と気象条件の関係など、施設園芸においても適地適作が求められるためです。また地域の気象特性を考える他、近年では物流条件による販売への影響が多くみられ、高速網や幹線道路へのアクセス、消費地や物流センターとの便の確保などが重要要素となっています。

地域と農地の選定が重要

品目や品質、規格等の検討

計画当初にあまり細目まで決める必要はありませんが、少なくとも作物の種類と、どの程度の品質を目指すのかを検討すべきでしょう。

トマトであれば大玉、中玉、ミニトマトといった大枠があり、さらに高糖度、房どり、完熟、機能性、カラーなど様々な品質があります。さらにパック詰めして店頭販売向けとするか、バラ詰めで加工・業務用向けとするかなど、規格の目安もある程度は必要になるでしょう。

店頭に並ぶ野菜
販路により土地や施設の選定に影響があることも。

トマトは代表的な施設園芸野菜で、国内販売額もトップで、品種、品質や規格もバラエティーに富んでいます。トマトの他にもキュウリ、イチゴ、ナス、ピーマン、スイカ、メロンといった果菜類の品目があり、ホウレンソウ、ネギ、レタス類、ハーブ類といった葉菜類の品目もあります。こうした品目から、ある程度の販売のイメージまであらかじめ決めることで、その後の土地や施設の選定の範囲を絞ることが可能となるでしょう。

農地の選定と確保

品目についての大枠の検討が必要とは言っても、最初に地域ありきという場合もあると思います。また細部が煮詰まっていなくても、その地域で農地を探して目的の品目の栽培を行いたい、という場合もあると思います。

農地
課題となることが多い農地の確保

いずれにしても、農地の確保は企業参入では大きな課題であり、特にまとまった優良な農地の確保は難しいと言えます。しかもそれが目的の品目の栽培に適した条件であるかどうかも検討が必要になります。また山梨県など企業誘致と土地改良による農地造成を積極的に行い、大規模施設園芸地帯が形成されたところもあり、今後もそうした自治体の動きも活発になるものと思われます。

農地の確保には、農地を所有、もしくは貸借するための条件を満たす法人格が必要となり、農業者を構成員とすることなどが求められます。これらは行政、農業委員会との相談事項のひとつとなります。またそうした条件を満たしたうえで、求める農地が見つかれば購入や貸借の契約を結ぶ必要があります。

農地に関する条件には様々なものがあり、詳しくは参考文献「大規模施設園芸・植物工場 導入・改善の手引き」において、農地確保・利用や、造成・インフラ整備に詳しく記載されており、ご参考になると思われます。同資料での項目を抜き出すと、「気象条件、地域特性要因、周辺環境、給排水、雇用、水源、雨水排水放流先」と多岐にわたっています。

栽培方法の決定

栽培品目と品質や規格、そして農地が決まれば、あとはその土地で求めるものをどのように栽培し出荷するかの検討となります。低コストで導入可能な土耕栽培が基本となりますが、技術の平準化やマニュアル化がしやすい養液栽培が企業参入では好まれる傾向もあります。

また、より高い収量を目指すためには、採光性のよい高軒高ハウスで高い誘引位置での吊り下げ栽培(ハイワイヤー栽培)を選択することもあります。さらに高糖度化などストレスを加えることで品質向上を目指す場合には、水分ストレスをかけやすい少量培地栽培を選択することもあります。

同じ品目でも栽培方法により必要な設備は異なります

このように目標とする収量や品質に応じ栽培方法を選択する必要があります。一方で、養液栽培など導入コストやランニングコストがかかる栽培方法では、それに見合う収益が経年で得られるかを十分に検討する必要もあります。

施設仕様の検討

ミニトマトのハウス栽培
ミニトマトのフィルム栽培

品目、品質や規格、目標とする収量、栽培方法が固まれば、それに見合う仕様の施設や付帯設備を決める段階になります。ここではゼロから決めることは難しく時間もかかるため、既設の類似施設の仕様を調査したり、複数の施設設備業者から見積りを取ったりといった行動が求められます

 

それでも時間と手間は必要で、逆に手間を惜しむことで、求める仕様の施設設備が建設できず、その結果として求める品質や収量も確保できない、ということにもなりかねません。非常に重要なプロセスと言えるでしょう。

さらに、複数の業者から合い見積りを取ること、他の農場など過去の同様な工事内容を調べて仕様と価格のおおよその感触をつかみ、コスト高にならないよう注意して費用対効果を高める必要もあります。

イチゴの高設栽培
イチゴの高設栽培

こちらも参考文献「大規模施設園芸・植物工場 導入・改善の手引き」には、詳しい設備仕様の項目が列記されており、ご参考にしていただくのもよいでしょう。

栽培技術の導入

以上で農地から施設設備までの導入が決まったとします。次に必要とされるのは、施設設備と、その土地の自然条件(気象、水、バイオマス等)を活用し、求める品質や収量を得るための栽培技術の導入となります。企業参入の場合、もともと自社にはそうした技術の蓄積がない場合が大半で、設備等を導入した先などから同時に栽培技術も導入することが多いと思われます。

栽培装置であれば栽培マニュアルとなるでしょうし、最近では設備企業側でも自社農場などを研修施設として顧客や見込み客に開放し技術習得を進める場合もあります。また大規模施設園芸では専門に技術支援を行う栽培コンサルタントの活用もみられます。

ゼロアグリと給液ユニット
ゼロアグリと潅水設備

人員の確保

人材採用
農業経営の肝となる採用と育成

最終的に必要とされるのは人材です。上記のような栽培技術を修得した人材(グロワーと呼ばれる)、多くのパートさんたちを管理し生産性を上げるよう仕組みを作るマネージャー、全体を束ねる農場長など専門職や管理職が施設園芸の世界でも必要とされるようになりました。

そうした人材を外部から招く場合もあり、また自社で育成することや、外部の研修施設などで育成し活用することなど、様々なケースがあります。専門人材が不足している施設園芸の世界では、そうした人材育成が今度の企業参入においてもポイントとなることは間違いないと考えられます。

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参考文献

 

大規模施設園芸・植物工場 導入・改善の手引き、日本施設園芸協会

https://jgha.com/wp-content/uploads/2020/01/TM06-1-30bessatsu2.pdf

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