隔離床栽培、袋培地栽培について
ゼロアグリのブログ記事では、隔離栽培についてご紹介しています。隔離栽培について「土壌が地床から隔離された栽培方法で、根域制限栽培の一種です。防根透水シートを用い土壌を隔離し、その範囲内に根を伸長させることで土壌病害を抑制します。」と説明しています。シート1枚で土壌を隔離する簡易的な栽培方法になります。
隔離栽培と同様に土壌病害の抑制を目的とした栽培方法として、ベッド状の栽培槽を用いた隔離床栽培があります。また、発泡容器に培地を詰めたトロ箱栽培、培地をバッグで包んだ袋培地栽培など、同種の様々な栽培方法もあります。これらで用いる培地は土壌、有機質培地、人工培地やそれらのブレンドであったりします。また潅水チューブや点滴チューブにより液肥潅水を行い、養液栽培として扱われることもあります。これらの具体的な内容や特徴についてご紹介いたします。
隔離床栽培
農業技術事典(NAROPEDIA)では隔離床について、「施設栽培において、土壌病害や塩類集積などの連作障害を回避する目的で、地床から隔離され、土耕栽培を行なうベッドをいう。」としています。また「ベッドの土を入れ換えることで、連作障害等を回避できる。」とし、連作障害や土壌病害の回避をその目的としています。
さらにNAROPEDIAでは、果菜類(トマトやメロン)、切り花類(カーネーションやキク)で隔離床を用いた隔離床栽培が行われ、連作障害等の回避目的の他に、根域が制限されていることで養水分管理が比較的容易に行うことができ、高糖度の果実生産も可能である、としています。
またNAROPEDIAでは隔離床の例として、全農式ドレンベッド(図1)をあげています。これは樹脂製の大型の栽培槽を用い、土壌や堆肥、礫を槽内に詰めて栽培を行うものです。土壌面に潅水を行い、底部にある管に排水を集めて排出が可能な構造を持ちます。また土壌を入れ替えることなく蒸気消毒が可能なよう、蒸気挿入口を持ちます。全農式ドレンベッドは培地を隔離して保持するだけではなく、集排水機能や蒸気消毒機能も持つ多機能な隔離床と考えられます。
参考文献1)には、スーパードレンベッドと呼ばれる隔離床を用いた葉菜類の栽培試験画像が掲載されています。正面からの画像では、隔離床の幅が90cm程度に見え、各隔離床ごとに灌水チューブが配管されています(図2)。また畝方向に並べられた隔離床は底面で排水パイプにより連結されている様子も伺えます(図3)。
隔離床には他にも様々なタイプが試作されています。参考文献2)には、熊本県で試作されたパイプと防根布による簡易な構造を持つものが紹介されています(図4)。これはイチゴの高設栽培においても同様な構造がみられます。参考文献3)には、小型の樋型ドレンベッドの模式図が掲載されています(図5)。少量培地栽培用途で、ミディトマトの高糖度栽培の試験に用いられています。
全農式ドレンベッドは2000年代に開発や利用が進み全国的に導入もみられましたが、現在は販売されていません。
トロ箱栽培
JA全農ではJA全農式トロ箱養液栽培システムとして「うぃず One」(図6)を販売しています。このシステムは養液栽培をうたったもので、潅水制御装置、隔離栽培槽のプラスBOX、養液栽培用肥料、培土からなるパッケージ商品になります参考文献4)。前述の全農式ドレンベッドと同様に、隔離栽培槽により土壌病害の影響を受けないようになっており、また発泡スチロール製の栽培槽が軽量で固定の必要もなく(図7)、水稲育苗ハウスが空いた期間での果菜類の夏秋栽培の利用を想定しているものと思われます。栽培槽のフタには潅水用の穴が、底面には排水口が設けられています。
無電源で動作する液肥混入機とタイマー式制御装置や、自家施工が可能な配管や栽培槽などからなり、自由なレイアウトと利用期間が選べる簡易な養液栽培システムと言えるでしょう。培地は養液栽培で一般的な人工培地やヤシガラ培地の利用ではなく、培土としており、こちらも自由に選択が可能と言えます。肥料は全農オリジナルの1液式と2液式から選択可能となっています。
参考文献5)には、北海道における本システムを用いた6月定植のミニトマトと大玉トマトの栽培法についての試験成果が示されています。ここではミニトマトの仕立て方(1本仕立てと2本仕立て)と給液量(標準:排液量が給液の30%程度を目標、多量:標準より給液を20%程度増、極多量:50%程度増)についての試験などを行っており、経済性を加味した最適な栽培法を提示しています。また培土を3年連用しても物理性の悪化や塩類集積は認められないとし、ミニトマトと大玉トマトへの生育や収量・品質への影響も小さいとしています。発泡スチロール製の栽培槽は、通常の使用で5年間使用可能としています。
袋培地栽培
袋培地栽培(バッグカルチャー)は、袋に詰めた培地を床面に置き、点滴潅水などにより栽培を行う方式です。隔離床栽培などと同様に、土壌病害の回避等を目的とした低コストの養液栽培の一種と言えます。キュウリのバッグカルチャーについては、ブログ記事のキュウリの養液栽培について②でご紹介しています。
宮城県では、東日本大震災後に塩害が発生し地下水の利用も難しい地域でのトマト栽培向けに、バッグカルチャーによる高品質トマトの栽培技術の研究が行われました。また研究の成果として、自動潅水栽培システム「グローイングバッグシステム」が販売されています参考文献6)。本システムでは断熱材の上に袋培地を置き、さらにトマトのポット苗を袋培地に植える形になり、ドリッパーによる潅水、および日射比例と土壌水分センサーによる潅水制御を行っています。本システムは宮城県を中心に販売されている模様です。
愛知県では、青枯病などの土壌病害対策や、土壌条件の悪い地域での栽培向けに、施肥・潅水精密制御による品質保証できるトマトの袋培地生産技術の研究が行われました。研究成果として、トマト袋培地栽培マニュアル参考文献7)8)が公開されています。ここでは自家施工が可能なよう、使用資材一覧(培地は土が主体)と詳細な施工方法が記載されています。また袋培地栽培に適した無底ポットによる定植や高温対策のための遮熱シート利用なども記載されています。さらに誘引などの栽培方法やpFセンサーによる潅水制御方法、窒素日施用などの施肥管理方法、栽培終了後の保守管理など、一連の管理内容が記載されています。
福岡県では、トマト袋培地栽培システムにおける暖房費の削減を目的として、電熱線を用いた培地加温による研究を行っています参考文献9)。ここでは電熱線を袋培地の下部に設置して、培地の局所加温を行っています。その際に慣行栽培での15℃加温を12℃加温にし、商品果収量は慣行栽培と同等で暖房経費を2割削減したとあります。また参考文献10)では、低軒高ハウスでの6段摘心の袋培地栽培を年4作で行った例が紹介されています。これは前作が終了する前に、その脇で次作の袋培地栽培を並行して開始するもので、収獲期間は10月上旬から翌7月上旬までと長期多段栽培と同様であり、収量も30t/10aとしています。福岡県ではロックウール栽培や礫耕栽培の他に、袋培地栽培が現在も行われています。
今後の展開
隔離床栽培や袋培地栽培は、現在では低コストな養液栽培のひとつとしてトマトを中心に導入が行われています。ベンチの設置や排液処理のための配管設置を行わない簡易な設計のものが多く、施工も簡便なため、空きハウスなどへの導入も容易と思われます。また培地も通常の栽培で使用するものを消毒して用いれば、土壌病害も低減されます。青枯病の汚染が進んだ地域など土耕栽培が難しい環境では、今後も注目されるものと思われます。
参考文献
1)肥料の随伴イオンと 葉菜類の硝酸イオン含有率、グリーンレポート no.454 2007年4月号
2)低コスト隔離床の開発とアールスメロンの栽培技術、農業研究センター 農産園芸研究所 野菜部八代研究室、農業の新しい技術 No.213(1994年)
3)トマト「越のルビー」の少量培地栽培における灌水施肥と培地の温度管理 (affrc.go.jp)、福井県園芸試験場 (2005年)
4)JA全農式トロ箱養液栽培システム うぃず One 、JA全農
5)養液栽培システム「うぃず One」を用いた 6 月定植におけるミニトマトおよび大玉トマトの栽培法、北海道立総合研究機構、平成30年度 成績概要書(2019年)
6)未利用資源を活用したバッグカルチャーによる高品質トマト生産技術、農林水産技術会議(2015年)
7)トマト袋培地栽培マニュアル、愛知県農業総合試験場(2006年)
8)トマト袋培地栽培マニュアル(追補版)~ミニトマト袋培地栽培・夏期高温対策・導入指針~、愛知県農業総合試験場(2011年)
9)中国尭士他、トマト袋培地栽培における培地加温温度の違いが生育および収量に及ぼす影響、福岡県農業総合試験場研究報告 33 (2014)
10)吉岡宏、軒高2m程度の施設でも高収量が得られる トマトの年間4作袋培地栽培技術、技術の窓 №2137 (2016年)