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シャインマスカット栽培での潅水施肥について

農研機構で育成されたブドウ「シャインマスカット」は、マスカット香を持ち食味が優れ、種なしで皮ごと食べることができる品種です。これらの特徴が広く消費者に受け入れられ、市場を席巻、根強い人気を持っています1)

農林水産省の令和2年度特産果樹生産動態等調査2)では、シャインマスカットの全国栽培面積は約2,280haで、これはブドウ全体の約12,600haに対し約19%になります。シャインマスカットの10年前(平成22年)の全国栽培面積は約256haで、令和2年にはその約9倍に急増しています。またシャインマスカットの令和2年度栽培面積上位県は長野県(639.7ha)、山梨県(608.7ha)、山形県(227.2ha)、岡山県(211.4ha)で、この4県の合計栽培面積は全国の約74%を占めています。

シャインマスカットは消費者に受け入れられ、販売単価も高く、主産4県を中心に栽培が現在も拡大しています。参考文献1)では生産者へのシャインマスカットの導入効果として、売上所得の増加や労働時間の減少をあげています。シャインマスカットは短梢栽培の導入により剪定、枝管理、房管理が省力化され、生産者にも受け入れられやすい特性を持つ品種といえます。

山梨県でのシャインマスカット栽培の潅水施肥例

 

参考文献3)では、山梨県、岡山県、山形県におけるシャインマスカットの栽培管理技術が記載されています。山梨県の章には、山梨県果樹試験場の宇土幸伸氏による生育ステージごとの管理内容があり、そこでの潅水や施肥について概要をご紹介します。

 

発芽・展葉初期

春先に発芽が起こり、芽かきや新梢の誘引を行うステージになります。同文献には「新梢の生育を促すため、7日間隔で25mm程度の潅水を行う」とあります。ここでの潅水量はおおまかな目安で、土壌条件に応じ、また生育状態を観察し調整することが必要となります。また1㎡に1ℓの潅水を行う場合、1mmの潅水量に相当します。また潅水量から降雨分は差し引きます。なお潅水は一般的にスプリンクラーにより行われます。同文献には、「新梢の初期生育が芳しくない場合は、尿素の200倍液を10a当たり200~300ℓ葉面散布してもよい」とあります。

展葉期・開花始め期

このステージでは、旺盛になりやすい新梢の伸長を抑制するためのフラスター液剤の散布や、無核化のための補助剤の散布、摘心を行います。また花蕾数を制限して良花房となるよう、房づくりをハサミにより行います。潅水は「引き続き、7日間隔で25mm程度」行い、「特に開花前は土壌が乾燥しないよう十分注意」とあります。

満開期・結実期

このステージでは第1回目ジベレリン処理、軸長の調整、仕上げの摘房や摘粒、第2回目ジベレリン処理、新梢管理を行います。ジベレリン処理時期の潅水については、「圃場の湿度を保つ程度」とあり、過剰な潅水を避けるよう注意しています。また果粒肥大第1期にあたる8月中下旬での潅水について、乾燥が果粒肥大への影響を避けるよう「5日間隔で20mm程度」とあります。

果粒軟化期前後

このステージでは、カサかけや袋かけを、病害虫や鳥害、薬散での果粒汚染、日焼け、降雹や強風への対策として行います。同文献には、蒸散量が増大する梅雨明け後には定期的な潅水として「5~7日間隔で20㎜程度」を行うとあり、また果粒軟化期以降の潅水は「土壌の極端な乾燥を避け、樹体に水分不足を発生させない」よう「7日間隔で10mm程度」を行うとあります。また「極端な高温が予想される日は、午前中に散水を行いたい」とあります。またシャインマスカットは裂果発生が少ない品種であるものの、「他品種と同様になるべく土壌水分の変動を小さくすることが望ましい」とあり、細かな潅水管理が必要なことを伺わせています。

 

収穫始め期・収穫後

このステージでは、カラーチャートによる確認で目標糖度(18%以上)を順守する収穫を行います。また収穫後から落葉まで、過繁茂の新梢を整理して翌年に残す枝や芽に光を当てるなどの管理を早めに行います。落葉は進むものの、落葉前に貯蔵養分の蓄積を行っているため、早期落葉防止のため乾燥しないよう、同文献には「収穫直後に20mm程度の潅水を行い、その後は10日間隔で15㎜を目安に行う」とあります。

また収穫後の新根発生による養分吸収があり、貯蔵養分増加に影響することから、礼肥と呼ばれる施肥を「収穫後に速効性窒素成分を中心に行う」とあります。

落葉期・休眠期

山梨県での施肥について同文献では「落葉期に年間施用量の多くを基肥として施用することが多い」とし、また「特に保肥力が低い土壌条件では、追肥は必須作業となりうる」として「必要に応じて年間施肥量を分配する」とあります。また施肥基準は「甲斐路」など欧州系品種に準じてよいとし、甲斐路の施肥量の目安として、樹齢4~6年では窒素8(kg/10a、以下同じ)、リン酸6、カリ5、苦土石灰60、成木では窒素12、リン酸9、カリ8、苦土石灰100をあげ、土壌診断を参考に過剰施肥や欠乏症を防ぐ必要があるとしています

福岡県でのシャインマスカット栽培の潅水施肥例

シャインマスカットの主産県ではありませんが、果樹栽培が盛んな福岡県における栽培マニュアルが参考文献4)として公開されています。概要は下記になります。

※雨よけ以上の施設栽培を基本とし、降雨だけでは水分供給不足となるため、生育ステージ毎にスプリンクラーやかん水チューブでの適度な潅水を行う。

 

・樹液流動開始期:被覆直後に20~30mm潅水。その後乾燥しないよう、晴天日午前中に最低1日1回潅水。

・発芽期~展葉9枚頃:土壌が乾燥しないよう地表の1/3が白く乾いたら潅水(5日間隔、15~20mmを目安)。

・展葉9枚頃~開花期 :多湿による灰カビ病発生を防ぎ、湿度を保つ散水程度の潅水。

・落花期~果粒肥大期:満開15日目までは、3~5日置きに15mm潅水し、その後2~3日置ききに6~10mm潅水。落花後1か月間は5~7日置きに20mmを目安に潅水。

・果粒軟化期~収穫期:5日置きに10~15mmを目安に潅水し、収穫開始2週間前からはやや控える。

・収穫後:土壌が乾いている 場合は潅水

 

同文献には、施肥体系(露地栽培基準)として収量別施肥量が樹齢を基準として示されています。例えば樹齢10年以上の成木では収量1800kg/10aに対し、窒素8(kg/10a、以下同じ)、リン酸8、カリ8としています。

今後の展開

山梨県、福岡県での潅水施肥の事例をご紹介しましたが、シャインマスカットは全国的に栽培され、他の地域における栽培マニュアルも多く作られています5)、6)。またシャインマスカットは高品質をアピールし販売されており、潅水施肥技術による高品質化の研究も行われています。これについては、こちらの記事(今後の展開)もご覧ください。

参考文献

1)山本善久、「シャインマスカット」の経済性および導入効果と流通量の予測、果実日本2020年11月号

2)令和2年産特産果樹生産動態等調査、農林水産省

3)山田昌彦 編、シャインマスカットの栽培技術(2020)、創林社

4)福岡「シャインマスカット」栽培マニュアル(2021)、福岡県園芸振興推進協議会ぶどう専門委員会

5)新技術を導入した 「シャインマスカット」栽培マニュアル(2018)、農研機構果樹茶業研究部門

6)ブドウ「シャインマスカット」栽培の手引き(2020)、滋賀県農業技術振興センター農業革新支援部

 

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