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シャインマスカット栽培での養液土耕栽培、点滴潅水技術について

シャインマスカット栽培は全国に拡大しており、主産地4県(山形、山梨、長野、岡山県)以外でも様々な栽培の取組みがされています。本記事では、シャインマスカットの養液土耕栽培や点滴潅水技術についてご紹介します。

 

島根県での養液土耕栽培

参考文献1)では、島根県でのブドウの養液土耕栽培について紹介しています。島根県のブドウ栽培はハウスでの加温栽培が全体(350ha)の65%と多く行われています(2005年当時)。加温栽培では樹勢低下を補うための施肥が多く行われ、系外への肥料分の流亡が懸念されていました。そのため環境保全に配慮した栽培として、根域集中管理栽培を開発しています。これは従来は土壌全面に行っていた深耕、施肥、潅水を樹を中心に2~3m程度に集中して行うもので、高品質栽培が可能なことを実証しています。また同時に開発した養液土耕栽培では、点滴潅水チューブを、樹を中心にした狭い範囲に直線状または、渦巻き状に配置しています。点滴チューブの間隔は、40cm~50cmにすることで液肥がほぼ均等に土壌に浸透するとしています。

参考文献2)では、ハウスブドウの生産者が島根県の技術資料を基本として模索をしながら養液土耕栽培を取り入れた事例(デラウエア、2009年当時)を示しています。そこでは、砂質土壌に対し点滴チューブでの水の広がりが40cm程度であり、根域の範囲を考慮し幹から1mまでにチューブを2本、1樹当たり4本を配置しています。また液肥潅水を行い、液肥濃度は生育ステージや葉面積に応じて、潅水量は葉面積や天候に応じて調整をしています。さらに生育ステージより、果実品質向上と新梢生長に向け、液肥の濃度や有無を調整しています。着色期以降に液肥投入をやめて新梢生長を抑え、収量と品質の向上をはかっています。なお参考文献2)の発行時(2017年)の注として、現在も一部老木となったデラウエアをシャインマスカットに代えているとしています。このように野菜(果菜)栽培と同様にシャインマスカット栽培でも、点滴潅水チューブを用い適宜潅水を行い、また液肥混入機により液肥濃度を調整しながら施肥を行い、生育と果実の肥大や品質(糖度)の向上を養液土耕栽培によりはかっています。

参考文献3)では、島根県でシャインマスカット栽培に取組む生産者1戸に対する経営面での聞き取り調査を行い、作型(①樹齢7~8年生・ハウス加温・養液土耕・12a、②樹齢12年生・ハウス無加温・養液土耕・12a、③樹齢9年生・ハウス無加温・養液土耕・5a、④樹齢6年生・サイドレス(雨よけ)無加温・養液土耕・6a)についての経済性を明らかにしています。おのおのの10a当たり収量、kg当たり単価、粗収益は、①が1,132kg、3,746円/kg、4,239千円、②が1,324kg、3,715円/kg、4,920千円、③が1,528kg、2,901円/kg、4,432千円、④が1,782kg、1,731円/kg、3,083千円となっています。また経営費合計額と所得および所得率は、①が1,860千円(うち加温費803千円)、2,379千円、56%、②が1,212千円、3,708千円、75%、③が1,135千円、3,297千円、74%、④が878千円、2,205千円、72%となっています。①がハウス加温栽培で出荷時期も6月末からと早期になっていますが、②のハウス無加温栽培でも①と販売単価はほぼ変わらず、加温費がかからないため所得率も75%と高くなっています。こうした高い所得率を実現する経営であれば、ハウスや養液土耕栽培への設備投資の回収も目途が立ちやすいものと想像できます。

茨城県での養液土耕栽培

参考文献4)では、茨城県の生産者による少量多潅水による栽培が紹介されています。シャインマスカットの株元に盛り土を行い、樹を中心に点滴潅水チューブを渦巻状に配置しており、参考文献1)の方法と類似しています。潅水は手動、また一部のハウスでは水分センサーを用い自動で行っています。潅水の例として、初には1回3分を1日4回、夏には1回10分を1日8回などをあげており、毎日の潅水を樹の状況に応じて行っています。生産者は、一般的に言われる1週間に1度、20~30mmの潅水では、潅水の空白期間が長く、また一度に大量の潅水もあり、大きなストレスになるとしています。また欧州系ブドウは裂果に対して水分を切りストレスを与えて栽培しているが、それもよくない方法とし、ブドウにストレスを与えない程度に必要最小限の潅水を行う考え方を示しています。また点滴潅水だけでは不十分な場合などには手動潅水も行っています。

参考文献5)では、茨城県でのシャインマスカットの根域制限栽培における養水分管理法として、pFメーターを用いた土壌水分による潅水量などの試験成果を示しています。そこでは、発芽期から果粒軟化期までは、pF1.6での1回当たり2.6ℓ/樹の自動潅水が行われており、最大で70ℓ/樹/日以上の潅水量となっています。これは前述のような1週間に1度に多量に潅水を行う方法に比べ、毎日適量の潅水を行う方法であることを、データで示されたものと言えるでしょう(参考文献中のグラフ:図1 生育期間中の潅水量の変化、をご参照ください)。さらに参考文献6)では、シャインマスカットの根域制限栽培で潅水量をpF1.6での自動潅水に比べ増やしても、果実糖度を落とさずに1粒重が大きくなり、収量も多くなる傾向にあるとしています。このように日々の潅水量の制御によって、収量や品質の向上がはかれることが示唆されています。

今後の展開

参考文献7)では、山梨県での研究成果として、マルチ・ドリップ栽培がハウス「シャインマスカット」の果実品質に及ぼす影響を記しています。マルチ・ドリップ栽培ではマルチ敷設(タイベックシートや農ポリシートにより)と同時にドリップ潅水を開始し、対照ではマルチ敷設なしでスプリンクラーで潅水し潅水時間はドリップ潅水と同様にしています。その結果、マルチ・ドリップ栽培では対照に比べ果実の糖度が上昇し、酸含量も低下しています。

 

また参考文献8)では、佐賀県での研究成果として、「シャインマスカット」における土壌水分管理の違いによる果実品質への影響を記しています。根域制限栽培において土壌の湿潤区(土壌水分含水率12%以上)、乾燥区(同12%以下)、乾燥区(同5%以下)を設け、糖度、酸度は湿潤状態になると高くなることを明らかにしています。

 

以上のようにシャインマスカット栽培での高品質化にも潅水方法や土壌水分管理が有効なことが示されており、養液土耕栽培や点滴潅水技術の適用が期待されます。

参考文献

1)山本孝司、ブドウの養液土耕栽培(2005)、島根県農業技術センター

2)大野弘一、〈デラウェア〉施設、養液土耕栽培 密植・一文字整枝(2009)、ブドウ大事典

3)山本善久、「シャインマスカット」の経済性および導入効果と流通量の将来予測、果実園芸2020年11月号

4)少量多かん水で脱ストレス 茨城県笠間市・深谷一郎さん、現代農業2013年7月号

5)ブドウ「シャインマスカット」の養水分管理法(2008)、茨城県農業総合センター園芸研究所

6)ブドウ「シャインマスカット」根域制限養液土耕栽培の潅水量

7)ハウスブドウ「シャインマスカット」のマルチ敷設・ドリップかん水による高糖度化技術、山梨県令和4年度研究成果情報

8)ブドウ品種「シャインマスカット」の成熟期における水分管理の違いによる果実品質への影響、佐賀県研究成果情報(平成25年度)

9)茨城県立農業大学校様(茨城県・ブドウ/ナシ)|省力化&管理のしやすい果樹栽培へ、ゼロアグリ導入事例

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