雇用型経営で考えるべき管理業務について
ー作業管理と労務管理ー
生産性向上

施設園芸経営では、経営規模に応じた様々な経営形態があります。経営規模が拡大した際には雇用を行い、農作業の一部や、もしくは多くを従業員が行う形になります。一方で施設園芸技術の中心は栽培管理や環境制御に関するものとなりますが、雇用を行った場合には従業員や作業に対する管理が必要となり、経営規模が大きくなるほどそれらの管理業務のウエイトが高まると言えます。よって管理が行き届かなければ、作業も効率的に行われなかったり、従業員のモチベーションが低下したりし、本来得られるはずの収量や売上げに影響が出る可能性も十分考えられます。本記事では、雇用型経営で必要となるこうした管理業務の概要についてご紹介します。
1.家族経営と雇用型経営
近年は施設園芸においても農家戸数の減少と規模拡大が進んでいます。そのため家族経営から雇用型経営への移行も一部では進みつつありますが、多くは家族経営と言えるでしょう。また企業参入などのケースでは当初から雇用型経営を行う形になります。まず二つの経営形態について整理をしてみます。
家族経営:家族のみ、もしくはアルバイトなどの季節的な臨時雇用を加えた形態での経営。果菜類の施設栽培ではおおむね20~30a程度の規模(品目による)での経営が多い。臨時雇用を除き求人を行う必要はなく、同一の家族による農作業や経営が行われる。経営の継承は家族や親族から後継者を選び育成する形態が多くみられる。収益の分配は家族間の話し合いや取り決め(家族協定など)によることが多い。ほとんどが個人経営体(個人事業主)である。
雇用型経営:従業員を常時もしくは季節的に社員やパートの形で雇用する形態での経営。農作業は従業員中心で行われ、経営主や組織による従業員の管理が行われる。果菜類の施設栽培ではおおむね40a以上の規模(品目による)で多くなる。雇用のためには、一般的に求人活動が必要となる。退職者が出た場合や規模拡大などで必要な人員が生じた場合には、追加の求人を行う。また新規に採用した従業員に対し、経験が豊富な場合などを除き、農作業についての指導や教育が必要となる。従業員には雇用条件にもとづき労働時間に応じた給与を支払う。経営規模により法人格を持つ経営体と個人経営体に分かれる。
以上のように、家族経営と雇用型経営では、規模や人員数の他にも、求人活動や人の扱い、労働報酬の支払いなどについて、異なる点が多くみられます。さらに家族以外の人間を従業員として雇用し、作業を効率的に行うには、さまざまな管理業務が必要になります。以下に雇用型経営での代表的な管理業務である作業管理と労務管理について触れてみます。
2.作業管理の重要性とその概要
施設園芸の作業の多くは手作業であり、大規模栽培での作業遅れは作物の生育面や収穫出荷面などに大きな影響を与えることがあります。ここでの作業には、定植、誘引、葉かき、つる下ろしといった作物体を触って行う栽培管理の作業、収穫や運搬、選果出荷といった果実など収穫物に対する作業、栽培終了時の撤去片付けや清掃の作業、防除作業など多種多様なものがあります。これら作業の量や必要となる人工数(人員数×時間)は、作物の生育ステージや気象条件によっても変動し、常に一定にはならないものです。
特に作業遅れが問題となる時期は、日射量が増え、作物の生育速度や収量が増大する春先などです。そこでは栽培管理の作業、収穫や選果出荷の作業がともに増加し、オフシーズンの3~4倍の作業量が発生することもあります。これらをこなすために人員の増強や残業が考えられますが、限られた従業員数や就業時間の中ではこなせないことも起こりえます。そのため何とか収穫や選果出荷をこなしても、作物の栽培管理に手が回らずに樹形や草勢が乱れ、さらに収穫そのものにも影響が出ることも考えられます。そうした状況を回避するには、計画的に作業を行うこと、そのために実現可能な作業計画を事前に立案し人手を確保して、また状況に応じて計画を修正しながら粛々とこなすことが求められるでしょう。
ここで作業管理、およびそれに関連するキーワードの概要を説明します。
作業管理:作業計画を立て作業を実施するとともに進捗管理を行い、次の作業に反映しながら作業遅れを回避し作業効率を高めるような、作業にまつわる計画や実績の管理業務のこと。計画と実績の差異をもとに計画内容を調整、修正するようなPDCAサイクルとして行われることが多い。
作業マップ:圃場の畝単位、栽培ベンチ単位での作業進捗管理を行うマップのこと。ラインマーカーで担当者別や曜日別に作業実施箇所を塗ることで見える化をすることが多い。
作業標準:作業種別ごとに行われる作業内容を統一化(標準化)し、誰もが同じ手順や動作で作業を行えるようにしたもの。1つの作業を実行するために必要な標準的な時間(作業標準時間)を設定する場合もある。
作業マニュアル、作業手順書:作業標準を明示するためのドキュメント類や掲示物のこと。文章や図による解説が行われるが、最近は作業風景を撮影した動画を利用することもある。
作業管理アプリ:従業員の作業内容や作業箇所、作業時間等を記録し、進捗状況や作業効率などを管理するアプリケーションのこと。作業の他、収量や農薬使用履歴などを総合的に扱うものもある。スマホやタブレット等の情報端末を用い、クラウド経由での記録や集計閲覧を行う。汎用的な無料のものから施設園芸の雇用型経営に特化した製品などがある。
3.労務管理の重要性とその概要
前述の作業管理が、従業員が行う作業そのものを管理対象としていたのに対し、従業員を対象とした管理業務を労務管理と総称することがあります。そのため労務管理は多岐にわたることが多く、従業員の求人、シフト調整、給与の単価設定や支払い、実績の評価、教育や指導、面談や相談、リーダー育成、福利厚生、労働安全衛生などの従業員にまつわる様々な管理業務が含まれるのが一般的です。
これらの管理業務の中で、作業管理に直結するのが求人とシフト調整です。施設園芸の現場で働く人たちは様々な年代性別にわたり、さらに外国人技能実習生や特定技能といったアジアなど海外の人たちも地域によっては多くみられます。また高齢者中心や子育て世代中心、それらの混合型などの形態もあり、作業能力、希望する労働日数や労働時間帯、収入額なども人それぞれと言えるでしょう。こうした条件を踏まえた上で、必要となる人工数を確保するには、まず求人とシフト調整がポイントになります。例えば従業員の入れ替わりがある場合には都度求人を行う必要があり、また土日などの休日を設定した上で各人が希望する時間帯と作業計画上で必要な時間帯を調整することも実際には生じることでしょう。
その他にも、各従業員ごとに作業のスピードや正確性について評価し、時給に反映をするケースもみられます。一律の給与体系ではモチベーションにつながらないことも考えられ、能力給的に時給単価を上げる場合もあり、一方で公平な評価が難しいと思われる際にはそうした反映を行わない場合もあります。これらは正に人間相手のことであり、地域性や職場環境、さらには人間関係なども踏まえつつ検討する必要があるようです。また作業管理を円滑に行えるよう、従業員の能力を高めるための教育や指導も重要と言えるでしょう。例えば作業が遅い初心者に対しては個別に作業の見本を示して会得させることや、ベテランとペアを組んで早期に作業を習得できるような環境作りも考えられます。
以上のように労務管理では従業員に対する様々な対応や働き掛けがされ、実際の作業で能力を十分に発揮できるような条件整備や環境整備も行われています。
4.おわりに
雇用型経営において重要と思われる作業管理と労務管理についての重要性とその概要をご紹介してまいりました。施設園芸ではこうした管理業務は現場で日々行われていますが、それらを対象とした研究報告や書籍、記事などは少なく、先進事例などを参考に手探りで進められているケースも多いと考えられます。具体的な手法や事例については、またの機会にご紹介できればと思います。

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

