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沖縄県の施設園芸と野菜生産② ー野菜生産出荷と気候、園芸用施設ー

沖縄県では本島や八重山諸島での施設園芸が盛んです。ほとんどが無加温での野菜、花き、果樹の栽培が行われており、地元向けや県外向け端境期品目として販売されています。本記事では、県外とは異なる品目や作型による沖縄県の施設園芸と野菜生産の特徴をご紹介します。

沖縄県の野菜生産出荷と課題

沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第3章野菜生産の状況文献1)によると、令和2年の農業産出額は910億円で、うち耕種部門は512億円で農業全体の56%を、また畜産部門は397億円で44%を占めています。さらに耕種部門のうち園芸作物は261億円で農業全体の産出額の29%を占め、園芸作物の内訳として野菜が127億円、花きが74億円、果樹が60億円となっています(令和2年生産農業所得統計のデータより)。このように沖縄県の農業生産における園芸作物、特に野菜の占める位置が高いことが伺えます。

さらに「本県の野菜、花き、果樹は亜熱帯の温暖な自然条件を生かし、冬春期の県外の端境期における供給産地として生産が行われている。野菜については、ゴーヤー、さやいんげん、トマト、かぼちゃの4品目で野菜産出額の41%を占めている(令和2年生産農業所得統計)」としています。また県外端境期の存在の一方で、県内端境期での県外からの農産物の流入が発生しています。同資料では沖縄県中央卸売市場における県内産野菜のシェアは数量で40%程度、金額で48%程度となっており、市場流通野菜の半分以上を県外産が占めています。

その上で園芸農業における振興上の課題について以下のように述べられており、引用します。

○ 夏秋期の台風襲来、病害虫の多発、冬春期の日照不足等の自然条件の影響から、周年を通した安定的な生産出荷。

○ 生産規模が小さく、生産地が分散していることから、生産供給体制の強化が課題。

○ 国内の大消費地から遠隔な島しょ県であることから、流通の効率化及び輸送コストの低減。

○ 冬春期に偏った生産となっており、農家労働の平準化が課題。

○ 輸入農産物の増加や市場価格の低迷等厳しい経営環境が続くなか、農家経営の安定化。

○ 本県に適した優良品種の導入、オリジナル品種の開発等、優良種苗の安定供給体制の構築。

このように、生産規模の小ささや作期の偏り、島しょでの流通のハンデなどが課題としてあげられています。 以下に沖縄の気候と施設園芸について取り上げてみます。

沖縄県の気候と施設園芸

 

沖縄県の気候について、沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第1章 沖縄県農業の概要文献2)

では、以下のように述べており、引用します。

 

本県の気候は、亜熱帯海洋性気候で、気温は、平均気温23.3度、最高気温平均26.0度、最低気温平均21.1度と1年を通じて温暖である。サンゴ礁の発達した青い海、貴重な野生動植物が生息するなど、自然環境に恵まれている。年平均降水量は、約2,161㎜で全国平均1,777mm(県庁所在地等における観測値の単純平均)の約1.2倍となっており、全国でも比較的雨量の多い地域となっている。

 

一方、施設園芸における環境調節の専門家であり、沖縄県農業研究センターに招聘研究員として在籍したこともある高倉直博士の沖縄施設園芸の環境調節文献3)には、「東京と比較すると 11月から 6月まで那覇の日照期間が大幅に少ないことがわかる .半分以下の月もある」とあります。この期間は沖縄の作物栽培の主要な期間に重なっており、日照時間の少なさの中で栽培が行われている状況も伺えます。また「一番の問題は多くの作物が栽培される後期の 3~6月の湿度が高いことである」とあり、梅雨期間と栽培期間の重なり、およびその影響が伺えます。このように沖縄県の施設園芸は、冬期でも無加温で栽培が可能な温度条件でありながら、日照が十分な条件では無い中での栽培となり、また3月からの高湿度の条件も重なるため、栽培管理や病害虫管理には配慮が必要なことが伺えます

 

なお台風について、前出の園芸・流通(令和5年1月)第1章 沖縄県農業の概要では、「本県は、台風の常襲地であり、平年値で25.1件の発生のうち、その約3分の1の7.7件が沖縄に接近しており、特に6月から10月までにその大半が集中している」としています。また高倉博士は「沖縄の気候と言えば、まず台風の襲来があげられる。そのための対策は不可欠であることは言うまでもない。農業研究センターでも台風襲来の 2、3日前からその対策が進む。進路によってはプラスチックハウスでの栽培は中止して、被覆材は取り除かれる」としています。

 

沖縄県でも近年は強風に対して強度を持つ耐候性ハウスの建設が進んでいます。特に台風襲来時には、被覆資材の補修、換気扇の排気により陰圧を加えることなどの通常の対策に加え、補強用のワイヤー等でハウスの骨材とアンカーなどを固定し、より強度を持たせる工夫も行われています。それでも対策が困難な場合には、被覆資材の除去といった最終手段が取られることもあります。

 

沖縄県の園芸用施設と補助事業

 

前出の沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第3章野菜生産の状況によると、野菜の生産振興施策体系(令和4年度)として、沖縄型耐候性園芸施設整備事業、園芸拠点産地生産拡大事業などの振興策が行われています。また国庫事業も盛んに行われ、野菜関係補助事業実績として表6の例などが紹介されています。いずれも国庫や県費による高い比率の補助が組まれ、ハウス等の園芸用施設の建設に当てられていることが伺えます。

表6 令和2年度 災害に強い高機能型栽培施設の導入推進事業(国庫) 単位:千円
出典:沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第3章野菜生産の状況、野菜関係補助事業実績文献2)

以下の沖縄県の園芸用施設の画像をいくつかご紹介いたします。

豊見城市、糸満市付近のサトウキビ畑とハウス群
(サトウキビ畑をハウス建設用に転換している地域、ハウスでの潅水用のかんがい用水も整備されている)
防虫ネット被覆ハウスでのゴーヤー栽培
(換気性を重視したネット栽培の例)
バジルのハウス栽培
(沖縄県では冬期にもバジル栽培が行われている)
へちまのハウス栽培
(食用へちま(ナーベラー)の栽培例)

参考文献

1)沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第3章野菜生産の状況、沖縄県農林水産部園芸振興課

2)沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第1章 沖縄県農業の概要、沖縄県農林水産部園芸振興課

3)高倉 直、沖縄施設園芸の環境調節(2018)、農業および園芸 93巻9号

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