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イチゴの生育の安定と収量アップのポイント

イチゴの収量アップ

国内のイチゴ生産では、一季成り品種を8~9月頃に定植し、クリスマス時期など年内に最初の収穫を行い、以降は5月頃まで連続的に収穫を行う促成栽培が主流です。作業性がよく、潅水や肥料管理を定量的に行える高設栽培が増えており、産地によっては土耕栽培のほとんどが高設栽培に切り替わったところもあります。一方でイチゴの品種は地域性が高く、都道府県単位で育成された品種の利用も多く、その気候風土にあった品種選定や栽培管理が行われています。

 

本記事では一季成り品種による促成栽培について、定植後から低温期における環境調節や肥培管理を中心とした生育の安定と収量向上のポイントをご紹介します

 

一季成り品種のイチゴは、低温短日期には休眠状態となり、そのまま越冬して、一定の低温に遭遇することで休眠が打破され、春先の高温長日期までに生育も進み収穫されるという本来の性質を持っています。こうしたイチゴの自然のサイクルに対し、品種改良や環境調節、肥培管理等により花芽分化や休眠をコントロールすることで前述の促成栽培が確立されてきました。

しかしそうした花芽分化や休眠に関するコントロールは、イチゴの生理生態に関する知識や観察、微妙な技術のもとに可能であり、同じ産地であってもイチゴの生育や収量にバラツキがみられることも多々あります

花芽分化

イチゴ栽培で収量を高めるためには、花芽分化を継続的に行う必要があります。品種により花芽分化の波が大きいもの、だらだらと連続的に分化するものがあり、ピークを狙った栽培か、連続した収穫を狙う栽培かによって検討する必要もあります。

またイチゴは低温遭遇によって休眠が打破されると、その後の花芽分化に適した温度や日長においても分化しにくいことがあります。さらに栄養生長が進み茎葉も発達し草勢が強くなると花芽分化がしにくくなります。また休眠状態になれば草勢も弱くなります。

このように花芽分化と休眠状態、および草勢はおたがいに関係しており、イチゴの栽培管理の難しさのひとつになっています。またイチゴは一般的に浅い休眠によって連続的に花芽分化が進むという特徴があります。

高設栽培での頂花房

頂花房の分化

促成栽培では、まず第1花房である頂花房の分化を顕鏡等により確認してから定植する必要があります。顕鏡にはコツがありますが、指導機関による研修などで習得することができます。

夜冷庫での夜冷処理などにより頂花房の分化を早め早期定植を行うこともあり、そうした際には特に顕鏡は重要です。花芽分化が不十分で定植を行うと栄養生長が進み、花芽分化がさらに遅れることになり注意が必要です。

定食前のイチゴ苗
定植前のイチゴ苗

第2花房の分化

第2花房の分化は増収のための大きなポイントのひとつです。頂花房の分化から適切な時期に第2花房を分化させ、2つの花房の収穫時期のバランスをとって収穫空白期間を極力少なくすることを目標とします。そのためには定植後の温度管理や肥培管理が重要で、できるだけ低温で管理して花芽分化を促進させること、また肥料を少なめとして草勢も抑える必要もあります

 

高冷地以外では加温開始前の時期となり、温度管理は日中や夜間の換気により行います。日中は換気につとめ、また夜間は低温によって休眠が深くなりすぎないよう保温が必要な場合もあります。こうした温度管理は品種や地域の気候によるため、その地域の栽培基準を参考に行うことが求められます。また西南暖地などでは台風の心配がなくなる10月に被覆を開始し、それまでの温度管理を低く抑える方法が行われています。高設栽培では肥料濃度を薄く管理して草勢を抑える管理がとられます。

 

この時期には日射量が低下し、また頂花房の肥大時期となり着果負担も増すため、低温管理や肥料を抑えた管理の中で、イチゴの草勢や生育のバランスをとることが難しくなります。そのため定植時の苗質を確保すること、充実した苗を定植して、その後の草勢をなるべく維持することも求められます。

草勢の調整

電照による草勢管理

イチゴは品種によって休眠の深さやリズムが異なっており、低温遭遇など温度によるだけでは休眠の調整が難しいことがあります。電照は日長時間の調節を蛍光灯やLEDなどの照明により行うもので、日没後の点灯により日長延長をし、また夜間の点灯によって暗期中断をする方法があります。電照によって休眠の程度をコントロールして、その結果、草勢の維持や強化につなげることができます。

 

休眠の状況に対し電照の開始時期が早すぎたり遅すぎたり、また電照による日長延長が長すぎたり短すぎたりすると、草勢の調整効果も異なってきます。場合によっては草勢が強すぎて花芽分化にも影響が出る可能性もあり注意が必要です。その地域での特定品種に対する電照の方法を学びながら、イチゴの電照に対する反応もよく観察して行う必要があると言えます。

 

低温期の草勢管理

低温期には日射が低下し、着果負担もある中での草勢の維持がポイントとなります。そして草勢が強すぎても着果や収量に好影響が出るとは限らず、花芽分化の遅れや小果の発生につながる場合もあります。一般に温度や肥料分を高めることで草勢を強くすることができますが、その場合もバランスに注意しながらの調整が求められます

 

CO2施用と草勢管理

高設栽培の導入に伴い、地面には防草シートが敷設され、微生物による有機物の分解と土壌表面からのCO2の発生が抑制される傾向にあります。そのためハウスが密閉される低温期の夜間から早朝にかけ、CO2濃度の上昇が見られず、日の出後にも積極的にCO2を施用する必要があります。

日中に換気がされずハウスが密閉状態にある場合はCO2濃度を高めることは容易で、光合成の促進による草勢の向上や果実の肥大にも結び付けることができます。また換気状態であっても、大気並み濃度に維持する方法(ゼロ濃度差施用)を用いることで、一定の果実肥大効果も期待されます。ただし前述のような高めの温度管理で草勢が強い場合には、必ずしも収量に結びつかないこともあり注意が必要です。

高設栽培で利用されているCO2センサー
高設栽培で利用されているCO2センサー

病害虫対策

イチゴの病害にはウドンコ病、炭疽病、灰色カビ病などがあり、害虫にはハダニ、アブラムシ、アザミウマなどがあります。苗段階での防除の徹底やウイルスフリー化が必要であり、CO2のガス密閉状態の中で害虫を駆除する技術なども開発されています。また害虫の被害が広がると草勢が著しく低下して回復が困難となる場合もあるため、初期の防除の徹底や、病害虫のモニタリングと適時の防除も継続的に求められます

近年では天敵が利用されるようになり、化学農薬による防除との組み合わせで効果をあげるケースも出ています。またUVランプによるウドンコ病の抑制の技術も開発されています。

このように多くの病害虫防除技術が開発され、地域の栽培体系にも組み込まれてきており、効果的な方法を取り入れながら病害虫による収量の低下を極力防ぐことが求められます。

電照ランプ(無点灯)と病害抑制用緑色ランプ(点灯中)
電照ランプ(無点灯)と病害抑制用緑色ランプ(点灯中)

今後の展開

一季成り品種による促成栽培での定植から低温期にかけての生育の安定と収量向上のためのいくつかのポイントをご紹介いたしました。また低温期以降で春先にかけては、草勢の維持や果実肥大に必要な適時の潅水と施肥の管理、それに付随したハウス内の湿度(飽差)の管理など、イチゴと水分、養分の吸収にかかわるポイントも多くあります

イチゴは他の果菜類にくらべ生育が遅く、見た目の変化も分かりにくい作物ですが、草勢や開花、着果の様子や変化を観察しながら、手遅れにならないような管理がもとめられます。ある程度の経験も必要と言え、今後は記録やデータにもとづく管理も有効になるものと考えられます。トマトでは一般化した生育調査データや環境データにもとづく栽培管理の指標化の手法も、今後のイチゴ栽培に徐々に取り入れられていくものと考えられます。

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参考文献:

岩崎泰永、「環境調節」農業技術体系 野菜編、農文協(2014)

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