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土壌水分センサーの種類と使い方

養液土耕栽培での潅水の自動制御には、日射センサーによる日射比例制御と、土壌水分センサーによる潅水制御などがあります。ゼロアグリでは日射と土壌水分の両者を加味した制御方法を用いていますが、そこで不可欠な土壌水分センサーの種類や使い方について解説をいたします。

土壌水分センサーの種類

土壌水分センサーには、土壌の誘電特性を計測し土壌水分を求めるタイプがあります。参考文献1)には、その計測の原理について下記の記述があり引用します。

 

「土壌は主に、水・空気・土粒子から構成されますが、水の比誘電率が 80 程度なのに対し、空気は 1、土粒子は 2~5 程度と圧倒的に小さいため、水の割合で土壌全体の比誘電率が決まってきます。そのため、誘電特性を測定することで、土壌の密度や物組成が多少変わっても、土壌水分量と誘電特性の関係が変化せず、頻繁に値を補正することなく、正確な土壌水分量が計測できるようになりました。」


この誘電率を測定する方式により、いくつかの土壌水分センサーのタイプがあります。例えば、TDR土壌水分センサーがあります。TDRとは、Time Domain Reflectometryのことで、土壌に直線状の電極棒を刺し電極内に電磁波を流して透過時間を測定するもので、透過時間と誘電率の関係から土壌水分を求めています。また誘電率の他、電気伝導度(EC)、温度の測定も可能で、養液土耕栽培では使い勝手の良いものと言えます。

TDR土壌水分センサー
TDR土壌水分センサー(クリマテック株式会社HPより)

また、TDT土壌水分センサー(TDT:Time Domain Transmission)というタイプがあり、電極棒がループ状になっており電磁波を流して戻るまでの時間を測定し誘電率と土壌水分を求める方式です。TDR土壌水分センサーより価格は安いタイプとなりますが、電極全体が丸く土壌に刺しにくいことがあります。こちらも電気伝導度、温度の測定が可能です。

TDT土壌水分センサー
TDT土壌水分センサー(クリマテック株式会社HPより)

他に、キャパシタンス式土壌水分センサーという安価なタイプがあり、センサー内にあるコンデンサーに対し電流を流し、その充電時間からコンデンサーの静電容量を求め、誘電率と静電容量との関係から土壌水分を求めています。センサーは樹脂状のものが多く、簡易に扱うことができます。土壌水分の測定のみ可能となります。


以上のような誘電率を計測するタイプの土壌水分センサーは20世紀の終わり頃に開発、販売されるようになり、その後も改良が続けられてきました。一方で、それまでの土壌水分の計測には、現在も用いられていますがテンシオメーターが利用されていました。

テンシオメーター
テンシオメーター(株式会社ウイジンHPより)

テンシオメーターはポーラスカップと呼ばれる素焼きの筐体に水を満たした状態で土壌に刺して用います。素焼きの孔を通して土壌中に水分が流出しますが、その変化を圧力センサーやアナログ式圧力計で感知して、土壌の乾燥の程度をpF値として測定します。pF値は土壌が毛管現状によって水を吸い寄せる圧力を示しており、土壌が湿潤状態になればpF値は小さくなります。また乾燥状態になればpF値は上昇し、潅水開始の目安として使われてきました。テンシオメーターでは筐体内の水の補給の手間があること、またその後に開発された土壌水分センサーが、測定範囲などより潅水制御に適したものであることなど、養液土耕栽培での潅水制御では使われることはあまり無いものです。

土壌の種類と土壌水分センサーの使い方

上記で紹介しましたTDRなどの土壌センサーで誘電率を計測し土壌水分を求める場合には、土壌の種類によっては同じ土壌水分(ここでは体積土壌水分率(%):体積当たりの水の体積の割合)であっても、植物の根が吸える水分は異なります。

 

図1では、砂質、ローム(火山灰土)、粘土の3種の土壌について、体積土壌水分率と水ポテンシャルの関係をグラフ化したものです。水ポテンシャルは、圧力や毛管現象、浸透圧などによる水の移動する力をあらわしています。図1ではグラフが上に行くほど根が土壌から水分を吸いにくい状態にあります。また図1からは土壌の種類によって、体積土壌水分率が同じであっても水ポテンシャルは異なっており、植物の根が吸える水分が異なることになります。


そこでひとつの目安として図1の中で圃場容水量という範囲を設定し、そこに近づけるような土壌水分管理を行う方法があります。圃場容水量は、土壌を潅水により水で満たしたのち、潅水を止めて排水を行い、過剰な水が無くなり落ち着いた状態での土壌水分を指します。図での圃場容水量の範囲は土質によって大きくことなっています。ゼロアグリでの土壌水分の管理では、土壌水分センサーから得られる体積土壌水分率の値を圃場容水量に近づけるよう灌水制御を行う方法がとられています

土壌の種類による土壌水分率曲線
図1 土壌の種類による土壌水分率曲線

今後の展開

土壌の種類の違いを踏まえた土壌水分センサーによる潅水管理の考え方について紹介をいたしました。実際のハウス内の土壌は、箇所によって種類が変わっていたり、保水性や排水性も異なることが多くあります。しかし潅水の系統範囲を土壌の違いに応じて細分化することは現実的ではないため、代表的な箇所を選んで土壌水分センサーを設置し、その箇所での値による潅水制御を行う形になります。その場合には箇所によって潅水の過不足がある程度は生じることも考えられますが、許容範囲におさまるようセンサーの設置箇所を選び直すことになります。



図2は、ゼロアグリでの土壌水分センサーによる潅水管理の模式図となります。土壌水分を適切な範囲内に管理するよう、少量多潅水の細かな制御が行われている様子を示しています。土壌の種類に合った適切な土壌水分の範囲をとらえ、それを目標に潅水制御を行うには、計測範囲での精度が保たれ、また導入費用も妥当と思われる土壌水分センサーを選ぶ必要があるでしょう。

ゼロアグリとタイマーや手動による潅水管理の模式図
図2 ゼロアグリとタイマーや手動による潅水管理の模式図
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