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トマトの養液栽培について①

トマト養液栽培の概要

農林水産省の「園芸用施設の設置等の状況(R2)」参考文献1) における「養液栽培実面積の推移(野菜)」によると、令和2年のトマトの養液栽培実面積は831haあり、同年の野菜の養液栽培実面積2,081haの約40%を占め、トマトは最も養液栽培面積が大きい野菜になります。また同じく「品目別施設野菜栽培延べ面積の推移」によると、令和2年のトマトの栽培延べ面積は6,481haあり、養液栽培実面積はこの約12.8%になります。トマトは養液栽培の割合が最も高い野菜になります。
トマトの養液栽培には栽培方式や栽培目的に応じ様々な形態があり、一言で表すことは難しいものです。また数ha規模の大規模植物工場施設から、10a単位の個人経営施設まであるのがトマト養液栽培の特徴です。本記事では羅列的になりますが、これら形態や特徴についてご紹介いたします。

固形培地耕

固形培地耕は、人工培地や有機質培地などの固形培地を用い、点滴潅水などにより培養液を供給する方式で、トマトの養液栽培の中心と言えるものです。人工培地ではロックウールが多く使われ、有機質培地ではヤシガラ(ココピート)が多く使われます。いずれも培地にキューブ(ポット)とスラブ(マット)の2種類を用い、トマトの苗をキューブに植え、さらに複数のキューブをスラブに置く形を取ります。潅水はドリッパーを各キューブに挿して行うのが一般的で、株ごとの均一な潅水が可能となります。さらにスラブは傾斜を持つベンチの上に並べられ、スラブからの排液はベンチの片側へ排水されます。一般には排液は系外に排出するかけ流し方式が多くみられますが、大規模施設のオランダ型設備などでは殺菌装置を備え循環方式もとられています。なお、ベンチにガターと呼ばれる金属の成形品を載せる方式や、発泡の栽培槽を載せる方式、さらにガターのみをハウスのトラスから吊るす方式(ハンギングガター)などがあります。

ロックウールによる固形培地耕

固形培地耕は、オランダ型の大規模施設で近年急速に普及し、年間数百トン規模の生産を行うトマト栽培の標準的な方式になっています。また栃木県や愛知県などでは、施設資材メーカーの固形培地耕プラントを導入した産地形成も行われています。近年では多収栽培が中心となり、高軒高ハウスと高所作業車によるハイワイヤー栽培に固形培地耕を組み合わせ、積極的な環境制御を行うことで40~50t/10a程度の単収を実現可能となっています。また一般的な軒高のハウスでは、つるおろし栽培や斜め誘引を行い、30t/10a程度の単収も得られています。作型はいずれの場合にも長期一作型が中心となりますが、抑制栽培や促成栽培などを組み合わせた年2作型もみられます。

ココピートを不織布で包んだキューブによる固形培地耕

固形培地耕での大玉トマトの多収栽培では、トマトの品種などにもよりますが、一般的には糖度は4~5程度の場合が多く、あくまで収量を追及する方式と言えるでしょう。中には高ECの培養液による少量潅水を行い、高糖度のミニトマトを生産するケースもみられ、まだまだ技術的にも経営的にも広がりもある方式と言えるかもしれません。

バックカルチャー

バックカルチャーは袋培地栽培とも呼ばれ、バック(袋)の中に有機質土壌やヤシガラなどを充填し、苗の定植を行い、バックへの点滴潅水で栽培を行う方式です。前述の固形培地耕ではベンチやガターにスラブを載せて栽培を行いますが、バッグカルチャーではバッグごと培地を床置きにし、ベンチ類は用いません。そのため、排液を集めるような構造にはならず、バッグにあけた孔などから排液はそのまま地面に排出されます。

バックカルチャーはバックや潅水チューブなどを床面に配置するなど、自家施工が容易で、資材費や施工費も一般の固形培地耕に比べると安価です。文献2)、文献3)には詳細な施工や栽培管理のマニュアルが示されています。また撤去も容易で、土耕栽培に戻すことも選択できるでしょう。

なお、バッグカルチャーは培地が露出していることで冬期に培地温度が低下しやすく、生育や収量にも影響がでることがあります。冬期寡日照地域である福岡県では、電熱線による省エネ的な培地加温での試験成果を公表しています文献4)

礫耕

礫(れき)耕は固形培地耕の一種で、国内の養液栽培の導入期から行われていました。参考文献5)、6)には福岡県の礫耕による事例が紹介されています。福岡県では1980年から2000年代に導入が進み、現在も福岡市西区や糸島市に10ha規模の産地があります。培地に用いる礫は、直径5~25mm程度の日向ボラ(湿った軽石)を用い、発泡製ベッド内にポリフィルムを張り礫を敷き詰め、給液はタイマー制御で配管のノズルより噴霧で行い、排液は回収し循環再利用を行っています。培養液タンクには大型の地下タンク(5t/10a程度)を、また培地加温装置を用いています。

 

福岡県では大玉トマトによる長期1作型の栽培が行われており、栽培終了後も礫は除去せず、再利用をしています。福岡県の産地では礫耕導入と同時期に建設されたハウスを現在でも用いている経営体も多く、つるおろしや斜め誘引による長期栽培が行われています。

 

独立ポット耕

独立ポット耕栽培は岐阜県農業技術センターが開発した不織布ポットを利用した方式で、ポットファームやIKポット耕システムとして全国向けに販売がされ、大玉トマトやミニトマトの栽培に用いられています。一つの不織布ポットに1.2リットルの有機質培地を充填し点滴潅水を行います。スラブとポットを用いる一般的な固形培地耕とは異なり、1株ごとの独立した栽培となっているのが特徴で、土壌伝染性の病害には比較的強いものと考えられます。また排液はポットの下部にある樋で受け回収し、系外に排出するかけ流し方式です。栽培ベンチは直管パイプを組み立てるタイプや、つり下げ方式のものがあり、パイプベンチの自作も可能です。パイプベンチの下に培地加温ダクトを設置して培地温の確保も可能となっています。

岐阜県では長期1作型や抑制栽培と半促成栽培の年2作型が行われています参考文献5)。参考文献7)には具体的な培養液管理方法などが記されています。

(トマトの養液栽培について②へ続く)

参考文献

  1. 園芸用施設の設置等の状況(R2),農林水産省
  2. トマト袋培地栽培マニュアル(2006),愛知県農業総合試験場
  3. トマト袋培地栽培マニュアル(追補版)~ミニトマト袋培地栽培・夏期高温対策・導入指針~ (2011),愛知県農業総合試験場
  4. 中国尭士・園武みどり・井手治・龍勝利,トマト袋培地栽培における培地加温温度の違いが生育および収量に及ぼす影響(2014),福岡県農業総合試験場研究報告(33),p13-17
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