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キュウリの養液栽培について①

キュウリ養液栽培の概要

キュウリ栽培のほとんどは土耕栽培により行われており、養液栽培によるものは極一部になります。農林水産省の「園芸用施設の設置等の状況(R2)」参考文献1)における「養液栽培実面積の推移(野菜)」によると、令和2年のキュウリの養液栽培実面積は33haです。同年の「品目別施設野菜栽培延べ面積の推移」によると、令和2年のキュウリの栽培延べ面積は3,281haあり、養液栽培実面積はこの約1.0%になります。また同年の野菜の養液栽培実面積2,081haの約1.6%に過ぎず、養液栽培の品目としてもマイナーなものと言えるでしょう。

キュウリの養液栽培が普及をみない理由について、埼玉県園芸試験場で長年キュウリ栽培の研究に携わった稲山光男氏が参考文献2)で、「キュウリの植物的特性であるつる性の特性を生かすことができず、栽培期間中の草勢維持が困難で土耕栽培と同等あるいはそれ以上の収量を安定的に得られたという事例が見当たらないことが挙げあげられる。」としています。つまり養液栽培では土耕栽培以上の収量を得ることが難しく、これがネックになっていたということでしょう。近年は品種改良や環境制御技術の導入などにより、土耕栽培でも30t/10a以上の収量を得られるようになっており、トップクラスでは40t/10aの例もあり、キュウリの養液栽培の普及のハードルは高いものと言えます。

そうした中でも、キュウリの養液栽培の事例はトマトやイチゴなどに比べると少なくはありますが、様々なバリエーションがあります。本記事では主要な方式や事例について紹介いたします。

高知方式湛液型ロックウールシステム

高知県で開発された方式で、発泡槽内にロックウールスラブを置き、レベルセンサーにより一定の水位で培養液を供給するものです。レベルセンサーによる給液管理は他のメーカー製品にもみられるもので、国内のロックウール栽培の導入期には一般的な方式でした。

参考文献3)には高知県四万十町の田井和広氏による事例紹介があります。田井氏は、9月上旬定植~10月上旬収穫開始~3月下旬収穫終了の促成長期栽培と、4月上旬定植~5月上旬収穫開始~7月下旬収穫終了の短期栽培を組み合わせた年2作型を行っています。接ぎ木による自家育苗も長期栽培で行い、短期栽培では購入接ぎ木苗を用い、75mm角のキューブに定植をしています。高知県では他にも半促成栽培や抑制栽培の作型での試験成果として、培養液管理や栽培管理について公表しています参考文献4)5)

また高知県では本方式をナスなど他の作物でも実用化しています。参考文献6)には、田井氏がキュウリ土耕栽培を28年間行った後に、高知県が公募した本方式によるナスの養液栽培プロジェクトに参加したことが記されています。その後、田井氏がナスによるアレルギー症状に見舞われナス栽培を断念、養液栽培によりキュウリ栽培へ復活したことも記されています。

田井氏によると、年1作の長期栽培も可能としながら、年2作型により高品質の維持が可能と述べています。また極端な多収や高収入が得られるとは考えていないものの、本方式のメリットとして、収穫終了前の給液停止により株をしおらせて片付けが簡便なこと、購入苗利用で作替え(片付け~定植)を10日程度で可能なこと、土づくりが不要なこと、作業環境がよいことなどを挙げています。

ロックウール

固形培地耕(ロックウール)

国内のロックウール栽培の導入期には、トマトなどと並びキュウリの栽培も行われていましたが、トマトに比べるとほとんど普及が進んでいませんでした。キュウリのロックウール栽培にも取り組んだトマトのロックウール栽培生産者によると、キュウリ栽培は大変忙しく、場合によっては1日2回~3回の収穫があり続けられなかった、という話もあります。これはキュウリの生育速度はトマトに比べると早く、茎が伸びて節に着花し、実もどんどん着くことが繰り返されるためです。家族経営の労働力でカバーできるキュウリロックウール栽培の面積は限られたものであったと思われます。

参考文献7)、8)には、JA全農が佐賀県佐賀市に建設した1haのキュウリ栽培実証施設(ゆめファーム全農SAGA)におけるロックウール栽培について記されています。1haのうち半分近くの44aでハイワイヤーつるおろしによるロックウール栽培を行い、実証1年目に56.2t/10aの国内最高記録を達成したとあります。実証施設は高軒高ハウスであり、トマトやパプリカのハイワイヤー栽培と同様にキュウリを吊り下げて栽培し、高所作業車による誘引や、低所の定位置での収穫作業を行うものです。同文献には「ハイワイヤーつるおろし栽培は、定常作業が簡単で作業を一義的にパート従業員に指示できるため、作業習熟が早く、さらに作業時間も少なくて済み、大規模雇用運営向けの仕立て方法である。」としています。キュウリのつる性による早い生育をハイワイヤー栽培にうまく当てはめ、また作業の簡略化を行い、パート雇用による大規模経営を実証したものと考えられます。

また同文献には、ロックウール培地内の水分率を計測する水分計を用い、潅水の開始時間や停止時間、日中の潅水量や頻度を調整するとあります。また水分率を意識しすぎると培地内ECが多く変動して植物にストレスを与える場合があり注意が必要、とあります。植物の状態を見ながらの潅水管理がロックウール栽培でも求められる、と考えられます。

その後、ゆめファーム全農SAGAに勤務経験がある佐賀県大町町のキュウリ生産者の鵜池幸治氏が、同町の園芸団地に45aの高軒高ハウスによるロックウール栽培を雇用型経営により開始しています参考文献9)。キュウリのロックウール栽培は長い年月を経て大規模栽培での経営が始まっています。

(キュウリの養液栽培について②へ続く)

参考文献

1)園芸用施設の設置等の状況(R2),農林水産省

2)稲山光男,キュウリのNFT・散水毛管水耕システムの開発と周年高品質多収生産の栽培 (2020),施設と園芸(188),20-25

3)日本養液栽培研究会 編,養液栽培ハンドブック(2018),誠文堂新光社

4)高知方式湛液型ロックウールシステムによるキュウリの半促成栽培,高知県農業技術センター・作物園芸部・施設野菜科

5)高知方式湛液型ロックウールシステムによるキュウリの抑制栽培,高知県農業技術センター・作物園芸部・施設野菜科

6)【特集】田井農園のキュウリづくり(2018),りぐらんと vol.7,四万十町地域おこし協力隊

7)全農 耕種営農対策部 高度施設園芸推進室,きゅうり ロックウール養液栽培の基本技術 「ゆめファーム全農SAGA」の事例,グリーンレポート 2021年11月号

8)松谷一輝・知識秀裕・太田悠介・澁谷卓也・吉田征司,ゆめファーム全農SAGA キュウリ実証ハウスの取り組み,農耕と園芸 2021 夏号

9)大雨被害から再起 大町町の鵜池さん 園芸団地でキュウリ養液栽培,佐賀新聞ニュース 2022/05/20

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