各種細霧・散布システムと多目的散布システム
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はじめに
施設での冷房や加湿のために、細霧冷房システムが用いられています。これは動力ポンプと細霧ノズルを用い、粒径の細かな細霧を発生させ、気化冷却による細霧冷房や加湿を行うものです。一方で、同様な設備により薬剤散布を行うものもあります。これはノズルを通してハウス内に均一かつ自動的に散布をします。実際には双方の機能を兼ね備えた多目的細霧システムがあり、また細霧冷房の機能は無いものの、薬剤散布の他に葉面散布や散水の機能を兼ね備えた多目的散布システムもあります。それらのおおよその機能を整理すると下表のようになります。

上記のように、細霧冷房システムは冷房と加湿に特化したもの、多目的細霧システムは冷房、加湿、薬剤散布、葉面散布、散水のすべての機能を持つもの、多目的散布システムは冷房以外の機能を持つものと言えます。境界線は多少あいまいなところはありますが、本記事ではそれぞれの概要や多目的散布システムについてご紹介します。
細霧冷房システム
細霧冷房システムは、口径の小さい高圧ノズルを用い、微小な粒径の細霧を噴霧して自然換気や強制換気と組み合わせ、水の気化を促進し冷房を効率的に行うものです。特徴として冷房に特化したシステムで気化冷却効果が高いこと、水が気化しやすいことで作物が濡れにくいことがあります。また噴霧量(噴霧の時間や回数による)と換気量の調節によって冷房効果や加湿効果を調整可能となります。一方でノズルの口径が小さく詰まりの問題があることから、薬剤散布や葉面散布には使用しません。また高圧ノズルは高価なものも多いため、数にもよりますがノズルのコストもアップします。また高圧をかけるため、使用するポンプの能力も高いものが必要となります。
参考:冷房について① ー気化冷却による冷房ー、農業記事・ゼロアグリ Webサイト
多目的細霧システム
多目的細霧システムは、細霧冷房システムより粒径の大きな細霧を噴霧するようなノズルや動力ポンプを用いた噴霧システムで、ノズルも口径の大きいものを使用するため、薬剤散布や葉面散布にも利用可能です。また水の噴霧量が多ければ散水用としても利用できる場合もあります。一方で細霧の粒径が大きいため、水が気化する量は小さく冷房能力は専用の細霧冷房システムより劣ります。冷房用とうたっている製品でも、実際は春先の乾燥期などの加湿を中心に用いるケースもみられます。ノズルのコストも細霧冷房システムよりは低いものとなり、システム全体のコストも抑えることができます。なお薬剤散布や葉面散布に用いる場合にはノズルなどの詰まりに注意する必要があり、フィルターとともにフラッシング等による洗浄が必要になります。
多目的散布システム
多目的散布システムは、最も口径の大きいノズルを用い、細霧より粒径の大きな水滴を散布するようなシステムになります。そのため冷房用に利用することはほとんど無く、また散布時には作物体に濡れも生じます。一方で農薬や葉面散布剤をノズルによりハウス内に一度に散布することで、散布作業を短時間で行い、また自動化も可能です。多目的散布システムはそうした散布用に特化したシステムと言えるでしょう。ここで用いられるノズルは樹脂製のものがほとんどで、冷房用に用いられる金属製ノズルに比べ安価です。また1ノズルに吐出口が4個付いた特徴的な製品もみられます。ノズルや継ぎ手類がユニット化されたものもあり、その場合には組み立てや設置を依頼せずに自家で行うこともでき、導入コストをより抑えることも可能となります。なお、多目的細霧システムと同様に、詰まり防止のためのフラッシング等の機能が必要になります。
なお、多目的散布システムにはいくつかのタイプがあります。
自走式の多目的散布システム
ノズルを多数取り付けたアームがレールに沿ってハウス内の畝方向を往復する自走式の方式です。往復動作によって均一な散布を行う特徴があります。アームに設置されたモーターと車輪により移動が行われ、またアームから伸びたホースがポンプに接続され薬剤等が供給される仕組みになっています。鉢物や苗物などのベンチ栽培、切り花栽培などで多く利用されています。
ノズル配管式の多目的散布システム
これは一般的なタイプであり、ハウスの骨材を利用して頭上配管を行い、一定間隔でノズルを設置して均一な散布を行うものです。ノズル数を多くすれば噴霧量も増し、短時間での散布が行えますが、ポンプの能力を増す必要があります。
今後の展開
以上でご紹介した各種細霧・散布システムは、高温対策や薬剤散布の省力化等を目的に広く利用されているものです。製品として決して目新しいものではありませんが、異常気象による猛暑の多発、人手不足や規模拡大などに対応したシステムとして、今後も利用が進むものと期待されます。実際の運用では冷房、散布など用途に応じポンプ類や電磁弁等の制御を行うためのタイマーやコントローラ類も必要となります。また遠隔操作機能やスケジュール機能が組み込まれた製品や、他の制御システムとの連動が行われるケースもみられます。
また製品の一部にはキットとして販売されるものもあり、ノズルや継ぎ手類のパーツ購入し自家施工を行うケースもみられます。中には安価な海外製金属製ノズルを利用するケースなどもみられ、こうした導入コスト低減の取り組みは資材高騰や施工業者の人手不足の中では一般化が進んでいるようです。
なお関連する文献や各社の製品紹介の情報を記しましたので、ご参考にされてください。
参考情報
- 渡邉賢・土井将希、多機能細霧システムの活用法(1)ハウス内の自動防除の有効性と留意点、施設と園芸 195号(2021年秋)
- 自走式散布装置 グリンメイト Rタイプ 多目的システム、株式会社グリーンテック Webサイト
- クールミスティ、福栄産業株式会社 Webサイト
- 自動噴霧装置 なからっぽⓇ、株式会社ブルーウィング Webサイト
- COOLNET PROTM TECHNICAL DATA, Netafim Website

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

