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イチゴの電照栽培について

イチゴの促成栽培では、日照時間が短い冬期に草勢が低下しやすいため、電照栽培による草勢維持と収量確保をはかる技術が定着しています。国内では各地で様々な品種が栽培されており、最近の品種では必ずしも電照栽培が必要ではないものもありますが、多くの品種と産地で電照栽培が取り入れられています。本記事では電照栽培の仕組みやポイントなどについてお伝えします。

イチゴ促成栽培と花芽分化

農業技術事典には、光周性について次の記述があります。

「昼と夜の明暗の周期を光周期と呼び、生物が光周期に刺激されて開花や休眠が誘起される性質を光周性という。~中略~(1)昼が短い条件下で花芽形成が誘導される短日植物と、(2)昼が長い条件が花芽形成に好適な長日植物の2つのタイプに分けられる。」

イチゴでは、促成栽培を行う一季成り性品種の場合には短日植物に当たり、冬場の短日条件(日照のある昼間の時間が短い条件)下で、花芽形成(花芽分化)が進むと言われています。

参考文献1)では、イチゴ(以下は一季成り性品種について)の促成栽培での花芽分化について、以下のような記述があります。

「イチゴは、短日や低温条件で休眠に入り、冬期に一定の低温に遭遇することで休眠が打破される。また半休眠状態におかれると、花芽分化が促進される。」これは、促成栽培が通過する冬期の状態になるでしょう

続けて、「休眠から完全に覚醒すると、花芽分化に適した日長と温度条件下でも花芽分化しない期間が生じる。」とあり、休眠の覚醒の場合に触れてます。「草勢が強いと花芽分化は遅れ、草勢が強いと花芽分化が早まることも見られる。さらに草勢は、休眠が浅いと強くなり、深いと弱くなる傾向にある。」とあり、草勢と休眠、花芽分化などについてかなり複雑な反応を示していると考えられます。

こうしたイチゴの複雑な特性に対して、促成栽培では休眠、草勢、花芽分化を上手にコントロールし収量を高めることが求められる、としています。本記事では、こうした促成栽培の技術全般に触れることは難しいため、電照栽培による草勢管理を中心に紹介いたします。

イチゴの電照栽培の実際

 

参考文献2)には、「イチゴは長日条件において、葉面積の拡大、葉柄の伸長、ランナーの発生などが促進される。促成栽培では、冬期の短日条件と低温による休眠を回避し、葉面積を拡大して光合成能力を維持するよう、一般的に電照による長日処理が行われる」とあります。つまり冬期の草勢低下に対し、長日条件を電照により作り出し、葉面積の拡大や葉柄の伸長による草勢の維持をはかることが求められます。

 

具体的な電照方法については、「夕方からの日長延長より、光中断のほうが短い点灯時間で効果を得られる、深夜2時間程度の光中断が16時間の日長延長とほぼ等しい効果を発揮する。」とあり、光中断の効果に触れています。参考文献1)には、「1時間のうち10~20分点灯、残りの時間は消灯のサイクルを繰り返す間欠電照法もあり、契約電力量を小さくするために有効」とあります。こうした電照の時間帯やサイクルなどについては、実際にも様々な方法が取られています。

 

参考文献3)には、「電照による長日処理の方法は日長延長式や間欠式があり、いずれも過繁茂になることで連続開花性が失われないように、イチゴの草勢を観察して処理時間と処理期間を調節してる」とあり、さらに各品種における電照栽培の時期や方法について一覧表でまとめています。例えば章姫は、12月上中旬~2月に電照時間を2時間程度とし目標の草姿になれば1時間程度に短縮する(出典:野菜園芸大百科 2004)、とちおとめは11月下旬から12月上中旬に開始し電照時間は生育をみながら調節し葉柄長20cm以内を目標にする(出典:同)などが示されています。以上は、地域と該当品種についての指標例と言えるでしょう。また電照が不要な品種として、紅ほっぺ、やよいひめ、かおり野などをあげています

愛知県農業総合試験場 イチゴのLEDマニュアル

電照栽培で用いる照明器具

参考文献1)では、「電照に必要な明るさは10a当たり100Wの白熱電球で40~50個が目安とされている」とし、「電照には赤色光や遠赤色光の効果が高い」、「最近は価格低下が著しいLED照明も使われる」としています。

 

LEDなど照明器具による電照栽培の効果に関する試験成果やマニュアルはいくつか公表されており、参考文献4)では、白熱電球や白色LEDなどによる電照栽培の比較試験を行い、無電照に比べ白熱電球、LEDとも2月からの増収効果があり、照度(30~100lx)による差もなかったとしています。また参考文献5)では、LEDの波長特性について、「イチゴの休眠程度の測定にも使われる葉柄長を調査した結果、620~660nm が適している」としており、赤色光の効果を示しています。

 

近年は白熱電球や蛍光灯からLEDへの転換も進んでおり、低価格化や様々な波長特性を持つ製品も販売されています。初期コストは高いものの、消費電力量の低さと長寿命などの特性を持つLED利用は、今後も進むものと思われます。

高設栽培での電照

参考文献6)には、高設栽培における電照の効果を高めるために、最低限必要な照度(株の位置で20lx程度)を確保すること、電照だけでなく培地温度(株元のクラウン付近の温度)を高めることの他、高設ベンチにより培地の位置が1m程度高くなることで照明器具との距離が近づくことに対し、照明位置を上げたり、照明器具数を多くして照明の均一性を高める必要性などに触れています。

今後の展開

イチゴ産地では、電照栽培について地域での電照の期間や方法、使用する器具などが標準的に定められていることが多く、それらを参考に行う必要があるでしょう

一方で、イチゴの促成栽培では、他にも土壌中の窒素量による花芽分化への影響、低温期の温度管理やCO2濃度管理による草勢への影響など、様々な管理要素があります。いずれも重要ですが、栽培管理者が求める草勢(草丈や葉面積など)に対して実際の様子を観察したり、場合によっては草高さを測るなどの生育調査を行うことで、様々な要素の調節やバランスの管理を行うことになると考えられます。

一方で、イチゴの促成栽培では、他にも土壌中の窒素量による花芽分化への影響、低温期の温度管理やCO2濃度管理による草勢への影響など、様々な管理要素があります。いずれも重要ですが、栽培管理者が求める草勢(草丈や葉面積など)に対して実際の様子を観察したり、場合によっては草高さを測るなどの生育調査を行うことで、様々な要素の調節やバランスの管理を行うことになると考えられます。

参考文献

 

  1. 岩﨑泰永、環境調節、最新農業技術 野菜 Vol.5 イチゴ 形態と生理・生態(2012年)、農文協
  2. 吉田裕一、栄養成長と休眠、最新農業技術 野菜 Vol.5 イチゴ 形態と生理・生態(2012年)、農文協
  3. 西本登志、促成栽培の基本技術、最新農業技術 野菜 Vol.5 イチゴ 形態と生理・生態(2012年)、農文協
  4. 茨城県農業総合センター園芸研究所、イチゴの電照栽培において蛍光灯及びLEDは白熱電球の代替光源となり得る、新たな光源を利用した花き及び野菜の高品質・安定生産技術の確立(2014年)
  5. 愛知県総合農業試験場、LED を利用したイチゴの電照マニュアル(2013年)
  6. 伏原肇、イチゴの高設栽培ー栽培のポイントと安定化の課題ー(2004年)、農文協
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