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農作物の品種選定|品種選びの考え方と切り口について

作物を栽培する際に、多くの品種からひとつを様々な条件に応じて選ぶことになります。品種の選定は、結果(収量、品質、生産コスト、売上など)にも影響を及ぼします。本記事では、品種選定の基本的な考え方についてご紹介をします。

品種と作型

トマトやキュウリなどの果菜類、ホウレンソウやレタスなどの葉菜類など、多くの野菜は生鮮需要や加工業務需要に対応して、周年生産が行われています。ひとつの産地で周年生産が行われる場合、産地ごとの組み合わせによって周年化がされる場合など、様々な形態があります。こうしたことについて、「農業技術事典 NAROPEDIA」には作型を引き合いに以下の記述があります。

 

「季節や地域に応じて異なる自然環境条件において、作物の経済的栽培を行なうための栽培体系を作型という。この栽培体系は、品種選定、環境調節技術と栽培管理技術で構成されている。」

栽培技術と同様に重要な品種選定

作物の経済的な栽培を行うための栽培体系=作型、作型=品種選定・環境調節技術・栽培管理技術の組み合わせ、ということになります。すなわち、品種選定は、栽培技術や環境制御技術と同等に重要なものと言えます。そして品種選定は、まず自然環境に対応したものであり、経済性も考慮しながら栽培技術や環境制御技術で補って作型として収れんしていくものと言えます。

 

農業では、生産者が持つ技術や生産施設の能力などが注目されることが多くあります。しかしそれらは作物が持つ能力、すなわち品種の特性=遺伝子の特性を発揮するための補完手段と言えるでしょう。逆に品種の選定が適切でなければ、いくら技術や施設が高いレベルにあっても十分な結果は得られないことになります。また品種選定は栽培技術や環境制御技術との関係やバランスも考慮し、その地域にあった作型の中で検討する必要があると言えます。

様々な品種選定の切り口

品種選定の切り口

ではどのような観点で品種選定を行うべきか、その切り口についてご紹介します。

 

地域環境との適合

たとえば高冷地向きの夏イチゴの品種を温暖な地域で栽培することは、かなり困難になります。また逆に冬期に加温することで生育が促進され収量が上がるような品種を高冷地で栽培することは、経済的ではない場合が多いと考えられます。環境調節で解決可能な部分もあるでしょうが、施設のイニシャルコストや燃油等のランニングコストを考えながら、最初にスクリーニングすべきことになります。

 

作型との適合

品種が決まって作型も決まる、というケースもあるかもしれませんが、その作型に適合した品種を選ぶことが基本であると思います。たとえばトマトでは長期栽培に向く品種、高温期の夏秋栽培や夏越し栽培に向く品種などがあります。越冬する作型では低温伸張性などが求められ、夏の栽培では耐暑性や裂果しにくい特性などが求められるでしょう。

 

イチゴでは、高温長日下で花芽分化が進み夏秋期に収穫が可能な四季なり品種の夏イチゴと、促成栽培で低温短日期に花芽分化が進み冬春中心に収穫がされる一季なり品種に大別されています。



収量性

ひとことで収量性と言っても、その構成要素には様々な要因があります。例えば果菜類では着花や着果が良好であること、その後の果実肥大が良好なこと、トマトで裂果しにくいなど収穫物の品質と可販果率の低下につながりにくい特性を持つことなど、そもそも生育速度も早く回転よく花芽が形成されること、光合成能力が高く収量を高める能力もあることなどがあげられます。そうした様々な要素と地域環境や作型との兼ね合いで収量性も決まってまいります。つまり実際にその土地、さらに自分のハウスや設備を使って栽培して、その収量性をはじめて確認でき、検討も可能になると言えるでしょう。

 

品質

品質は需要との兼ね合いで決定されるもので、大きいものが好まれる、硬いものが好まれるなど、様々な需要があると思います。そうした需要に適合する収穫物が得られるか、こちらも最終的に栽培し出荷して分かることも多いと思います。一方で種苗メーカーなどが育種をする際の品種特性のひとつとして品質を掲げている場合も多くありますので、双方の兼ね合いの中で選定を進めることになるでしょう。

 

最近では加工業務用途に適合した品質や形状の品種が育成されることがあります。収穫物が大きく加工にも適したホウレンソウなどです。

 

耐病性

これは育種目標で明確になっている要素で、特定の病害から被害を受けにくい性質である病害抵抗性として明示されています。ただし病害虫も世代交代の中で常に変化するため、抵抗性が無効化するなど注意が必要です。

 

作業性

園芸作物は人間の手で管理され収穫されることが多く、各作業のしやすさが品種によって異なることがあります。例えば葉菜では葉が広がらず立つ形状の立性品種があり、収穫作業を効率的に行うことができます。またトマトではジョイントレス品種と呼ばれ、はさみを使わずヘタをはずすようにして収穫が可能なものもあり、省力性が高いものです。ジョイントレス品種は加工用トマトでみられましたが、最近ではヘタなしで流通するジョイントレスの生鮮トマトも出現しています。

 

単為結果性

トマトやナスなどの果菜類で、受粉作業や受粉昆虫が不要で、受精なしで結実する単為結果性品種の利用があります。特にナスでは単為結果性品種の利用が近年伸びており、品質も良好で省力的な品種として利用されています。

品種選定に必要な試作

種苗メーカーは毎年、新品種を発表し、発表前にも番号品種と呼ばれる試作品種を少量配布しています。生産者や産地はそうした試作品種も出荷用品種の合間で栽培し、毎年テストを重ねることが多いと思います。新しいものが必ずしも良いとは限りませんが、種苗メーカーなどが明確な育種目標を持って育成している品種から可能性のあるものを選び試作し、自分の環境や施設に合うものを選定することは、今後も重要であると考えられます。

 

参考文献

  1. 農研機構、作型(NAROPEDIA)
  2. 特集「品種選び大特集」、現代農業 2022.2
事前に試作することも重要
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