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微量要素について

作物にとって生育に必要な元素を要素と呼びます。要素には17元素があり、うち作物の吸収量が多い物を多量要素と呼び、作物内での構成割合が多い順に、炭素、酸素、水素、窒素、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、硫黄の9元素があげられます。炭素、酸素、水素は、空気や水を源として吸収可能ですが、他の元素は土壌から肥料の形で吸収され、そのための施肥が必要になります。多様要素の作物体での構成比率は数10%~0.1%程度と幅があります。

微量要素は残りの8元素になり、こちらも構成割合が多い順に、塩素、ホウ素、鉄、マンガン、亜鉛、銅、モリブデン、ニッケルがあげられます。微量要素の作物体での構成比率は100ppm(0.01%)~0.1%程度と幅がありますが、これらは微量でも作物の生育に影響を及ぼすことがあります。

微量要素の必要性

微量要素は「作物に吸われる量が少ないために「微量」といわれているだけで、窒素、リン酸、カリなどの多量要素と同様に作物生産には欠くことができないもの」参考文献1)とされています。微量要素のうち、塩素とホウ素の他は金属元素で酵素などの構成成分として作物の代謝などの反応で様々な役割があります。例えば鉄は、光合成、酸化還元反応などに関与しています。マンガンは葉緑素の形成や酸化還元反応などに関与し、亜鉛も葉緑素や植物ホルモン、様々な酵素の合成に関与しています。

微量要素の作物への供給不足が発生した場合、おのおのの微量要素ごとに様々な微量要素欠乏症が起こります。また、ホウ素とマンガンの欠乏が実際に起こりやすいために、肥料取締法では微量要素の中でもホウ素とマンガンだけが肥料成分に指定され、成分量の表示などがされています。一方では多量に必要としない微量要素を過剰に供給した場合、逆に過剰症が起こることもあります。これらのバランスに留意した施肥設計や実際の施肥を行う必要があると言えます。

微量要素欠乏症

微量要素欠乏症の例として、葉緑素の生成抑制によるクロロシスと呼ばれる葉脈の間の黄化症状があります。これは鉄欠乏やマグネシウム欠乏により起こることがあります。また茎の生育が止まり先端から枯死したり、花芽形成や花粉稔性が悪くなることがあります。これらはホウ素欠乏により起こることがあります。その他にも亜鉛欠乏による節間の詰まり症状、銅欠乏による新葉の黄化などがあります。またこれらの葉の症状は古い葉から発生し、新しい葉へと移動することもあります。

カリウム欠乏(タキイ種苗HPより)

微量要素欠乏の要因

農業技術事典には要素欠乏症について以下の記述があります。「多量の化成肥料や有機資材が投入され養分が蓄積傾向にある近年の農耕地土壌では、単純な要素欠乏よりは、むしろ蓄積した肥料元素との拮抗作用による特定養分の吸収阻害が問題となることのほうが多い。」

すなわち、微量要素の欠乏が発生する要因として、土壌中の微量要素自体が不足している場合と、その不足が無くとも作物への供給を阻害する要因がある場合が考えられます。

微量要素の作物からの要求量は少ないため、堆肥等の有機物の施用によって土壌中の微量要素が不足することは少ないと考えられます。しかし近年の多収栽培や周年栽培により土壌中の微量要素が収奪され次作などで欠乏症が発生することも考えられるようになりました。また土壌pHが高い場合(7以上のアルカリ性)には、微量要素の土壌への溶解度が低下し、鉄、マンガン、亜鉛、銅での作物の吸収阻害が起こることも考えられます。さらにリン酸が過剰に施肥されている場合には、リン酸と亜鉛や鉄の間の作物吸収における拮抗作用により、これらの吸収阻害も考えられます。拮抗作用には鉄とマンガンの間のものがあり、相互に濃度が高い場合の吸収阻害が考えられます。他にも微量要素どうしの拮抗作用の関係が多くあります。

他にもpHが低い場合にマンガン、亜鉛、銅などの溶解度が増すことによる過剰症の発生、温度条件による微量要素の吸収阻害として低温下での亜鉛、鉄、マンガンなどの吸収への影響があります。

養液土耕栽培用肥料の微量要素

肥料メーカーでは養液土耕栽培専用の配合肥料として微量要素を含むものを販売しており、肥料取締法で指定されたマンガン、ホウ素や鉄が配合されたものがあります。こちらの商品案内では、いずれの製品においても微量要素の保証成分が0.1%となっています。施肥に当たっては、これらの肥料を原水に溶かし液肥混入機より潅水とともに行う形となり、微量要素のみの単独の施肥を行うことはありません。

微量要素欠乏症の対策

微量要素の利用に当たっては、前述の微量要素を含む養液土耕栽培用肥料の利用なども含め、事前に土壌分析や土壌診断を行い、多量要素や微量要素の過不足を確認し、施肥設計に反映する必要があります。

また栽培期間中の欠乏症や過剰症の発生に対しては、その発生要因を特定し対応する必要があります。前述のような拮抗作用が要因となる欠乏症の場合に、さらに微量要素を投入すると過剰症の要因に逆になってしまう可能性もあります。様々な症状と要因についての総合的な判断が必要になることもあるでしょう。

発生要因が特定されれば、不足する微量要素を含む資材(微量要素肥料)の補給、拮抗作用など微量要素の吸収の阻害要因となる土壌条件の改善が求められます。また応急的には不足する微量要素を葉面散布により補う方法も考えられます。

農業技術事典には微量要素肥料について、「微量要素肥料の施用は、欠乏症の対策や予防に有効となるが、適量範囲が少量で狭いため、過剰症が発生しやすい。」と注意を述べています。さらに「葉面散布の場合にも高濃度や高温の場合に薬害が生じやすい。したがって、土壌・栄養診断等により障害の原因を明らかにしたうえで、適切な微量要素肥料を選択し、作物・土壌条件に合わせて適量を施用する必要がある。」としており、多量要素の施肥とは異なる注意が必要とされます。

参考文献

1)JA全農肥料農薬部、よくわかる 土と肥料のハンドブック、農文協

2)加藤俊博、微量要素供給性の変動要因と施用の課題、肥料土つくり資材大辞典、農文協

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