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【ビニールハウスの寒さ対策】厳寒期のハウス栽培と省エネについて

施設園芸では、厳寒期と呼ばれる1年でもっとも冷え込む時期(年末から2月頃)での保温や加温、省エネの対策が、技術的にも経営的にもポイントとなります。加温が必要な果菜類や花きの栽培では、ハウスの保温性を高め、また省エネ性を高めた暖房を行うことが求められます。ハウス加温の熱源は現在も重油が主流ですが、昨今の原油価格高騰の影響を受け、省エネの必要性も一層高まっています。

 

農林水産省は、「施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)1)」を平成30年に公開しています。そこには、「省エネルギーの取組では、まずは現在の暖房の⽅法に無駄なエネルギー使⽤がないかをしっかりと確認し、無駄をなくした上で、省エネのための設備や技術の導⼊へと取り組みを進めていくことが重要です。 」とあります。

 

本記事では、同マニュアルを参考に、厳寒期のハウス栽培で求められる省エネや機器利用について紹介します。

ハウスの保温性向上について

ハウスの加温栽培での基本項目としてあげられるのが保温性向上です。夜間に冷気が侵入するような隙間を無くすこと、保温性の高い資材で多重被覆を行うなどがあります。夜間にハウス内に入り、隙間風で冷気を感じることがあるかもしれませんが、それは日中には気付くのは難しく、マニュアルに従った点検が有効と考えられます。以下に同マニュアルから主要項目を引用(以下『 』内に示します)致します。

隙間対策による気密性向上

カーテン裾部の隙間

『カーテンの裾部が短かすぎることによる隙間、暖房時にカーテンがはためくことによってできる隙間に注意が必要であり、さらに、夜間は冷気が下降してカーテンが温室内側に膨らみ、温室内に冷気が侵⼊しがちです。』

※カーテンに対し固定の裾張や、最初から固定張されたサイドカーテンなどもみられますが、それら固定の保温資材と地際の間に隙間が生じないように、土を盛るなど対策が必要です。

 

出⼊⼝付近や妻⾯の隙間

『開閉により外気が侵⼊しやすい出⼊⼝付近や温室の妻⾯の隙間を点検し、内張カーテ

ンの多層化等により⾼い保温性を確保しましょう。 』


※出入口にはカーテンを垂らしても隙間が発生することが多い場所です。多層化で出来るだけ隙間の発生を抑える必要があります。

「施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)」より引用

多層カーテン肩部隙間

『2層カーテンの場合、1層⽬と2層⽬のカーテンの隙間をなくすこと、さらに、肩部

分を遮蔽することにより保温効果を⾼めることができます。』


※天井部にカーテンが展張されていても、肩部などに隙間があるケースがよくみられます。せっかくの保温効果が大きく低減してしまいますので、隙間がないかよく確認する必要があります。

「施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)」より引用

多重被覆による保温性向上・保温資材の利用

内張多層化

『内張カーテンの展張による保温効果は多層被覆とするほど⾼くなり(3層>2層>1

層)、また、天井だけでなく側⾯や妻⾯も⼀体的に多層化することで、より⾼い保温効果

が得られます。また、2層のカーテンが密着してしまうと1層カーテンに近い保温効果となってしまうので、多層被覆の際には結露⽔等で被覆資材同⼠が張り付かない程度の間隔を設けましょう。』

※同マニュアルでは、カーテンの種類や多層化による熱節減率が概数として示されています。また資材別の熱貫流係数(W・m-2・℃-1:断熱性を示す係数)も一覧化されています。

保温性の高い資材利用(カーテン資材)

アルミ蒸着資材などの反射性資材、空気層のある中空二層構造の資材、ポリエステル製綿をサンドイッチ構造ではさんだ布団資材など、主にカーテン用資材を同マニュアルでは紹介しています。カーテンは保温機能の他、遮光機能を兼用とするものも多くあります。特に二層カーテンの場合は、両方の機能を兼ね備えたもの、遮光専用や保温専用のもの、それぞれを選択して組み合わせる必要があります。

暖房機器利用について

加温が必要なハウス栽培では、暖房機の利用が求められます。暖房機には様々な種類がありますが、最も利用されている重油温風加温機ついて、一般的なメンテナンス方法が同マニュアルに以下のように記載されています。機器により方法が異なる場合があり、詳しくは取説を確認する必要があります。また基本的にメンテナンスのは、暖房開始前、または暖房期間中に行う定期点検作業になります。そのためチェックシート2)等の活用も推奨されます。

加温機は定期点検が重要

⽸体の掃除

『A重油に含まれる不純物は燃焼後にはカスとして⽸体に溜まります。燃焼カスが多く⽸体内に溜まると暖房機の熱効率の低下やバーナーの不完全燃焼の原因となります。また、このカスは湿気を帯びやすく、⻑期間放置しておくと⽸体の腐⾷を助⻑することがあります。熱効率を維持するために、また⽸体を⻑持ちさせるためにも、1 年に 1 回は、必ず⽸体の掃除を⾏いましょう。』

バーナーノズル周辺の清掃

バーナーノズル周辺の燃焼カスによる汚れは燃料と空気の正常な混合を阻害し、完全燃焼を妨げます。ノズル周辺は1ヶ⽉毎を⽬途に定期的に掃除をしましょう。また、ディフューザーが汚れていたら、ウエスやワイヤブラシ等を使⽤して汚れを落としましょう。』

バーナーノズルの交換

燃料噴霧ノズルは⾼圧で噴霧するため、使⽤とともに磨耗します。摩耗が進むと燃焼状態の悪化による燃料のムダ遣いとなるだけでなく、噴霧量の増加によって過負荷状態になり、異常な⾼温により⽸体を傷めたりすることがあります。暖房機の故障予防のためにも定期的にノズルの交換を⾏いましょう。』

※他にも、エアシャッターの調整、適切な燃料の使用について、同マニュアルに記載されています。

温度センサーの設置位置について

暖房機の動作をつかさどるのが温度センサーです。温度センサーの設置はユーザーにまかされたり、初期の工事の状態のままになっていることも多いと思いますが、正しい位置に設置されているかを確認する必要があります。誤った設置により過剰な暖房動作につながる場合もあり、注意が必要です。以下に温度センサーの設置(例)について引用します。

『ア 温度センサーは作物の⽣⻑点付近などの適切な⾼さに設置

イ 暖房機や送⾵ダクトの吹き出し⼝付近への設置は避ける→ 急激な温度変化の感知により適正な温度管理が困難になるうえ、運転・停⽌を頻繁に繰り返し、暖房機の故障の原因になりやすい』

「施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)」より引用

※作物によって設置高が異なるので、同マニュアルを参考にしてください。

省エネの温度管理技術について

以上は、ハウスの断熱性や保温性の向上、暖房機やセンサーのメンテナンスや設置など、ハード的な事項についてでした。その他、温度管理における様々な技術面の事項がありますので、ご紹介します。

 

作物の生育適温と温度管理

同マニュアルには、作物別の生育適温並びに限界温度(野菜)、切り花の冬期の標準管理温度、果樹の生育適温が一覧化されています。いずれも地域や品種などによって実際の管理温度は異なるため、確認が必要です。

 

最近は平均温度管理(積算温度管理)の概念が一般化しており、日平均気温を目標値に対し一定に保つことで、生育速度や開花日数、果実成熟日数などをコントロールしています。日平均気温を一定にすることで、例えば夜温を少し下げ、その分だけ日中の温度を少し上げるといった調整も可能になります。このことは日中の換気温度設定を高めにすることで、夜間の暖房温度設定を低めにすることにもつながり、省エネ技術としてもとらえることができます。

 

省エネ型の品種や作型への転換

作物の品種特性として、低温での伸長性や開花性、着果性等を持つものもあり、省エネ栽培での選択肢の一つになります。また作型をずらし、特に厳寒期に定植を行いハウスの管理温度を下げるなどし省エネ栽培を行う方法もみられます。いずれも収量や品質への影響も考えられるため、省エネ評価だけでなく、総合的な評価を導入前に行う必要があるでしょう。



温度ムラの改善(送風ダクト・循環扇の利用)

加温時のハウス内の温度ムラは作物の生育ムラに直結し、また無駄な加温により省エネ効果を妨げる要因になることもあります。そのため、温度ムラを多点温度計測により把握した上で、送風ダクトや循環扇の設置・配置によって解消することが求められます。


送風ダクトは暖房機からの送風配管から分岐させるものが主流になっており、近年は畝や栽培ベッドごとに設置する例も増えています。その際にも温度ムラがみられる場合に、ダクトの穴の開け方で調節したり、ダクト長で調節するなど、調整が行われます

ハウス内に設置された循環扇

循環扇はハウスの梁の上下に取り付けられ、ハウス内に循環気流を発生させ温度ムラの解消のために利用されています。その他に作物に風を当てることで蒸散や光合成を促す効果も期待できます。循環扇はハウス内に多数設置するもので、作り出す気流の方向を想定して適切な配置を検討する必要があります。設備業者との相談になりますが、既設ハウスの循環扇取付状況や生育状況も参考にすると良いでしょう

今後の省エネの考え方

以上、同マニュアルの内容を中心に、厳寒期におけるハウス栽培での省エネについてご紹介をしました。省エネには、投入エネルギー量そのものを減らす考え方と、投入エネルギー量に対する収量や売上を効率的に増すエネルギー生産性からの考え方の両面があります

近年は単収を向上させるため、日中加温や早朝加温など様々なエネルギー投入の技術が使われるようになり、エネルギー生産性の向上にもつながっています。

しかし原油価格高騰の中で、投入エネルギー自体を減らす生産者も増え、それに従って作型や品種の見直しもされつつあるようです。今後も一面的な考え方になることなく、投入エネルギー量とエネルギー生産性の両面を考察する必要はあるのではないでしょうか。

一方で、CO2排出量削減の流れが世界的に主流になり、国内でも2050年までにカーボンニュートラルを達成するよう長期戦略(みどりの食料システム戦略)が昨年公表されています。そこでは化石燃料の代替エネルギー(再生可能エネルギーなど)の利用の方向性も示されています。ハウス栽培での省エネの取組みは、そのような新たな動きの中でも継続する必要があると考えられます。

参考文献

  1. 農林水産省、「施設園芸 省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)

   2.農林水産省、「施設園芸省エネルギー生産管理チェックシート【改定版】

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