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植物(作物)の受ける水ストレスのメカニズムと影響~水ストレスを抑えた栽培管理とは~

水は植物の成長(細胞の肥大)や光合成の原料として使われています。一方で植物は根から吸水し、葉の気孔からの蒸散により水蒸気を放出します

 

気孔からの蒸散量は根からの吸水量に近いものであり、蒸散量に応じた潅水を行うことが重要です。また潅水量が不足すると植物は水ストレスを受け、様々な影響が現れます

 

ここでは、このような水の移動について、水ストレスの影響、およびそのコントロールなどについて説明いたします。

蒸散と吸水と水ストレス

気孔は夜間には閉じていますが、日中は開き蒸散が行われます。潅水不足などにより水ストレスを受けると気孔は日中でも閉じて蒸散を抑制します。また気孔には蒸散の他に、空気中のCO2を取り込む機能があり、水ストレスは光合成を抑制することになります。

 

気孔からの蒸散は気孔の開き具合(気孔コンダクタンスと呼ばれます)の他、空気中の湿度(飽差)の影響も受け、飽差が大きいほど蒸散は促進されます。また気孔付近の風速の影響も受け、ある程度までは風速が大きいほど蒸散は促進されます。

キュウリの葉

蒸散の促進により、潅水が十分であれば植物は積極的に吸水を行えます。植物の体内に水分が供給されて、細胞の肥大も促進され、節間の伸長や葉面積の拡大につながります。植物の細胞は細胞壁という繊維質で覆われていますが、その内部には液胞という水の含む膜があり、水分の供給によって液胞の容積も増加して、植物体の成長につながります。

このように蒸散と吸水と植物の成長は密接な関係にあり、水ストレスを少なくすることで蒸散と成長も促進されます。

環境制御と水ストレス

飽差は飽和水蒸気量(空気中に含まれる水蒸気量の最大値)と実際の水蒸気量の差のことで、飽差が大きいほど相対湿度は低い傾向となります。飽差は換気によりハウス内よりも乾燥した外気を導入することで上げることができます。またハウスの室温を上げることで飽和水蒸気量も増加し、飽差を上げることができます。飽差を下げたいときは、この逆を行うことになります。

飽差を上げるような環境制御を行うことで、蒸散を促進することができます

飽差の目安がわかる気象計

このように環境制御による変化によっても蒸散は影響を受けるため、植物が必要とする吸水量も変化します。環境の変化に応じた潅水を行うことは重要といえ、環境の変化に追いつけず潅水が不足すると植物は水ストレスを受けることになります。

近年は環境制御技術の高度化により、温度のみならず飽差の制御を行うケースも増えていると思われます。その効果を発揮するには環境制御だけではなく、潅水制御も並行して精緻に行う必要があると言えるでしょう。

水ストレスの及ぼす影響

水ストレスを植物が受けると、気孔の開度が低下して蒸散と吸水やCO2吸収が抑制され、植物の成長に影響を与えます。また強い水ストレスによって萎れも発生し、ダメージとなることもあります。

 

一方で適度な水ストレスを与えることで、成長を抑制して作業量や収穫量、収穫時期の調整とする場合も作物によってあります。作業が間に合わない時、相場低下の影響を回避するため収穫を遅らせたい時など、温度管理なども併用しながら調整する考え方です。

ゼロアグリで養液土耕をしているトマトハウス

また積極的な水ストレスの効果として、高糖度トマト栽培などにおける品質向上があります。これも強い水ストレスを与えると萎れが発生しますが、植物の状態を確認しながら潅水量を絞ったり、培養液濃度(EC)を上げたりし、水ストレスを与えます。

水ストレスを与えない栽培管理

施設園芸では高糖度トマト栽培など目的を持って水ストレスを利用する栽培方法もありますが、一般的には植物に水ストレスを与えずに成育を促進することが求められます。そのためには、地上部(ハウス内環境)と地下部(土壌環境)の双方を適切にコントロールする栽培管理が求められます。

妻面の換気窓

ハウス内環境では、適度な飽差を保つことがあり、そのためには換気を中心とした環境制御の利用があげられます。ただし天窓など換気装置の制御は温度調節を目的とすることが多いため、飽差の調節が難しい場合もあります。例えばハウス内温度を下げるため換気した場合に、乾燥した外気が入ると飽差は増大しますが、あまりに乾燥している場合には気孔が閉じて水ストレスを受ける場合もあります。そうした際にはミスト発生装置による加湿を行うこともあります。

 

土壌環境では、適度な土壌水分を保つことがあり、土質や植物の吸水量、地下水の影響など、これも複合的な要素の中で、土壌水分率などの指標を用いながら潅水量や潅水時間などを調節する必要があります。一般的には日射量に応じて植物の吸水量も変動するため、日射比例による潅水制御が行われています。そこでは潅水開始を行うための積算日射量や、一回当たりの潅水量など、様々な設定項目があります。そうした設置値が植物の状態(葉面積や吸水力など)に合致し、また土質(保水性など)に応じた潅水量であることが水ストレスの少ない栽培管理として求められます。

点滴チューブによる少量多潅水も有効

まとめ

水ストレスについて、水の動きや気孔の働き、潅水やハウス内環境との関係の中で説明をいたしました。このような複合的な環境の中で水ストレスは発生するため、植物の状態をよく観察し、成長の状況や特に生長点付近の様子に注意して栽培管理を行う必要があるでしょう。様々な機械により自動化が進み、スマート農業の進展で環境モニタリング等も容易に行えるようになっていますが、植物との対話も求められ、植物のストレス状態を感じられるよう観察力を磨く必要があると言えるでしょう。

 

 

(参考文献)

・狩野敦、蒸散と光合成に及ぼす影響、施設と園芸(2018秋)

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