養液土耕栽培では、液肥を用い潅水と施肥を同時に行います。あらかじめ濃厚液肥を作成し、潅水時に濃厚液肥を原水(井水など)と混合、希釈を行います。濃厚液肥の作成には市販の複合肥料の利用と、自分で各種肥料成分を配合する単肥の利用があります。本稿では複合肥料と単肥の利用について、また土壌分析に応じた肥料配合についてご紹介します。
複合肥料の利用
養液土耕栽培用の複合肥料は、一般の土耕栽培向けとは異なる専用の配合のものが販売されています。配合成分として窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)と微量要素(マンガン、鉄、ホウ素、銅、亜鉛、モリブデンの全部または一部)が含まれています。
複合肥料では、N、P、K、Ca、Mgの比率が異なる数種類の配合の商品が各社より販売されており、用途に応じた選択が必要になります。例えば、N、P、Kの比率が同じ配合のもの、いずれかが多いものや少ないものなどがあります。
複合肥料を利用する際には、濃厚液肥のタンクを1台とする1液型と、濃厚液肥を2種類に分けタンクを2台とする2液型があります。1液型の場合は、複合肥料を1台のタンクに5~10倍程度の倍率で希釈して濃厚液肥を1種類作成します。2液型の場合はさらにCaの補充用の濃厚液肥のタンクを1台追加する方法などがあります。
濃厚液肥は液肥希釈装置に送られ、さらに所定の倍率で原水により希釈が行われ、潅水チューブを通じて作物に与えられます。
単肥の利用
養液土耕栽培用での単肥の利用は、一般に複合肥料に比べた肥料コストの低減のために行われます。単肥配合では、N、P、K、Ca、Mgの主要肥料成分について、硫酸カリウム(KNO2)、硝酸カルシウム(Ca(NO3)2・4H2O)、第一リン酸アンモニウム(NH4H2PO4)、硫酸マグネシウム(MgSO4・7H2O)の単肥肥料が用いられます。微量要素は使用量が微小で計量等が困難なため、市販の微量要素配合肥料が用いられます。また微量要素では多く用いられる鉄については沈殿もしにくいキレート鉄が用いられます。
以上の単肥肥料と微量要素配合肥料などについて、作物別など所定の単肥配合にもとづき配合割合を求めます。2液型の濃厚液肥タンクを用意し、硝酸カルシウムや硝酸カリウム用のタンクと、その他用のタンクに、それぞれの肥料を投入します。投入前に各肥料はバケツなどに所定量を入れてあらかじめ溶いておきます。濃厚液肥の作成後の利用方法は複合液肥の場合と同様です。
以上のように、複合液肥の利用に比べ単肥の利用は、様々な計算や計量、肥料の希釈の手順があって、手間が必要になります。また計量等のミスが発生した場合、栽培に直接影響が生じるため十分な注意が必要です。単肥配合についての知識と慣れ、経験が必要になるため、コスト面だけではなく、それらの点を考慮して導入を検討すべきでしょう。
※単肥の例
土壌分析と肥料配合
養液土耕栽培では、土壌分析にもとづく肥料配合を検討する必要があります。分析により残留肥料分を求め、肥料配合を足し算引き算によって検討します。作付け前に土壌サンプルを取りJAなどに土壌分析を依頼することが多いと思います。分析結果と合せて肥料配合についての処方がされることもありますので、参考とします。
特に単肥の利用では、肥料コストの低減だけでなく、分析結果に応じて肥料成分の配合比率の調整が可能になります。複合肥料の利用では、出来合いの中からの選択となりますが、それに比べ自由度が高いと言えます。
今後の展開
養液土耕栽培では、複合肥料の利用が多く見られます。省力化を目的に養液土耕栽培に取り組むケースも多く、手間のかかる単肥の利用を避ける傾向があるのかもしれません。一方で、養液栽培では一定規模以上で肥料コストの負担が大きい場合など、単肥を利用するケースが多くみられます。養液栽培では土壌分析の必要もなく、作物などに応じた各種の単肥配合も用意されています。その点では単肥の利用が一般化されていると言えるでしょう。
養液土耕栽培においても、規模拡大などに応じて生産コストの低減を行う際には、単肥の利用も検討すべきことの一つとなります。その際は土壌分析、さらには作物の栄養診断などに応じた単肥配合を検討し、より最適な施肥設計を行うことも重要となります。
参考文献
安東赫、養液土耕栽培、施設園芸・植物工場ハンドブック(2015)