イチゴ育苗の体系について

栽培 病害虫

イチゴ栽培においての育苗は、収量と品質に大きな影響を与える重要な工程です。本記事では、種の保存に始まり、苗の増殖方法である栄養繁殖や近年普及が進む種子繁殖など、その体系について整理をしました。

イチゴの種の保存

一般的にイチゴは親株から同一個体を増殖させる栄養繁殖を行う植物です。そのため同じ親株を長年栽培をし続けることで、種の変異やウイルスの蓄積、病害虫による被害などを受けやすくなり、本来持つ品種の特性が発揮できなくなるリスクがあります。そのため、品種特性維持と健全な苗を生産者に供給するよう、原々種(げんげんしゅ)~原種~採苗用の親株という段階を踏んだ管理が厳密に行われています。

原々種は、組織培養によりウイルスフリー苗として増殖されたメリクロン(茎頂培養)苗です。原々種は品種の遺伝資源を維持するためのものであり、隔離施設内で病虫害リスクを極力排除した育成が行われ、次の段階の原種の増殖に用いられます。また遺伝的な変異についてもチェックが行われ、定期的な茎頂培養により更新もされます。原種は原々種より増殖されたもので、生産者への配布用となる苗の親となるものです。原種は原々種に対してロット管理が行われ、生産者段階で同じ原種を経年で使用していると劣化や病害虫のリスクが高まるため、定期的な原種の更新が行われます。原種の育成についても、土壌消毒や病害虫侵入防止などの対策が徹底して行われます。イチゴの品種は都道府県単位での育成が多く、原々種や原種の管理も都道府県やJAなどの組織により行われています。

一般的な栄養繁殖型品種に対し、近年ではよつぼしなどの種子繁殖型イチゴが新たに加わり、普及が拡大しています。種子繁殖型イチゴでは上述のような段階を踏んだ種の管理では無く、園芸作物では一般的なF1としての2つの親系統(母本と父本)が栄養繁殖で維持されながら、それらの交配により得られた種子を用いた苗を生産者が利用します。種子そのものの保存は一般的なもので、低温と低湿度が維持された保管庫で行われます。イチゴの種を維持保存する側の負担も栄養繁殖に比べ比較的軽いものと考えられます。

栄養繁殖の体系

親株の管理

イチゴは親株から伸びるランナーの先にできる子苗を増殖させる栄養繁殖が一般的です。そこでは、まず 前作での収量や品質に優れていた株や、新たに導入したウイルスフリー苗などを親株として選定します。春先に独立した育苗ハウス内で、親株を十分に消毒を行った培地を充填したポットなどに定植し、さらに重要病害である炭疽病やハダニの防除も徹底した上で、親株から充実したランナーを発生させます。

採苗方法

ランナーに付いた子苗を親株から採苗し、増殖を行います。採苗には「受け苗」と「挿し苗」と呼ばれる方法があります。

受け苗: ランナーが伸びた先にポットを置き、子苗を受けて発根させる方法です。親株から養水分が供給されるため、確実な採苗が行えます。近年は親株を地床ではなくベンチ上のプランター等の栽培容器内で育成する隔離栽培が主流となっています。これは炭疽病などの病害対策のためであり、また栽培容器からランナーが垂れ下がったところで子苗をポット等で受ける空中採苗方式も良くみられます。空中採苗では空間を立体的に利用することで、コンパクトな面積で育苗が可能になります。親株育成用の培地にはヤシガラやピートモス等の有機質培地とバーミュキュライトやパーライト、ロックウール等の無機質培地が用いられ、点滴潅水により液肥を供給します。

挿し苗: 受け苗と同様に親株を育成しランナーを伸ばし、発根前の子苗を親株から切断して、セルトレイや専用ポットなどに挿し木を行ってから発根させる方法です。大規模生産者を中心に行われ、一斉の採苗による均質な苗を大量に増殖する方法と言えます。萎れ対策と発根促進のため、ミストによる高湿度管理など注意が必要となります。

専用ポットでの育苗①
専用ポットでの育苗➁
セルトレイでの育苗(潅水チューブがセット化されたトレイ)

育苗時の病害虫対策

栄養繁殖では、前述の茎頂培養(ウイルスの入りにくい生長点付近を切り出した組織培養)によるウイルスフリー苗による親株の導入が前提になります。イチゴ栽培では育苗期の病害虫を徹底して防除を行うことで、本圃における安定的な収量と品質の確保や農薬使用量削減につながります。特に重要病害である炭疽病は土壌や潅水・水はねなどにより伝染しやすいため、注意が必要になります。

高濃度CO2施用による物理的防除

60%の高濃度CO2を充填することで、薬剤抵抗性を持つハダニ類を窒息させる防除方法です。シートで密閉したラック内に育苗トレイ等を置き、液化炭酸ガスを充填して高濃度に24時間程度保つことで防除を行います。定植後のハダニ出現と薬剤散布回数の低減に効果が期待されます。使用する液化炭酸ガスは農薬登録されたものが必要になります。

花芽分化促進

イチゴを栄養成長から生殖成長へ切り替え、確実な開花結実を促すための処理になります。重要なステップです。一般的な一季なり品種では、低温と短日の条件により花芽分化が促進され、またイチゴの体内窒素濃度を低下させることで生殖成長への切換えも促進されやすくなります。そのための方法として冷涼な地域での育苗や積極的な冷房の活用があります。冷房には短日夜冷処理と低温暗黒処理があり、前者ではハウス内での遮光による連続暗黒(16時間程度)と夜間冷房の組み合わせを行います。後者では暗黒空間(冷蔵庫)での低温短日処理を行います。これらの処理は年末需要期に向けた第一果房の開花を促進するものです。

夜冷育苗庫(右上のドアの奥に冷蔵施設がある)

その他に、紙ポット利用による培地での気化冷却効果を狙った気化熱利用による花芽分化促進も見られます。一方で近年の夏期育苗期の猛暑による影響で、年末期の開花結実が思ったように進まないケースも多発しています。そのため、育苗ハウスにおいてもより積極的な高温対策が必要とされています。

種子繁殖型イチゴ

これまでご紹介したような栄養繁殖による増殖から、通常の園芸作物のように「種から育てる」という新しいスタイルの種子繁殖型イチゴが登場し、新たな生産体系を構築しています。その特徴として、まず育苗期間の短縮があげられます。生産者のほ場では栄養繁殖で1年単位でかかっていた育苗期間が数か月単位に短縮され、管理の労力や心理的な負担も軽減します。また広い面積が必要であった育苗ハウスの省スペース化が可能であり、場合によっては購入したセル苗を本圃に直接定植することも可能です。また親株が存在しないため、病害伝播のリスクも少なく、健全で初期成育も良好なセル苗により、生産性の向上も期待されます。代表的な品種として、よつぼしがあげられます。これは三重県、香川県、千葉県と農研機構が育成したもので、商業化されたF1品種として、また連続して開花が進む四季なり品種として、全国的に利用されています。他にも民間企業が育成したベリーホップシリーズ、三重県が育成したうた乃など、新たな種子繫殖型イチゴの品種が登場しています。

今後の展開

イチゴの品種育成は今でも都道府県単位で盛んに行われ、栄養繁殖により種の保存と苗の増殖が繰り返されています。それらはイチゴ生産体系の根幹を成すものと言えます。一方で種子繁殖型イチゴが登場し、育苗管理や病虫害管理の省力化がはかられ、生産体系もシンプルな形に変わっています。人工光植物工場でのイチゴ生産でも種子繫殖型イチゴの利用が進んでいると言われています。このような新たな展開も進んでいますが、いわゆる「苗半作」が特に当てはまる作物であり、また高温による花芽分化への影響が顕著になる中で、今後も育苗技術の優劣が結果に直結するものと考えられます。

参考文献

  1. 齋藤弥生子、育苗技術 (2012)、イチゴ大事典
  2. 小山田浩一他、高濃度炭酸ガス防除法、植物防疫 第68巻第7号(2014)
  3. STRAWBERRY 天敵の利活用を柱としたIPM(総合的病害虫管理)の組み立て Ver. 2、全国農業改良普及支援協会
  4. 丸尾達他、種子繁殖型イチゴ栽培システムの実用化について、食と緑の科学第61号 (2007)

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。