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イチジク栽培の紹介~露地栽培・ハウス栽培・養液栽培など~

栽培 環境制御 養液栽培

イチジクは夏から秋を中心に出回る国産果実で、加工品以外の輸入品を見かけることはありません。生食用の他、スイーツや調理用の食材としても広く使われています。イチジクはイチゴのように長期保存が難しく、また比較的足の早い果実のため、国産品が強い品目とも言えるでしょう。イチジクの産地は愛知県、和歌山県、福岡県など西日本中心に分布していますが、近年は全国的な広がりも見せています。本記事ではイチジク栽培の現状と栽培の特徴を中心にご紹介します。

イチジク栽培とは

イチジクは果樹栽培としては比較的取り組みやすい品目です。挿し木による増殖が可能で、早期の収穫も望めます。せん定方法も定型化されており、栽培の初心者にとってもハードルは低いものと言えます。イチジクの樹は半高木性の落葉樹ですが、このようにスタートが切りやすい果樹のため、野菜栽培に近いイメージで着手する生産者もいるものと思われます。

全国有数のイチジク産地である愛知県のJA西三河ではイチジク専門の新規就農者向け講座「いちじくスクール」文献1)を開講しています。そこでは露地イチジク栽培のメリットとして、「植え付け2年目からの収穫と4年目に成木並み売上が可能」、「単位面積当たり所得が高い」、「栽培が軽作業で比較的簡単、脚立作業がなく、果実が軽量で運搬容易」などをあげています。一方で最初に労力が必要となる圃場整備に関して、JAを通じて必要な農機を貸し出す支援がとられ、また優良苗の共同購入なども行われています。こうした栽培上の特徴を生かしつつ、様々な支援体制のもとで産地の維持拡大が図られています。

前述の「いちじくスクール」のカリキュラムには月別にその内容が記されています。主なものを引用します。

4月:定植、誘引
5月:芽かき、誘引施設設置、除草
6月:誘引、追肥
7月:摘しん、着色管理、エスレル処理
8~10月:収穫パック詰め
11月:土づくり、土壌診断
12月:防寒対策、堆肥散布
2月:整枝せん定、基肥
3月:苗木掘り取り

収穫期を中心とした作業の山はあると思われますが、イチジク栽培ではこのように周年での作業が必要になります。また必要な費用として苗木や圃場造成などに80万円/10aがあること、定植後2年目以降は130万円/10aの売上を見込めることも記されています。なおここでの誘引施設は農業用パイプを組んだ比較的低い棚状のものと思われます。

全国のイチジク栽培

イチジクの産地は、栽培面積順では愛知県の107haをトップに、和歌山県、福岡県、宮城県、兵庫県と続きます文献2)。また収穫量順では和歌山県の1,768tをトップに、愛知県、大阪府、兵庫県、福岡県と続きます。さらに産出額順では愛知県の13億円をトップに、和歌山県、大阪府、福岡県、兵庫県と続きます(いずれも2022年産、文献2)より)。栽培面積では上位5県で全国812haのうち48%、収穫量では全国9,891tのうち67%、産出額では全国69億円のうち67%を占めています。他に東日本でも千葉県などに産地が存在しています。

イチジクのハウス栽培

全国のイチジク施設面積は81haで、うち愛知県と福岡県が24ha、その他に新潟県6ha、和歌山3ha、熊本4haなどとなっています文献3)。ハウス栽培では加温と無加温の両方式があり、加温により春先からの出荷も行われています。出荷時期の前進の他に降雨を防ぐことでの病害防止や品質向上も期待できます。全国のハウス栽培での収穫量は1,634tで、単収は2t/10aになります。露地では前述の全国の栽培面積と収穫量を当てはめた場合には1.2t/10a程度となり、ハウス栽培での生産性の高さが伺えます。またハウス栽培での出荷期間は露地より早い春先から初夏が中心で、販売単価の向上も可能となります。

文献4)の抄録にはイチジクハウス栽培の特徴が要約されています。その中で、収穫出荷労力が6割以上を占める(特定期間に収穫が集中する)中で、ハウス栽培による収穫時期分散による面積拡大が期待されることが記されています。イチジク栽培での企業的経営を目指す生産者も現れており、愛知県の事例文献5)では、ハウス30aと露地30aによる収穫期間拡大(収穫作業平準化)と共同選果による選果作業軽減が図られています。また大阪府の事例文献6)では、「ハウスの加温と剪定時期の調整で周年出荷体制確立」とあり、技術的な対応による平準化や規模拡大が図られているようです。

一方で近年のハウス建設コスト高騰の中で、イチジクハウス栽培の初期投資の回収も長い年月が必要になっていると考えられます。加温栽培の場合は、さらに燃料費の負担も加わります。そのため既存の野菜栽培用ハウスのイチジク栽培用への転換や、遊休ハウス活用などのパターンも増えていると思われます。石川県の事例文献7)では、水稲育苗ハウスの空き期間に養液栽培の一種であるコンテナ式やポット式の栽培を行う方法が紹介されています。樹体の移動が伴うものの、根域制限による効果で初年度から収穫が見込めるなどメリットがあるようです。

イチジクの養液栽培

前述の石川県の事例のように、コンテナやポットに培地を詰め、限られた培地容量での根域制限栽培の取組みも行われています。文献8)では移動が容易な軽量ポット栽培技術について紹介しています。市販の果樹用ポットに軽量培地を詰め、点滴かん水による栽培と初年度からの収穫が行われています。また愛知県碧南市で養液栽培によるミニトマト生産を行う(株)にいみ農園では、ハウスや露地でのイチジク生産にも近年取り組んでおり、その一部でコンテナを用いた養液栽培を進めながら栽培面積を増やしています。同社のインスタグラム文献9)では、ミニトマトなど野菜栽培の状況とともに、イチジクについても穂木となる苗取りの作業や圃場整備、コンテナへの定植後や誘引、収穫などの状況が随時公開されています。
筆者が初めてイチジクの養液栽培の現物を見たのは、千葉県柏市にある千葉大学環境健康フィールド科学センターの試験温室でのNFT栽培のものになります。そこでは毎年せん定による結果枝の更新が重ねられ太い幹となったイチジクが栽培されており、根域周辺には多様な生物相も形成されていました。千葉大学では根域制限による栽培の研究も進められており、樹勢管理のための地上部の大きさと根量のバランスが重要としています文献10)。また千葉大学とイチジク産地である千葉県市原市との共同研究も行われています。その研究成果について市原市では、土壌病害の心配が少なく初年度から収穫でき、新規就農・企業参入にも有効であるとし、栽培法マニュアルを作成し令和5年度から実証試験を産地に拡大、補助金交付などで実証と普及に取り組んでいるとしています文献11)

今後の展開

このようにイチジクではハウス栽培や養液栽培の取り組みも行われ、収穫期間の長期化や作業の平準化、さらに経営規模の拡大にもつながっています。またイチジク単作の生産者もいる中で、前述のにいみ農園のように他の品目との組み合わせによる複合経営の事例も多くみられます。

販売面では、産地による市場出荷の他、直売や調理用途向けの販売もあり、ジャムなどへの加工も行われています。国内での栽培は少ないようですが、皮が厚く水分の少ない品種は乾燥処理によるセミドライ化が可能で、トルコ産の甘さと芳香の強いセミドライイチジクが多く輸入され、製菓食材としての需要も大きいものがあります。今後はこうした品種や用途も踏まえ、イチジク栽培での新たな展開が生まれてくるかもしれません。

セミドライイチジクを練り込んだハード系ブレッド(著者作成による)

参考文献

  1. 露地いちじく専門新規就農者向け講座「いちじくスクール」、JA西三河
  2. 愛知県のぶどう・いちじく生産の概要
  3. 園芸用施設における栽培及び収穫等の状況(果樹)、農林水産省 園芸用施設の設置等の状況(令和4年)
  4. 鬼頭郁代、イチジク産業の現状と今後の課題 イチジクの施設栽培および肥培管理、果実日本 67(2012)
  5. 共同選果体制の構築で規模拡大~持続可能なイチジク産地を目指して~、愛知県農業経営課(2014)
  6. イチジク革命で周年出荷~もうかる農業で産地に活力を~、近畿農政局大阪府拠点
  7. 高級イチジク空きハウスで JAはくい実証栽培 初期費用抑え就農促進、読売新聞 石川のニュース 2025/10/13
  8. 中井洋子他、イチジク’桝井ドーフィン’の軽量ポット栽培技術、滋賀農技セ研報 53(2015)
  9. 新美康弘氏(にいみ農園)Instagram  @yasuhiro2130
  10. 大川克哉、イチジクの超密植根域制限養液栽培、養液栽培実用ハンドブック (2018)
  11. 無花果(いちじく)の先進栽培法試験〔千葉大学/農林業振興課〕、多様な主体との連携の成果について《1 産業経済・交流》、市原市
  12. 海外からイチジクの穂木や苗木を購入するときは注意してください!、植物防疫所

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。