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暖房について① ー温風暖房ー

暖房は施設園芸の環境制御における主要な要素です。化石燃料や電力、バイオマスなどのエネルギー源を用い、ハウス内を作物生育に適切な温度に保つことが、暖房の主要な役割になります。本記事では施設園芸では最も一般的な暖房の方式である温風暖房についてご紹介します。温風暖房では温風暖房機と呼ばれる暖房装置を用い、ハウス内に加温された温風を送風し暖房を行うものです。以下に温風暖房の仕組みや特徴と留意点、温度ムラ対策などについて記します。

 

(1)温風暖房の仕組み

 

温風暖房では、暖房機本体の大型のファンにより取り込んだハウス内の空気を、化石燃料(重油、灯油、LPガスなど)やバイオマス(木質ペレットなど)の燃焼により直接加温します。加温された空気はハウス内にファンによって送風されます。暖房機が稼働している間、ハウス内の空気を常に加温し続ける仕組みとなります。温風暖房機の構造は比較的シンプルで、本体内には燃焼用のバーナーと燃焼室、ファン、空気の吸気排気を取り持つエアチャンバー、排煙設備、制御装置等があります。また、煙突や送風ダクト、燃料配管、電源、センサー類が取り付けられます。

 

温風暖房では、暖房機をハウス内の端部や通路などに設置することがほとんどです。そのため燃焼による排気ガスをハウス外に放出するための煙突を持っています。煙突から外気への放熱もあり、温風暖房の熱利用効率(燃料の燃焼による発熱量に対しての暖房に利用される熱量の割合)は、0.8 ~ 0.9 程度といわれています文献1)

 

温風暖房では、エネルギー源となる燃油やガスの保管用に、タンク類をハウス外に設置します。これらの設置には法令により防油設備や管理責任者等の設置が義務付けられています。

 

(2)温風暖房の特徴と留意点

 

温風暖房では空気を直接加温するため、立ち上がりも比較的俊敏であり、制御もハウス内温度の変化に応じてon/offを行うといったシンプルな方法が取られています。また使用する暖房機の設置も容易で、設置後に配管、配線、ダクト等の取り付けを行うことで利用が可能です。温湯暖房のような大規模な配管も不要であり、比較的低コストで導入が可能な暖房設備と言えるでしょう。

 

温風暖房では、暖房機の定期的なメンテナンスが重要です。特に暖房開始期の前にはバーナーやノズル等の燃焼機器、燃料の濾過を行うストレーナ、燃焼室まわりなどの清掃や点検、必要に応じた部品交換等を行います。メンテナンス不良により、不着火等のトラブルの発生や燃焼効率の低下などにつながることも考えられます。詳しくは農林水産省の「施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル」文献2)をご参照ください。また木質ペレットなどのバイオマス燃料を用いる場合には、灰の処理など日常的なメンテナンスも必要となります

 

温風暖房では、気密性の高いハウスでは燃焼用空気の取り入れ口を設置に留意する必要があります。前述の「施設園芸省エネルギー生産管理マニュアル」には、下記の記述があります。

 

バーナーで燃油を燃焼させる際は⼤量の新鮮空気(出⼒10kW 当たり約 17m3/h または1万 kcal/h 当たり約 20m3/h)が必要になるので、保温被覆により気密性を⾼めた温室では、必ず燃焼⽤新鮮空気の取り⼊れ⼝を設けましょう。空気取り⼊れ⼝がないと空気不⾜による不完全燃焼が⽣じ、炉内が極端に煤け、煙突から⿊煙が出たり不着⽕の原因になりかねません。

 

(3)温風暖房での暖房機の配置

 

温風暖房では、最低気温や栽培温度、ハウスの面積や被覆資材の種類等より暖房負荷計算を行い、厳寒期の栽培に必要な熱量を計算し、暖房機の容量や台数を決定します。またハウス面積に応じて複数の暖房機を設置する場合が多くみられます。その際、ハウスの形状に応じ片寄りが少なくなるよう配置する必要があります。例えばハウスの片側だけに複数の暖房機を設置するのではなく、なるべく対称となるような位置に配置することが望まれます。

 

これは後述の送風ダクトの設置でも触れますが、加温時にハウス内の温度ムラを極力低く抑える必要があるためです。温度ムラがあると、作物の生育ムラや病害の発生につながり、また無駄な加温による燃料の使用量増大にもつながることも考えられます。

 

(4)温風暖房での送風ダクトの利用

 

前述のハウス内の温度ムラを軽減し、ハウス全体を効率的に加温するために送風ダクトが用いられます。送風ダクトは、温風暖房機の送風口のサイズに合う大口径のもの(親ダクト)と、畝ごとに配置する小口径のもの(子ダクト)を組み合わせることが多くみられます。送風ダクトの素材はポリエチレン系の透明プラスチックフィルムが多く用いられ、また親ダクトには耐久性がある織系素材のものも持ちいられています。

 

親ダクトは暖房機に直結し、なるべく作業の邪魔にならないようハウスの外周部に設置されることが多く、また親ダクトから子ダクトを分岐し畝や栽培ベンチ下に設置して、栽培空間をくまなく加温するようにします。

 

送風ダクトの設置例
出典:施設園芸省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)、農林水産省生産局

送風ダクト利用上の留意点として、下記のことが考えられます。

 

ダクトの空気抵抗の低減:ダクトの折れなどによる抵抗を排除し、屈曲箇所には専用のエルボーなどを用いて通風がスムーズに行われるようにします。

 

子ダクト長や子ダクト孔の調整:送風ダクト内を温風が流れる際に、ダクトフィルムからの放熱があるため、子ダクトの端部付近では温度を確保できない可能性があります。通常、子ダクトには小孔を開け温風を吹き出すよう用いますが、小孔の数や配置を調整したり、ダクト長そのものを調整すること、ダクトの末端を絞ったり開放したりすることなどで、均一な温度分布となるようにします。

 

温度ムラ改善のための調査と調整:暖房時のハウス内の温度ムラ改善は、難易度の高いものです。実際にどの程度の温度ムラがあるかは、作物の生育ムラからある程度の想定は可能ですが、正確な把握には温度測定が必要な場合もあります。そのため簡易なデータロガーを用いて加温時の温度推移や温度分布を把握したり、また最近はワイヤレスタイプの温度センサーを用いることもあります。そうした調査により、温度低下がみられる箇所には温風がより多く到達するよう、前述のダクトの調整を行うことになります。具体的なダクトの調整事例については、参考文献3)に「温度ムラ発生要因と対策」として詳しく紹介がされています。

 

(5)温風暖房と循環扇

 

温度ムラの改善のためには、前述の温風ダクト利用の他、循環扇の利用も考えられます。通常は両者を併用することも多くみられます。循環扇は温風暖房機内蔵のファンに比べると小型のファンであり、複数台をハウス内に配置し、ハウス全体に水平方向の循環流(強制対流)を生むような使い方がされます。

 

前述の「施設園芸省エネルギー⽣産管理マニュアル」には、循環扇配置のポイントと配置例について下記の記述があり、引用します。

 

ア 下左図のように、⾵の到達距離を⽬安に循環扇の設置間隔を設定しましょう。

イ 単棟ハウスなど間⼝の狭い温室の場合には、同⼀⽅向に送⾵して温室の下層部で戻りの気流が形成されるように設置しましょう。

ウ 連棟ハウスなど間⼝の広い温室の場合には、下右図のように複数の対流の渦が形成されるように設置しましょう。

循環扇の設置(例) 間口の狭い温室
循環扇の設置(例) 間口の広い温室
出典:施設園芸省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)、農林水産省生産局

今後の展開

施設園芸では最も一般的な温風暖房についてご紹介しました。温風暖房のエネルギー源は従や灯油、LPGといった化石燃料が大半を占めており、一部では再生エネルギー源となる木質バイオマスの利用も行われています。また電力により運転を行うヒートポンプの利用も一部で行われています。一方で、農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」文献4)では、2050年目標「化石燃料を使用しない施設への完全移行」に向け、2030年目標として「加温面積に占めるハイブリッド型園芸施設等の割合:50%」が掲げられ、ヒートポンプと化石燃料利用の暖房機の併用(ハイブリッド方式)が望まれています。現状は50%の目標値には及ばない状況ですが、今後はそうした技術の導入が一般的な園芸施設においても推進され、関連する技術開発や製品開発も活発化することも考えられます。

参考文献

1)林真紀夫、暖房、施設園芸・植物工場ハンドブック、農文協

2)施設園芸省エネルギー⽣産管理マニュアル(改定 2 版)平成30年10月、農林水産省生産局

3)宮崎県における大規模施設園芸対応型導入マニュアル(キュウリ、ピーマン) 令和2年3月、有限会社ジェイエイファームみやざき中央、宮崎県農政水産部農業経営支援課、宮崎県総合農業試験場、農研機構

4)みどりの食料システム戦略トップページ、農林水産省

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