暖房について②
ー温湯暖房と局所加温ー

ハウス

本記事では、温湯ボイラーでお湯を沸かしハウス内の配管からの放熱で暖房を行う温湯暖房について、またハウス全体ではなく局所的な暖房を行う局所加温の様々な形態についてご紹介します。

(1)温湯暖房

1)温湯暖房の仕組み

温湯暖房は、化石燃料(重油、LPG、LNG等)やバイオマス(木質チップ等)を温湯ボイラーで燃焼させ70~80℃程度のお湯を沸かし、熱交換器や貯湯タンクなどを介し、ハウス内の金属製パイプ(温湯配管)やファンコイルユニットなどの放熱装置にお湯を循環しながら暖房を行う方式です。温湯暖房では、お湯を沸かす仕組みと、お湯をハウス内に循環・放熱する仕組みが別々のものとなっており、温湯暖房とは異なり複雑なものになります。また燃料にLPGを用いる場合が多く、その際に燃焼ガスの一部をハウス内に導入し、CO2施用が行われます。

温湯暖房の仕組み概略図
大規模施設でLPGを燃料とし、排気ガスの一部をハウス内にCO2として供給する場合。
このほかに、熱交換器、ポンプ、三方弁、水温センサー、制御装置類などが装備されます。

温湯暖房はヘクタール規模の大規模施設に導入されることが多く、ハウスの別室としてボイラー室を設け、そこにボイラーやポンプ、熱交換装置、制御装置などを設置します。またハウス外に貯湯タンクを置き、温湯ボイラーによる加温を行います。CO2施用のためボイラーを日中に稼働させる場合などには余熱が発生するため、それを蓄熱する働きもあります。貯湯タンクからハウス内の温湯配管にお湯を送り、ハウス内で放熱して温度が下がったお湯は貯湯タンクに戻されます。その際のお湯の流量を弁などで制御することで、ハウス内の温度調節を行う仕組みが取られています。その際に配管内の行きと戻りの箇所のお湯の温度やハウス内の気温がモニタリングされ、制御に用いられます。また貯湯タンク内のお湯の温度もモニタリングされ、目標とする温度となるようにボイラーの運転が制御されます。

以上のように温湯暖房では、何段階かにわたって熱交換や伝達、放熱が行われ、お湯の搬送距離も長いことなどから、熱利用効率は0.6~0.8程度と、温風暖房の0.8~0.9程度よりも低いものになっています文献1)

2)温湯暖房の特徴と留意点

温湯暖房は温湯配管からの放熱による加温が行われ、送水停止後も配管内にはお湯が残るため、余熱による放熱が続きます。また配管内のお湯の温度も温風暖房での熱風に比べ、比較的低温であり、温和な暖房となります

オランダ型大規模施設では、ヒートレールと呼ばれる放熱配管と作業台車レールを兼ねたものが、栽培ベッド間の通路にくまなく設置されます。またハウス側面にも温湯配管が積み重なれつように設置され、ハウス全体を均一に暖房するような配管のレイアウトが取られています

温湯暖房では、大規模な配管、複雑な熱交換や熱伝達の設備を要することが多く、設備費は比較的高額なものとなります。そのため、洋ランなど付加価値の高い作物の栽培や、大規模施設を中心に導入が行われています。

温湯暖房の導入における留意点として、温湯ボイラーの能力だけでなく貯湯タンクの容量によってもハウスの暖房能力に影響が出る点があります。これはボイラーによって直接ハウス内を加温するものではなく、貯湯タンク内のお湯が持つ熱量によって暖房が行われるためです。小容量の貯湯タンクの場合、ハウス側の暖房の要求に対し熱の供給が追い付かないことも考えられます。こうした点は設備設計の専門家の意見や実際の導入例などを参考にし、十分に検討する必要があると考えられます。

なお温湯ボイラーのメインテナンスは、清掃や点検箇所の多い重油燃焼タイプの温風加温機に比べ、比較的簡便なものと言えます。一方で長い配管の中で空気がたまる箇所がある場合には、エア抜き等が必要となります。

3)温湯暖房でのCO2施用

前述のように、LPGを燃料とした温湯ボイラーでは、排気ガスの一部をハウス内に供給することでCO2施用が行われています。排気ガスも加温された状態のものであり、供給の際にハウス温度も上昇します。そのため、クーリングタワーなどの排気ガスを冷却する設備を導入しハウス内温度の上昇を防止する場合もあります

そうした冷却設備を用いない場合には、燃焼ガスによるCO2施用は行わず、代替として液化炭酸ガスを利用することもあります。この場合はハウス内温度への影響は無く、春期~夏期などにも自由にCO2施用が可能となりますが、液化炭酸ガスタンクや気化装置、CO2施用のチューブ配管などの設備投資と液化炭酸ガスの購入が必要となります。

(2)局所加温

ここまでの記事では、ハウス内全体を暖房するための温風暖房と温湯暖房についてご説明をしてまいりました。その一方で、ピンポイントで暖房を行う場合もあり、局所加温と総称しています。局所加温には様々な形態があり、一律の定義は難しいため、以下に例をお示しします。また局所加温によりハウス全体の暖房負荷を小さくし、省エネ化をはかる場合もみられます。

1)培地加温

イチゴの高設栽培や、果菜類の隔離栽培などで、培地を加温し根圏温度を確保することが一部で行われています。その場合には温湯暖房によりお湯を培地内に設置した樹脂配管(耐熱性のPE管など)内に送り加温を行います。配管は行きと戻りの2本が設置され、長い栽培ベッド全体をなるべく均一に加温するようにしています。

培地加温に用いられる温湯ボイラーは小型のものでハウス内に設置されることが多くみられます。ハウス内設置により配管長をできるだけ短くし、放熱によるロスを防ぐ目的もあります。

2)株元加温(クラウン加温)

イチゴの高設栽培では、培地加温の他にクラウン加温と呼ばれる株元加温が行われる場合もあります。イチゴの株元に当たるクラウン部には成長点があり、冬期に生育適温の 20℃前後に制御することで生育の安定化を図るものです文献2)。この際に2連式の特殊形状のチューブを株元に設置しお湯を送水してクラウンを加温する方式があります。お湯は培地加温と同様に温湯ボイラーを用いる場合と、ヒートポンプチラーを用い冬期は加温、夏期は冷却(花芽分化促進のため)に用いる場合があります。なお電熱線を株元に設置して加温のみを行う場合もみられます。

3)生長点加温

イチゴのクラウン加温では生長点がある株元付近の加温を行っていますが、茎が伸びる作物では高い位置にある生長点や開花花房の付近を局所加温する場合がみられます。例えばオランダ型のハイワイヤー栽培では、上下可動式のヒートパイプと呼ばれる温湯配管を栽培ベッド上に設置し、生長点付近を加温する方式がみられます。また生長点付近だけではなく、果実付近を加温し、果実の着色や成熟を促進することも行われています。

なお日本型の温風暖房では、温風ダクトの設置位置を地面付近では無く高い位置にして、生長点や開花花房の付近の加温も行う場合がみられます文献3)

4)ベンチ加温

鉢花のポット栽培や、野菜苗や花苗のセルトレイ育苗において、ベンチを用いる場合がみられます。ベンチの面は腰付近の位置にあるため、作物が空中に浮いた状態で放熱がしやすい環境にあると考えられます。そのためベンチ面の直下に温湯パイプを密に設置して、ベンチ面全体を暖め、作物や培地を加温することが行われています。その場合にも温湯ボイラーが用いられます。

5)原水・培養液加温

養液栽培や養液土耕栽培を行う際に、原水や培養液を大型タンクにためて利用することが行われています。タンクが低温となる場所に設置されている場合には、厳寒期に水温が低下して低温の培養液が根圏に供給され、生育への影響が懸念されることも考えられます。そのため原水や培養液のタンク内に熱交換用の金属製や樹脂製の配管を設置し、お湯による加温を行う場合があります

参考文献

1)林真紀夫、暖房、施設園芸・植物工場ハンドブック、農文協

2)イチゴのクラウン温度制御実証技術マニュアル 平成23年3月、栗原地域農業研究・普及協議会、宮城県農業・園芸総合研究所、宮城県栗原農業改良普及センター、栗っこ農業協同組合、(有)ファーム千葉

3)暖房のための燃料消費量を削減するトマトの生長点近傍局所加温技術、農研機構

■執筆者:農業技術士 土屋 和(つちや かずお)
育苗装置「苗テラス」の開発など農業資材業界での経験を活かし国家資格の技術士(農業部門)を2008年に取得、近年は全国の施設園芸の調査や支援活動、専門書等の執筆を行っています。

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