導入事例

絹島グラベル 長嶋様(栃木県・トマト)|収量拡大だけじゃないIT農業の効果

「どこでもトマトの状況が確認できて安心」 収量拡大だけじゃないIT農業の効果

設置場所
所在地 栃木県宇都宮市
栽培作物 中玉トマト、ミニトマト
作型 夏秋長期(4月中旬~11月下旬)
抑制長期(6月上旬~5月下旬作) 越冬(8月下旬定植~翌6月下旬作)
施設面積 30a
導入機器
ZeRo.agri-2500
ゼロアグリ 1台
点滴チューブ てんすい
液肥 トミー液肥ブラック
「本質的に産業として認めてもらうため、将来的には法人化を目指したい」 そう語るのは、トマト農園 絹島グラベル代表の長嶋智久さん。実家が代々続く米農家だった影響もあり、父親のパソコン販売店に6年間勤めた後、2007年にトマト農家となりました。数年は生活するのに精一杯だったといいますが、中玉トマトの栽培が軌道に乗ったことを機に、規模拡大への思いが徐々に強くなっていきます。 規模拡大に向けて、最初は水管理を見直したいと考えていたところ、偶然の出会いから、ゼロアグリの導入を決めます。温度や水分量をセンサーで測定し、作物に合った水と肥料を自動で供給することで「収量拡大だけではなく、遠隔地でもスマートフォンやPCからトマトの状況を把握できるようになった」という、長嶋さんが体験した変化に迫ります。

地道な積み重ねをおろそかにしない

―長嶋さんが農業を始めたきっかけについて教えてください。
実家が代々続く農家だったことの影響が大きいです。実家は3町5反ほどの米を育てていましたが、私の父親の代から米だけで生活していくのが難しくなったため、ガソリンスタンドや農協で兼業をしていました。途中から「第2種兼業農家」(兼業所得の方が農業所得よりも多い農家)となり、米がオマケのような形になっていましたね。
農協を辞めた後、父親はテレビゲームやパソコンを販売する店を始めて、私も学校を卒業してから6年間はそこで働いていました。しかしテレビ通販が流行した時期から下火となり、「そろそろ潮時かな」ということで専業農家になっています。
―お米は継がなかったのですか?
父親が農業者の確定申告のサポートをしながら、今でも米を育てています。米だけで生きるのは厳しいと分かっていたので、私は園芸作物を何か作ろうと決めました。
栃木県には、生産拡大を後押しされている園芸作物があるんですよ。イチゴ、トマト、にら、アスパラガスの4つで、実際に4品目の農家を見学に行ってトマトに決めました。
―専業農家になってから順調に進みましたか。
自分の経営が軌道に乗っているか確認する余裕もありませんでしたね。トマトを作ることだけに体も頭も動かしていましたが、今思うと無駄なことが多かったなと思います。5年目になって、初めて「トマトをちゃんと栽培できた」という感触がありました。
―5年で一人前になれたというイメージですかね。 5年目で0.2人前くらいかな(笑)経営的に本当に大変な時期もあって、サラリーマン時代の貯えもないし、横のつながりもない中で、方向性に悩むこともありました。でも私の場合、子どものためにお金を稼がなければいけない状況だったのが大きかったですね。
1つの転機となったのは、3年目から大玉だけでなく中玉トマトの栽培を始めたことです。1年目から直売所に置かせてもらっていて、売るためにはどうしたらいいかと考えていたときに、地元の直売所に中玉トマトがないことに気が付きました。そこで、3年目の夏に中玉トマトの栽培を始めてから、状況が変わっていきました。4年目には冬も栽培を始めて、だんだん中玉トマトの面積が増えていき、今では97%が中玉トマトです。

うまくいかなくて気持ちが沈んでいると、家族を心配させてしまうので、気持ちの持ち方は難しかったです。とにかく結果につながる行動を、歩みを止めないで進めていく。一攫千金ではなく、地道な積み重ねをおろそかにしないよう心掛けました。

―栽培方法で力を入れている点はありますか。
ウォーターカーテン栽培を導入していることです。冬をまたぐトマトのハウス栽培は、暖房機を使用するのが一般的です。私たちは鬼怒川の伏流水をくみ上げて、シャワー噴霧することで、暖房機を使わなくてもハウスを断熱保温できるようにしました。


ただ、この栽培方法では湿度が上がってしまい、灰色かび病になりやすいです。事実、3年目までは10トン収穫できても、4トンは灰色かび病で捨てている状況でした。そこで、湿度やカビに強いヨーロッパ系の品種を導入することで、この課題を解決しています。

本音ではITを導入したい農家も多いはず

―ゼロアグリを導入しようと思ったのはなぜでしょうか。
これまで妻は忙しいときだけ農作業を手伝っていたのですが、子育てが落ち着いたり、私が規模拡大を目指したりといったタイミングで、農業に興味を持ち始めたのがきっかけです。妻が栃木県の「農業女子プロジェクト」に参加させてもらい、栃木県のアグリビジネススクールを受講しました。その時に、ITシステム「ゼロアグリ」を提供するルートレック・ネットワークス社のアドバイザーの方に出会い、サービスを紹介してもらいました。

水のやり方を間違っていても、トマトは著しい間違いをしなければ枯れることはありません。そこで満足するか、疑問を持つかだと思うのですが、私の場合はお金を稼いで生活することが当初の目標だったので、生活できると満足してしまう自分がいました。ところが1~2年安定してきたころに、規模を拡大したいと思い始めたんですよね。

肥料を増やしたいとか、面積を増やそうとか、さまざまな方法はあるのですが、私は今まで当たり前に行っていた水管理を考え直したいと思っていました。70%正解だった水管理を100%にすれば、収量が増えるという意味です。もともと環境制御に興味があったので、販売担当者に直接サービスの話を聞いて2016年にゼロアグリ導入を決めました。

―導入した効果はどうでしたか。

1年目なので正確には分かりませんが、少なくとも30%は収量が増えると思っています。他のITシステムは高価だったり、データを計測するだけだったりします。ゼロアグリは計測だけでなく、地下部の環境を最適に整えるよう制御まで実行してくれます。限られた予算の中で、かん水を最初から最後まで自動化してくれるのは他になかったように思います。

また、地温や土壌水分量などのデータは常にクラウドに蓄積されていて、スマートフォンで確認できます。常任理事を務めている全国野菜園芸技術研究会の活動で家を離れることもありますが、外出先からトマトの状況が分かるので安心です。

―ITを取り入れる抵抗感はありませんでしたか?
むしろITを導入していない農家に抵抗があります。Amazon(アマゾン)は朝に頼めば夜に届く時代になったのに、農家はハンドバルブで水を出しているままで良いのかと。農業分野に参入するIT企業も出ているわけですから、農家もITを柔軟に取り入れるべきではないでしょうか。初期投資がどうしても必要だし、ITシステムにもさまざまな種類があって二の足を踏んでいるだけで、本音は導入したい農家が多いと思いますよ。

トマトを愛してくれる方々も大切にしたい

―生きていけるだけの収入を確保できればいいという方もいると思いますが、長嶋さんが規模拡大に向けて舵を切ったのは何か理由があったのでしょうか。
父親の知り合いにNECを辞めて、同じくパソコン販売店を始めた人がいました。辞めたのは1990年前半だったので、NECが全盛期だった時期ですよね。何で辞めたのか聞いてみると「NECを辞めたんだから、それ以上に良い暮らしがしたい」と語っていました。つまり、NECという肩書を捨ててきたのだから、そこで働くよりも収入を稼ぐぞという意味です。独立する人は、このようなマインドがないとダメと痛感させられました。
私たちの家族は、テレビ通販の流行とともに店をたたみましたが、その方はパソコン販売店が下火になったときに、外食産業など複数の事業を展開して、今も社長として健在です。上昇志向を持つことの大切さを知ったことが、今に活きていると感じます。

また、憧れる先輩をよく見ていると、常に余裕があるんですよね。自分のことを後輩として優しく接してくれたり、間違ったときには諭してくれたり。人間誰しもがそうだと思うのですが、時間や経済的に余裕がないと人に優しくできないと思います。だから、私は経済的にも精神的にも余裕がある状態でいたいという気持ちがあります。


―業界全体に対する課題感などはありますか?
宇都宮市PTA連合会にも所属していて、小中学校に大学の教授を招いて講演してもらいました。その方の話で印象に残っているのが、働き方改革です。年功序列の雇用システムが崩壊して、年金がもらえるかも分からないため、働き方に関する改革意識はどんどん進むことが予想されます。私はその流れが、農業にも及んでいると感じました。
今までの園芸農家は、栽培した作物を農協に持っていき、売り方は任せていました。だから消費者がどのような買い方をしているか知りません。しかし、生き残るためにも消費者の声を聞いて、他にない付加価値を追求する必要があるのではないでしょうか。

―ありがとうございます。最後に、今後の展開や抱負を教えてください。
将来的には、法人化したいです。本質的に産業として認めてもらうためには、信頼が必要です。それが法人化だと私は考えているので、多少血を流してでも規模拡大やパートさんの福利厚生のために整備したいと思っています。

また、いつも直接トマトを買いにきてくれる方に「長嶋さん、愛されるものを作ればいいんです」と言われたことがありました。その言葉が非常に印象に残っていて……。法人化とは相反するかもしれませんが、販路拡大といった結果だけを求めて行動するのではなく、今私たちのトマトを愛してくれている方々も大切にしていきたいです。

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